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手術室発、日本の医療へ

毎日の麻酔業務におけるミクロなことから始まり、そこから浮かんでくるマクロな日本の医療全体についてまで、感じること、考えることを書き残していきます。専門的なことも書きますが、一般の方にも読んでいただければと思います。

ちょっと物騒なタイトルですみません。

昨日、ご存知のとおり、我が病院グループの幹部が逮捕されました。
本当に中心になって支持していた人物が逮捕されていないのですが、
一部でも幹部が逮捕されたというのは、それはそれで由々しきことであり、
真摯に受け止めないといけないことかと思います。

われわれ、組織の末端の人間にとっては、あまり関係のないことであり、日々の日常診療には影響はないことを祈るばかりですが、要は、これを機に、いままで以上に、よい医療を提供する、人々の役に立つ医療機関であることを目指したいものであります。

創始者の絶大なリーダーシップでここまで成長してきた病院グループですが、
そろそろ、次世代のリーダーによって、これまでの土台にさらに質の向上ができるよう積み上げて行ってほしいものと思います。

今回の逮捕が、われわれの組織にとってのよい区切りとなり、よい再スタートを切れることを祈りたいと思います。
例年、心臓手術というのは季節性があって、

やはり冬になり、寒くなると心臓発作が増え、大動脈の解離、動脈瘤の破裂なども増えるのが常である。

よって、寒さが厳しくなる1-2月くらいからぐっと手術が増えて、その波が6月くらいまでつづき、7月から12月くらいまでは
比較的夏枯れというかスローダウンするのがパターンである。

しかし、どうも今年は例年とはちょっと違うような感じである。

夜間休日の急患でくる、解離、破裂などが今月もかなり送られてくる。
それもこれまではあまり紹介してこなかった近隣の病院から。。。

多少なりとも、心臓外科学会の定めた専門医制度、修練施設の認定基準がすこしは効いてきているようである。
年間50例以下の施設は認定がされず、専門医も維持できないということになっているようなので、
そのような零細施設は心臓外科手術はしない方向になっているようである。

そもそも名古屋地区は、病院が乱立していて、患者の取り合い状態であった。
心臓外科の集約化とは程遠い状況が続いていたが、このところの急患の増え方を見ていると、
どうも、すこしは集約化への道が見えてきているかのようである。

さらには、麻酔科もこのエリア、非常に手薄く、公立病院ですら、麻酔科常勤がどんどんと少なくなっている様子。
麻酔科による影響も多少は有るのかもしれない。

市場の原理にまかせていては、いつまでも集約化はすすまないのは明らかで、
やはり、学会主導、あるいは政府行政の主導による医療の集約化が望まれる。


先日、久しぶりに昔の同僚から電話があった。

最近どうしているのかとおもいきや、茨城で麻酔のバイトをしていると。

そこで、最近、TCIの導入をしてもらおうとしたら、反対されて、
挙句の果てには、麻酔は自分たちでできるから、そんなことするなら来なくてよい、とまで言われたそうな。。。


茨城といえば、全国でも麻酔科医の不足している有数の県で、そのような事情になっているとは。

要は、ふだんから、麻酔科医がいないところでは、各科による麻酔が必然的に行われており、
それで事足りてしまっているということなのだろう。

私が以前から危惧していることは、すでに麻酔科医過疎の地域では始まっている。

単なる麻酔のかけ手は外科医に取って代わられる時代になっている。

良い意味で、麻酔科医の存在意義を考えなおしてみる時期だろう。
先月よりいろいろとマスコミを賑わせている、我が病院グループであるが、
正直、現場の人間にとっては、あまり関係ない。

日常の業務は、かわりなく毎日過ぎていく。
患者も特に何をいうわけでもなく、以前と同様に、手術を受けて帰っていく。

しかし、以前からわかっていたとはいえ、グループで上がった利益が、
一部親族の懐に流れ、あるいは、選挙の資金に使われ・・・という内情に加えて違法行為があったとなると心中穏やかではいられない。

病院としては例外的なほどの利益率を上げている当グループであるが、
それは、従業員の給料をとことん削り、納入業者からの費用をとことん削って得た利益である。

それを従業員に還元するわけでもなく、法律違反となる目的に使用されていたとなると、これは、問題であろう。

経営を上手くやって、得た利益を経営陣が受けるのはそれは勝手であるが、それが、違法行為に使われており、さらに、その要員として職員も違法行為に駆りだされていたわけであるから、ちょっと問題であろう。

