私が尊敬する兄貴ぃから、サインをしてもらうために購入したという、クルレンチィス指揮のモーツァルト「レクイエム」のCDを頂戴しました。

 なんでもクルレンチィスさんが、兄貴ぃの指定したところでない場所にサインをしてしまったので、買いなおしたそうで。

 なので、なんとサイン入りです!

 

 サインって権利問題があるのか分からないので、念のためと考えてお見せできないのが残念ですが、私世代の方ならウルトラマン兄弟のサインみたいな形(?)だと思ってください(ホントです)。

 

 さて、あまりに個性的なクルレンチィスの演奏で聞き比べをしたくなり、CD棚をみると「あれ?こんなのあったけ」が。

 とはいえ、私のCD棚にあったのは、アーノンクール新盤とケーゲルのCDだけでした。

 他は売ってしまったので、「あれ?こんだけだったけか」という驚きも・・・。

 

 まずはアーノンクール。

 実演をNHKホールで聴きましたが、なんだか引っかかるような不思議なリズムだったことを覚えています。

 特に冒頭はイエスさまが十字架を背負って足を引きずっているかのような「流れない」音楽で、「ああ、アーノンクールだなあ」と思ったような。

 それと合唱の人数が驚くほど少なく、NHKホールではちょっと音量が小さかったように思います(バッハのミサ曲ロ短調と記憶違いをしてる?それとも北海道まで追っかけて聴いた方かな・・・)。

 しかし、CDでは全然印象が違う。

 言葉のイントネーションを優先しているのだろうなあという演奏で、「あれ、こんなに普通の演奏だったけ?」と驚きが。

 クルレンチィスを聴いてしまうと、かつては異様な演奏に聴こえたアーノンクール盤が、「貫禄あるオーセンティックな演奏」に思えてしまうから、時の流れとは恐ろしいものです。

 

 久しぶりに聴いて面白かったのがケーゲル盤。

 攻撃的なのは、たとえばテンシュテットと少し似ていますが、根っからの熱血漢のテンシュテットと違って、ハイテンションと攻撃性が混じり合いつつどこか空虚なところがケーゲルらしい。

 でもそういうことで「面白かった」のではありません。

 

 他の盤と明らかに違った点が、オーケストラと合唱のバランス。

 明らかに合唱が前に出ている。

 もちろん録音技術の問題かもしれません。

 情報量が少なくて素っ気ない解説を読むと(この素っ気ない解説も、何か違法なものを手に取っているようで薄ら怖い)、ケーゲルは少年時代に合唱団に入ろうと考えていた時期があったそうで、指揮者としても声楽に力を入れていたそうです。

 なので、合唱を重視した演奏をしてもおかしくない。

 

 そもそもレクイエムのもともとの意味を考えれば、オーケストラの音よりも言葉が前に出てくるべきですよね。

 ケーゲルを聴いて、「あ、これでいいのかも」と納得しました。

 

 そう思うと、クルレンチィスの演奏、ますますやり過ぎな感じがしてきます。

 ディエス・イレなどは(想像通り)合唱より楽器が思いっきり前に出ています。

 とはいえ、クルレンチィスの演奏に「やり過ぎ」って、「寿司になんでワザビを入れるんだ、バカやろー」と文句を言っているくらい筋違いなのは重々承知のうえでの感想です。

 あくまで比較の問題です。

 オーケストラの不思議な演奏(コル・レーニョ?らしき音が聞こえるとか、途中で鐘がなるとか)が楽譜通りなのかわかりませんが(たぶん違う)、どうして「こうしなければならないか」が今一、よくわからず、この激しい演奏、モーツァルトは草葉の陰で泣いていないだろうかと余計な心配をしてしまいます。

 でも、弱音が素晴らしいし歯切れ良いし、合唱のアーティキュレーションもアーノンクールとは違った音楽性があって愛聴しています。

 いえ、今や、もっとも好きな演奏です。

 

 ケーゲルに戻りますが、彼は彼で、ラクリモーザ以後の演奏の力の入れ加減が露骨に変わる。

 ドミネ・イエズではテノールが音を外していますがそのまま(! 収録にライブと書いていないのですが・・・)。

 最後のコンムニオは前半の使いまわしがあるからか変な力こぶが戻るのですが、それまでの曲については「俺は第四曲あたりからモーツァルトの音楽とは思ってないからな!」という感じなのでしょうか?

 

 

 あとカップリングがストラヴィンスキーの「結婚」なのですが、これも意図的なのか偶然なのか、意図的なら鎮魂歌に結婚の民謡からとったバレエ音楽を組み合わせるというセンス、私は好きです(← いつもながらひねくれている)。

 

 こちらもまったくおめでたい音楽には聴こえないのですが、わかりやすいリズムの揺れがないので踊りやすそうです。

 こっちの演奏は、ストラヴィンスキー、草葉の陰で喜んでいるような気がします。

 余計なことをせずに冷徹なまでに演奏に徹する。

 かといって、機械のような面白みのない演奏でもなく、変な圧がある。

 

 

 ケーゲルは30年くらい前に、クラシック音楽オタクの間で一時流行しましたが、古楽器演奏が普通になった近年は、攻撃的な演奏が当たり前になっているので、却って今、聴く方が楽しめる気がします。

 

 

 

 

W.A.モーツァルト「レクイエム」

ニコラウス・アーノンクール/ウィーン・コンツェントゥス・ムジーク/アルノルト・シェ―ンベルク合唱団 BMG 2004年(2003年11月ライブ)

テオドール・クルレンツィス/ムジカ・エテルナ/ニュー・シベリアン・シンガーズ Alpha 2019年(2010年収録)

ヘルベルト・ケーゲル/ライプツィヒ放送交響楽団/同合唱団(ストランヴィンスキー:バレエ・カンタータ「結婚」カップリング)  Dreamlife 2008年(1955年収録)