10人の総理の妻またはお妾さんを紹介する・・・・という体で、実は総理自身の「男としての器」を評論している本。
面白い視点です。
時代や人脈、運などの制約がある仕事の業績なんかより、どういう女性をパートナーとして選んだか(選ぼうしたか)の方が、人柄がクリアにわかります。
取り上げられているのは、伊藤博文、大隈重信、山本権兵衛、桂太郎、山縣有朋、原敬、高橋是清、犬養毅、近衛文麿、東条英機。
本屋で見つけて即購入です。
冒頭に紹介されていた、伊藤博文さんの奥さんとの出会いがいかにも幕末っぽくて無茶苦茶かっこいい。
この箇所を立ち読みして購入を決めました。
あと、ええ!という方を伊藤博文はお妾さんにしていて驚きました。
伊藤公のバックアップがあったからこそのご活躍かと納得。
謎が多いけど(p34)、きっといろいろあったのかなあ、だから早稲田大を早くから共学にしたのかなあ(p48-49)という大隈重信も興味深かったです。
高橋是清、あまり知らないので漠然と「思い切った経済政策をとる豪快な人」と思っていたのですが、若いころのエピソードのうっかり屋さんぶりが(p147-149)、別の意味で豪快でおかしかったです。
オダギリ・ジョーって、年取るとショーケンになるのでしょうか(←訳の分からない方は検索してください。NHKがキーワード)。
見直したのが、山縣、桂です。
私が読んだどんな本でも悪役だった山縣。
直近なら「昭和天皇物語」(能條純一)でもそう。
てか、あの漫画、原敬が下を向くシーンなんかあると、原が「あんた、背中がすすけているぜ」といつ言いだすか、ドキドキしてしまいます。
能條さんも、ナレーション(?)にでっかい明朝体を使うのを最初のころは控えていたような印象だったのですが、だんだんやっぱり出てきてませんか?
そのうち、支那事変なんかで中国に駐屯している兵士とかが麻雀をうっているシーンなんか出てくると思うんです。
その時には竜さんのおじいちゃん(かお父さん?)らしき人が、あんな佇まいで麻雀うっているシーンとか描いてくんないかなあ。
で、同僚兵士からは「哭きの辰」とか呼ばれていたりしてね。「あいつとは、絶対、デカピンでやるな」とか言われていたりして。
・・・・話がそれました。
話を戻して、福田先生の書きっぷりの影響もあるのか、もう少し山縣のことを知りたくなりました。
本屋で評伝を見かけたので、読んでみようかなあと思います。
桂太郎。
山縣の後ろ盾で、”無駄に”長く総理をやっていたのかなあと思っていましたが、認識を改めました。
もともと軍人だった。そしてその働きぶりが立派なこと(p80-82)。
日露戦争というと秋山兄弟のイメージですが、あの時の首相は桂太郎だった(知りませんでした!)。
そして彼はかなり上手に動いていたらしい(p87)。
考えてみると当前なのですが、勝ったといえるのか微妙なあの戦争を「うまく終わらせることができた」のは桂の手腕もあるのですね。
すっごい見直しました。
もう一つ面白かったのが、時局と首相の人柄の関係性です。
前半は、女性からみるとかなり困った、癖の強い男たちばかりなのですが、だんだんあの戦争に近づくにつれ、”いい人”が首相になる。
これ、なんでしょうか?
満州の動きを放置(現場は事態収拾を図ったのに、「大衆の声」、要はマスコミにおもねって近衛は逆に動いた)、実体不明で結社としか言えない大政翼賛会ができるのも放置した近衛の評価は、福田先生的には「日本の総理では最低点」(p199)。
私もある本を読んでから嫌いな人物ですが、ご本人は進歩的思想の持ち主で、パートナーを階層のことを気にせずに選んでいて、偉ぶらないよき家庭人なんです。
あと、2.26で対ソ戦略の皇道派がいなくなり、対米強硬派の統制派が陸軍の主流になったのは戦前日本の不幸の一つですが、さらに満州に左遷されていた統制派の東條が帰京するのももう一つの不幸。
そして、本来は「陸軍を抑える」目的で首相を拝命するという・・・・・
でも、東條、いい夫婦関係なんです。
読後、しばし、これまでの自分のことをぼんやりと考えてしまいました。
ほとんど振られた好きになった女の子たち、女性たち。
そして、私を拾ってくれた妻。
彼女たちを鏡にすると、私はどういう人間なのかなあと。
今のところの結論は・・・・・考えるのやめます。
既婚男性の方、ご自分を振り返るのに面白い方法ではないかと思います。
福田和也「総理の女」
780円+税 204ページ
新潮新書
ISBN 978-4-10-610811-2