病院の法務はどうなっていたのか。
コンプライアンスなど、お構いなしか。

そのような風潮がグループ全体に流れると、
これはもう組織として、規律の維持が難しくなるかもしれない。

早くに違法行為を行った罪は償い、グループの規律を維持に務めてほしいものである。


先日、遠い病院から、腹部大動脈瘤破裂の患者がドクターヘリを使って運ばれてきた。

陸路車で搬送されれば、片道3時間のところが、ヘリを使えば20分。
破裂しかかっているものでも、なんとか間に合うというわけだ。
素晴らしい時代である。

ただし、運ばれてきた患者の状態を見て???
意識がない。
途中まで鎮静をされてきたというが、血圧の低下で鎮静を中止したにもかかわらず意識がないのである。
気管挿管されているので、呼吸はきちんとコントロールされているのだが、
はて、どうしたことかと、頭のCTをみると、(・_・;)
硬膜外血腫ならびにくも膜下出血まであるではないですか。。。

しかし、すでに患者はオペ室のなか。
紹介元の件もあるので、とりあえず、オペは開始したものの、
そんな頭蓋内出血した患者にそもそも腹部大動脈瘤の手術適応はない。
手術自体は無事に終わったが。。。。

患者の年齢が80を超えているのもさることながら、手術の適応のない患者の搬送に
コストが莫大にかかるヘリを使うとは。。。

これもすべて、国と自治体の税金からでているわけで、
医療費もさることながら、無駄なコストはこうして日々使われている。

同じ医療人として、なんともやるせない気分になる。

急患では、送る側も受ける側も評価が甘くなりやすいが、
そこは、やはりきちんと見ていく必要があるだろう。
無駄に税金を使わないためにも。


私の勤務する病院は、特に心臓手術を必要とする急患への対応が非常に早いことは自慢できるかと思う。

先日も、他院から搬送されてきたLMT病変の患者に2本バイパスを置いてICUに退出するのに、
救急外来に到着してから、ICUまでほぼ3時間だった。
特に、そこまで急ぐ患者ではなかったが、急患対応力は非常に高いものがあると思う。

昨日も、夕方6時過ぎに、70代の男性が大動脈解離で1時間半かかるところから搬送されてきた。
救急車内で、血圧が触れなくなり、脈も徐脈に。患者の意識もなくなっていた。
外来到着後すぐに、胸骨圧迫をしながら、手術室に入室。

運良く、血圧が少々戻ってきて、その間に動脈圧ラインをとり、挿管、中心静脈圧ラインをとると、
すぐに執刀。
最初は心タンポナーデかと思われたが、実は、解離が冠動脈まで及んでいたための、心筋虚血によるショックだった。

すぐに人工心肺を立ち上げると、冷却。循環停止。
上行大動脈置換と、冠動脈バイパスを追加で行い、無事に手術終了。

循環も安定して、ICUへ。

そこまで、しばし時間はかかったが、それでも日が変わる前だった。

本日はなんと、そのおじいさん、意識もはっきりして、抜管されていた。

あそこで、もし、手術開始までに30分もかかっていたら、あの患者は助かっても
かなり重症なダメージを受けていたかもしれないと思うと、我ながら、当院の急患対応は素晴らしいと思う。

大病院では、ここまで、小回りは効かないのだろうかもしれない。
小さな病院ならではの機動力を改めて感じた。

頑張っているのは、有名病院だけではないぞ、っと。
昨日、一昨日と2日間にわたって、当院の麻酔科に見学者があった。
なんと、現在鹿児島の病院に勤務されているとのこと。

心臓手術の麻酔に興味があるのに、なかなか地元では心臓麻酔に携わる機会が少ないので、心臓手術麻酔ができるところを探していたところ、当院を見つけたとのことだった。

実は、最近とある大学で講演を頼まれていて、準備をしているが、
厚労省が発表した2010年度のデータによると、人口10万人あたりの麻酔科医の数は
12人超の鳥取県を筆頭にトップ10はすべて10人超である。しかも全てトップ10はすべて西日本の県。九州4県、四国2県、中国4県である。もちろん鹿児島もしっかりと5位にランクインしている。

対して、麻酔科医の数が少ないワースト10はというと、
一位の新潟を筆頭に、秋田、三重、茨城、埼玉、千葉、愛知、岐阜、静岡
とすべて東日本。東海4県はすべてランクインしており、あとは東北、関東エリアが
相対的に足りていないようだ。
人口10万人あたりの麻酔科医の数は、ワースト1の新潟が4人台、ランクインしている
下位10県はすべて5人台である。

