私の尊敬する兄貴ぃhttps://ameblo.jp/lecture12/entry-12564532166.htmlが「二度買いしちゃったから」とくれたCDです。

 これ頂戴してから、何度聞いたことか。

 兄貴ぃは昨年の来日公演を聞いたそうです。

 私は失念して聴きそびれました。うらやましい。

 

 さて、このCD。

 実はさっき本を読みながら聞いていたのですが、だめです。

 本を横に置いてしまいました。

 CDの選択を誤った。

 

 とにかく、こんなに音が隠れていたのかと。

 たとえば第四楽章で金管が鳴りまくりの裏で、ティンパニや弦が第一楽章の冒頭リズムやメロディの変奏を演奏しているとか。

 普通は金管しか聞こえません。

 ええ!こんなだったの!と驚愕。

 

 なにしろ、こんなに音の遠近感を感じたのは初めてです。

 たとえば、あるフレーズを演奏させても、べったりと同じ音量にしない。

 フレーズの頭のアタックを強くして、お尻は消えるように演奏させるので、フレーズによって楽器が違うことや、運動方向が違うことなどが、とてもクリアに聞こえます。

 

 このフレーズが「消える」が一番素晴らしい効果を聴かせるのが第三楽章です。

 楽譜を読めないのでおおよその演奏時間になりますが、開始5分目あたり、あれここにティンパニ?とか、あれ弦は刻んでいたのねなどの発見以外にも、本当に歌っているような艶めかしい演奏で、美しいの一言です。そのあとの、ちょっと不思議な「泣き声」のような弦とか。

 ここ、こういう音楽だったのですね。

 カウベルのあたりも普通ヴァイオリンばっかり聞こえるのだけど、本当は複雑な音作りしているのですね。

 第二楽章も、どこか可愛らしい演奏です。

 決して「悲劇の前の束の間の時間」という感じだけではない。

 

 とにかく飽きません。

 マーラー、この曲をこういう感じで演奏してほしかったのねと・・・私は楽譜を読めないのでわかりませんが・・・そう思わされる、あるいは納得させられる演奏です。

 

 よくマーラーは舞台裏で演奏させるとか、別の場所で金管を吹かせるとか、変なこと(すいません!)をしますが、そんなことは不必要といわんばかりの演奏です。

 「普通に」各パートの音量をコントロールすれば、そんなことはしなくてもいいということなのでしょうか(録音技術もある?)。

 すごいぞ、クルレンツィス。

 

 一番説明しやすいのが第四楽章の例の「木槌がーん」ですが、死ぬほど聴いたバーンスタインだと、「運命の打撃」の直前を激しく演奏させて、さらにすっごいテンポをためにためて、ちょっと間をおいてガツーンとやった後、絶望感を漂わせたようにテンポをがくっと落とし、そのまま徐々にテンポを落としつつすべての楽器の音を弱め(弱音というより音圧を下げるというか・・・)に演奏させます。

 私はその部分を聴くたびにマゾヒスティックな悦楽に浸ったものですが(ああ!人生は絶望でしかないのだ!! ← ただのバカ)、クレンツィスはそういうことをしない。

 

 直前はむしろ金管は抑え気味で、ガツーンは普通のテンポで(ながら聞きだと、あれ?終わった?みたいな)、そのあとはとんでもない速いテンポになります。

 もちろん、よくあるただ速いだけの演奏ではないです。ちゃんと強弱が考えられています(あんなに速いのに!どんだけ練習したのだろう・・・)。

 

 バーンスタインの大時代的な、ちょっと歌舞伎っぽいというか、どこか演歌っぽい「悲劇」ではなく、もはや人間の力では制御できなくなった激流の「悲劇」といった様相で、今の私的にはこちらの方が腑に落ちます。

 

 純音楽的に聴かせようという配慮があるのか(?)、鞭やトンカチの音はそれっぽくない。

 言い換えれば、何か特殊な楽器でも使っているのかなという音。

 なので「描写音楽」のようにならないし、妙にやかましくもない。

 かといって、冷たい演奏では決してない。

 テンポは激しく動くし、デュナーミクの幅は大きいし、アクセントのつけ方も独特。

 そして、何より、もう歌いまくりです。

 でもバーンスタインの「ああ!悲しいよー」とは違う歌い方です。

 どこか楽観的というか。

 

 私はマーラーを実演ではあまり聴いていなくて、ブーレーズさんのような「もっと歌おうよ」演奏(ブーレースに「歌え」が無理ですね。でも第四番だったからいいっす)とかサラステさん(マーラーのこと嫌いですか?と尋ねたくなるくらい涼しい第6番でした)、あとは「もっと静かに丁寧にやろうよ」演奏のゲルギエフさんの第六番くらいです。

 

 ベストはコンセルトヘボウ時代のシャイーさんが振った第三番です。

 終楽章のあまりの美しさに一人で号泣し、「絶対、神さまはこの世にいて、世界は愛で満ちている!」と感極まった記憶があります(← たぶん、間違いなく脳内に変な物質が出ていたと思います)。

 ただ、シャイーさん、CDだと私は感動できません。

 単純なことですが、あまりにもテンポが遅くて音楽に聞こえない!さらに平坦な印象しかないし。

 

 という訳で、やっと期待の方が!

 

 クルレンツィスさんはチャイコフスキーだと変な・・・もとい個性的な演奏ですが、You tubeにあるブルックナーの第9番(オケはNDRなので彼が本当にやりたいことかは不明)とマーラーの第3番は、オーセンティックな演奏に寄っていて、かといって今申し上げた美点はそのままなので、非常に素晴らしいです。

 

 ぜひCDで、いや実演で聴きたいものです。

 

 また来日するそうですね。

 ああ、ブルックナーやってくれないかなあ。

 

 

 

 

テオドール・クルレンツィス指揮「マーラー 交響曲第六番」 ムジカエテルナ

SMJ  2018年 (2016年録音)