事務方に提出する科研費申請書がなんとか間に合い、やっと仕事以外の本が読めると思ったら、週末は京都出張だった。

 年々、並行処理が苦手になっている。半分仕事、半分趣味の読書の備忘録。

 

 

 マランにとっての病

 

 同一性の本質的要素がずれる(p2)

 固有性を消す(p4)

 固有のリズム、内なるメロディーを奪う(p32)

 主体の剥奪と、他有化の感覚(p55、68)

 自分の身体がよそよそしくなる(p55)

 失墜の感覚(カンギレウム p3 別の人間になることとも述べている 訳注1p10)

 

「自分の皮膚のなかにうまくおさまらない」

 自分の身体と身体把握の間、現実と内面化された身体図式の間に隔たりが生じる(p59)

 

 自己の風合い(gout)の欠如

 風合い:その人特有の姿、手触り、テンション、肌のきめ、髪のボリューム、知覚の鋭敏さ、身動きのリズムなどの身体的署名。この束が同一性(p60)

 自己の感覚は習慣的経験に根差す(p44)

 

 幽霊(クッツェー 移ろいやすさ、失われていくことを表現 p27-28)

 振り子(ピエール・ザウィ 動揺を表現 p30)

 「自分自身の影」(p32)

 

 同一性の基盤の不在が顕わになる(p87)

 同一性が人為的なことを示す(p88)

 自己の不変性が幻想であることを明らかにする(p5、84) 

 

 固有の時間性をもち、独特の遅さ、特有のリズムをもつ生(が病 p6)

 

 ある種の病気:同一性の再形象化、新たな同一性の出現(p22)

 統合失調症などの場合:同一性は不安定で、散漫(p18)

 自閉症などの場合:同一性の動揺ではない(p18)

 

 

 マランにとってのいわゆる「治療」

 

 暴力を内在する(p106)

 

 

 マランの考える真の治療

 

 生の躍動、生と人生への信頼を取り戻す(p9)

 自己創造の反復(p94)

 自己の再教育(p112)

 統一性と同一性の感覚の再創造、自己の風合いを再び見出す(p97、110、127)

 自己の風合いと、自己への配慮と、自己愛を再び出現させる(p63、104)

 

 マラブーの「新たな同一性」に対して:

 全く別の誰かになるのではない。「新しい皮膚」をまとう

 思考と身体の新たな習慣に基づき、新たなヴァージョンの中で自分自身であり続ける

 内なる構造の再配置。非意志的なものの新たな形、組織化された全体の創出

 かつての私を破壊するのではなく、よそよそしくなった心身を別様の私にする

 以前の同一性の乗り越え(p92-93、111 皮膚についてはp118、124)

 

 苦痛は完全に消えない。生の一部にする。否定的経験を受け入れ、内面化する(p109)

 内省による知的な理解でなく知覚の拡張。病のしるしを自己のうちに組み込む(p110)

 

 病気になる前にはあまり目立たなかったなような、その人ならではの性質や能力を出現させる(p112)

 

 成長を促す(ウィニコットから p104)

 主体として迎えられる(Francois Ansermetから p105)

 

 治療者のまなざしや手に触れることで、主体は立ち現れ、あるいは再生する(p116)

 触れる:他者への関わり、注意、配慮を表し、身体の新しい輪郭を意識することでもある(p114)

 誰かに語る、苦しみや不安を物語る、言葉にする。答えを期待しているのではない(p123)

 

 統合失調症などの場合:何らかのルーティンに組み込み、反復の力で不安定な存在を補強する(p18)

 自閉症などの場合:その人本来の同一性に戻るという意味での治癒はない。増悪と寛解の不安定な均衡だけ(p19)

 

 治療によってどうなるか:

 一人でいられるようになる。自分で自分を支えられるようになる。

 自分自身と和解し、自分を守ってくれる人がいなくても、つぶれてしまう心配をせずにいられるようになる(p102)

 

 身体的、心理的、人格的な親密さをもつ支援の再構築を伴う(p103 正直意味がわからない。治療自体も変わる? 宿題


 

 <メモ>

 マランの議論はメンタルヘルス領域にかなり当てはまる。

 治癒は、単に病前に戻ることではないし、全く「新しく生まれかわる」などというスピリチュアルなことでもない。

 病前と少し違う自分になる、特に「病前には目立たなかった性質や能力が前景化する(p112)」という視点、あるいは表現は重要。

 

 「知的理解でなく知覚の拡張」「病の内面化」は参考になった。

 私の言い換えなら、病をbegreifenするのではなくaneignenするに変わる。

 「知覚の拡張」は、苦しみや痛みなどの閾値が変わる、抽象的には、身体感覚や心理的感覚の受け取り方が変わる、だろうか。

 

 

 

 シーズンなので、来月も出張がいくつかある。

 準備で本が読めない。

 どれも移動距離が短いのでやはり本が読めない。

 

 窒息死してしまいそう。

 

 

 

Marain C: La maladie, catastrophie intime. PUF, Paris, 2014

鈴木智之訳:「病い、内なる破局」 法政大学出版局、東京、2021