昔から言われていたが、西高東低の気圧配置ならぬ、麻酔科医分布は変わっていないようである。

そして、気に留めていただきたいのは、
麻酔科医の多い県と少ない県では単純に麻酔科医の数がほぼ2倍の差があるということ。
マンパワーは2倍であるが
担当する症例数は1/2となるということ。

これは平均的な値であって、施設によってはもっと差がでるとういことである。

もちろん、人が少ないとなると、労働条件が過酷になるとか、
教育が行き届かないとかいろいろ問題はあるかもしれない。
しかし、ある程度の初期教育を受けて、トレーニングを積んだ若い人には、
実践経験が必要である。

その段階では、経験できる症例が豊富な地域にでないと、
そこから先に実力を伸ばすことはできないだろう。

たまたまであるかもしれないが、今回の見学者の行動は、
ある意味、非常に合理的だったと思う。
初期教育は層の厚い九州で受けて、
実践経験を積むために、麻酔科医の少ないエリアの病院に
移動を考えている。
こうした動きは是非とも、広く支援したいと思う。

麻酔科医の多い地域にいれば、仕事量は少なくてすみ、楽かもしれないが、
若いうちから楽していては、よい臨床経験ができず、結局自分の技量が伸びない、
そうなれば、結局救える患者も救えないということにもなりかねない。

もっと日本の麻酔科医には、こうした地域格差に目を向けてもらって、
若いうちに是非とも有意義な経験を積めるべく、地元にこだわらずに、
移動してもらいたいと思う。

地域の偏りがなくなることで、すこしでも、安全な麻酔が提供され、
また、若い人にも有意義な研修、経験が積めることができれば
麻酔科医個人にとっても、また日本全体の医療にとっても
一石二鳥となろう。

こうした動きがもっともっと、広くなるよう、願ってやまない。
若い人に、もっと勇気をもって、外に飛び出してもらいたい。



先日、久しぶりに元居た職場で一緒に働いていた面々で、今は全く別々の職場で働いている人たちと食事をする機会があった。

愛知県の事情もさることながら、東京近辺の事情もなかなか寒いようだ。

毎年あふれるほどの入局者が殺到するというJ大やY大などが勝ち組としているなか、
他の私立大がなどで苦戦している大学は多いと聞く。
実際に、数年前に医局員が全員退職してしまい、崩壊した大学病院の麻酔科では、
主任教授が新たに選ばれ、数年たって医局員も何人か増えたとは聞くが、まだまだアルバイトで人を雇わないと日々手術がまわらないという。

現在教授選をやっている某私立大学では、ここ数年、常勤だけではまわらず、非常勤麻酔科医を雇うことが常態化して、それが普通の状態になっているという。

都心にある某私立大学も、手術数の年々の増加に耐え切れずに、麻酔科医が退職しつづけ、ついには、半数以上を非常勤で賄わないといけない状況になっているという。

数年前に10人以上の入局者があった有名私大の麻酔科も、教授が交代したころから求心力を失い、いまでは、手術がまわらない状況だという。

ただいま教授選の真っ最中という私立大学も、麻酔科医不足が問題になり、
通常の論文業績だけで主任教授を選んでも発展する保証がないことから、
まったくの論文業績もなく、麻酔に関する実績もたいしてないような人物を主任教授に選ぼうとしているという話も聞く。

まさに私大では一部の麻酔科を除いて、ほぼ全滅状態かというくらいにひどい。
しかし、医育機関がそんな状態でいいのだろうか。
東京がこのざまでどうするのだろうか。

ところ変わって、当院のある愛知県。
先週末には、急患で運ばれて手術になった患者がいたが、
前医は近くの当院よりはるかに大きい公立病院の外科。
なんと、患者の状態があまりよくないが、麻酔科医が不在のために、
外科の自科麻酔では不安でということで、麻酔科医のいる当院に転院搬送されてきた。

さらに事情をきくと、その公立病院、常勤麻酔科医が先月で退職して、残りが一人二人とか。。。
700床ちかくの大きな病院で、手術もおそらく年間5000件ちかくあるだろう。
そんな病院で、常勤麻酔科医が一人二人?ありえない。

まさに先日書いた、自科麻酔の状況がこの愛知県でも常態化していくというのが現実のようだ。

こうした話を聞くにつけ、一般病院で、そのような自科麻酔が増えるのは必然としても、
有事にトラブルシューティングができるプロの麻酔科医がいないとどうなるのだろうか。
患者が結局痛いしっぺ返しをくらうような気がする。

我々麻酔科医は、やはり、きちんとプロの麻酔科医を育てていかないといけないし、
そうした将来を育てられる医育機関の麻酔科を絶対につぶしてはならない、
それは、もう日本の医療政策として誘導していかねばならない、
そのように思うこのごろである。

手術の集約化が、麻酔科医がきっかけとなって、加速度がついていくような気がしているのは
私だけだろうか。複雑な心境である。



先日、当院で東海地方初の植込み型人工心臓の装着術が行われた。

手術は問題なく終了して、マスコミ各紙、テレビ局でもニュースとして報道された。
当院としてもある意味、こうした先進医療ができる施設としての知名度を高めたことで、
今後の発展にも大きく役に立つことだろう。

ところで、報道でも言及されていた、この人工心臓の費用だが、
なんと、保険償還価格はおよそ2000万円だ。
もちろんその他に、手術料、入院費用、毎日の機械のメンテ代など
もろもろかかることになるわけで、手術を受けた当初一年の総医療費は
軽く3000万円を超えることになるだろう。

テレビでも報道されていたように、この費用に対しては、もちろん健康保険が適用され、
高額医療費制度、第一級身体障害者適用などをうけることで、
患者の実質医療負担額はほぼゼロ円だということだ。

受ける患者さんにとっては非常に有難い制度である。
国がすべて負担してくれるおかげで、寿命がのびるのであるから。

しかし、これまでにもブログで書いてきたように、この国の医療費は年間39兆円を越えようとしているにもかかわらず、税収はそれと同じくらいしかない。いくらアベノミクスがうまく行っても、
税収を超える医療費をかけていては、この国に将来はない。
人工心臓の植え込み費用は、全体の医療からすれば、誤差範囲内かとも言われる額かもしれない。先に講演にこられた、某大学病院の先生も、「人工透析にかかっている費用に比べれば、人工心臓の費用など大したことはない」と言っておられたが、確かにそうなのかもしれない。
しかし、一人の、しかも平均寿命の4分の3以上を生きた高齢者に、数年の寿命をのばすためだけに、このような高額の医療費をかけていられるほど、この国は豊ではないはずだ。

常々主張していることだが、これだけの医療費をかけるのであれば、この国の将来を担う若い人、恵まれない子どもたちに、教育の機会を与える、あるいは、トレーニングの機会を与えるほうがよほど国としての将来に違いがでてくるのではないだろうか。

為政者の人たちには、一日も早く、こうした社会の矛盾を是正して欲しいと思う。
自分がこうした医療に携わっていることを誇りに思えないのが心苦しい。
木曜から開催されていた麻酔科学会。

年に一回の麻酔科医の最大の学術集会である。
それだけに、多彩な領域にわたる研究成果が報告されている。

研究をして新しいことを発信していくのは好きな方であるので、
できることなら、いろいろな研究を行いたいところであるが、
実は、今年は何も発表はない。

臨床業務の忙しい市中一般病院にいる私としては、基礎研究はもちろん言うまでもなくできないが、なかなか時間的な余裕がないことと、症例が集まらないこともあり、正直まともな臨床研究はできないと、半ばあきらめている。

当院の特徴である、心臓手術ですら、年間250件しかない。そして、そのなかで条件を揃えようと思うと、弁手術、CABG、大血管などが混在しているので、
それぞれの症例が年間数十例単位でしか集まらない。それぞれの手術術式により、もともとの疾患も違うわけで、術前の患者の状態もまちまち。

しかも、それらの中には、緊急手術、定時の予定手術により、状態は大きく異る。

極めつけは、当院でも術者による差が大きくでる。
術者により、出血量、手術時間、患者の予後などは大きく異なる。
ばらつきが大きすぎて、一年程度の少数の症例では有意な結果など出せるはずもない。

そして、これらの条件を揃えようと思うと・・・絶望的になる。

もちろん、それでも、条件しだいによっては、有意義な結果を出すことはできるかもしれないが、かなり難しい。

やはり、施設は集約しないことには、こうした臨床スタディですら思うようにできないし、もっと言えば、多施設前向き研究でないと有意な結果は導き出すことはできないだろう。
それを行う意味でも、中小規模の施設を数多く集めても、ばらつきが多いので、ある程度の規模の施設で、症例を集めないと、条件の揃った結果を集めるのも容易ではない。

日本で多施設研究がやりにくのも、このためである。

麻酔科学会の発表をみていると、施設限定のローカルな少数の事象から得られた偶然の結果に考察を加えて発表しているものが多くみられて、少々閉口した次第である。
意味のないことに時間を費やす暇はあまりないだろうに、発表する方もご苦労様であるし、そうした意味のない結果を聞かされる方もよい迷惑であろう。

学会に行って、さらに、施設の集約化の重要性をまた感じた。