酒を飲めないから、さすがに酒の味については書けません(笑)。

 しかし、酒が絡んだ物語や歌は大好きだ。『酒とバラの日々』と『失われた週末』は、命がけで酒を飲む男や女の物語だった。『駅馬車』には大酒のみの医者が出てくる。『荒野の決闘』のドク・ホリデーは切なくなるような酒飲みだった――ドクが酒場で、ハムレットの有名な一説「生きるべきか……」を、ならず者に囲まれて立ち往生している役者のかわりに語る場面は、胸にぐっと迫るものがあった。

 小説で言えば中島らもさんの『今夜、全てのバーで』は今でもときどき読み返す。『深夜ブラスワン』に登場するガンマン、ハーベィ・ロベルも好きな酒飲みです。そうそう、映画で 言うと『アマディウス』の中でモーツアルトがワインを飲みながら、手にインクをつけつつ、譜面を書いている場面も好きだ。

 歌でいうなら、柳ジョージさんの『ひとり酔い』。この曲を和田アキ子さんが歌ったときは凄かった。シャンソン『ろくでなし』にも酒が登場する。浅川マキさんのアルバムに入っている『あなたなしで(Trying to live my life with-out you←オーティス・クレイですね)』という曲も確か酒に絡む曲だった(煙草は五箱で、片手にはコップ酒――そんな歌詞があったような、もし間違っていたらゴメンナサイ)。

 印象に残っている酒を飲む場面は色々とあるけれど、いまふと浮んだのは、

『新宿アウトロー、ぶっとばせ』

 これです。

 いわゆるひとつの日活ニューアクション。確か不死鳥の哲だったと思うけれど、渡哲也さんと我らが(なんで我らがなのかよくわかりませんが)原田芳雄さんが酒を飲む場面、これがよかった。たしか渡さんは出所したばかりで、それを白いスーツの原田さんが迎えに行き、酒場のハシゴをする、そんな感じだったと思う。

 とにかく、映画の中の渡さんの飲みっぷりが凄かった。ビール、日本酒、ウィスキー(ジョニーウォーカーだったと思うけれど)を、いや凄まじい勢いで飲んでいくのである。それを原田さんが、財布の中身を気にしつつ眺めている場面はよかったあ……。

 この映画に絡んで、酒ではないがもうひとつ思い出がある。

 原田芳雄さんのファーストアルバム『ラストワン』の中に、日活ニューアクションを歌った歌がある。

「ブルージーンズ胸元はだけ……」と、まず『反逆のメロディ』から始まり、

「ねんねこ半纏、子供背に……」と、『暴走集団71』――この映画には藤竜也さんもかっこよく出演していた。

 そして三番が、この映画になる。

「インポテンツ(ゴメンナサイ、でもほんとうにこう歌ってるんです)の白スーツ、連れ立つ友と涙して、女の髪をとかします……」

 ようするに映画の場面をそのまま歌にしているのですよ。

 この映画(『新宿アウトロー、ぶっとばせ』)の中で原田芳雄さんはイン○テンツの役で、渡さんと復讐に向うまさにそのとき、殺されてしまった愛しい人の髪をとかすのである。この女優さんは、ぼくの永遠のアイドル梶芽衣子さんでした(笑)。

 この曲の作詞をしたのは、TBSアナウンサーの林美雄さんだった。原田芳雄さんは当時、林美雄さんの番組にゲストで出て、ギターを弾きながら『プカプカ』を歌っていた。かっこよかったよ。だからこの歌は、ぼくの愛唱歌のひとつになった。
0f8613e2.jpg  と、いうのはこのお酒の名前である。先日、ブログで書いた、これがその同居人がネットの懸賞で当てた酒である。一関市にあるこの蔵元は、自分の書いて欲しい字をラベルに書いてくれる。で、選んだのが『日々是平安』である。やっぱり平穏無事が一番だからね。

 後味のすっきりとした美味しいお酒だと同居人は言っている。

 ぼくは飲まないもので、酒の味についてはなんともコメントのしようがない。

 とにかく美味しいお酒であることは確からしい……あ~駄目だ、美味しいお酒ってどんな味? ぜんぜんイメージできません。

 ゴメンナサイ、わたしの負けですm(__)m。
1c29cb96.jpg  ダイナミックと聴いて思い出す人が二人いる……いや、三人か。一人はブルーヘブン(元だね)のギタリスト吾妻光良氏。もの凄いギタリストなんですよ。ぼくはこの人から、歌謡曲以外にもいい音楽があることを教わりました――ゴメン、嘘です(でも、ある部分はほんと)。いえ、面識はないんですよ、言わずもがなのことですが。それはともかく、ブルースというのはようするに黒人の浪花節のようなものだろうと思っていたのだが、どっこい意外にかっこいいじゃんと目を開かされました。BB・キング、アルバート・コリンズ、ライトニン・ホプキンス、ロバート・ジョンソン、ゲイトマウス・ブラウン……。吾妻氏はその著作の中でダイナミックについて、

「其、ダイナミックとは、静と動のこと也(ソレダイナミックトハ、セイトドウノコトナリ)」

 と、擬古文調では言っていませんが(笑)、とにかくそういう意味のことを書いている。ようするにダイナミックとは静と動のことだと言ってるわけですね。これは吾妻氏がもっとも尊敬するとその著書の中で書いていたゲイトマウス・ブラウンのギターについてのくだりだった。

 そしてもう一人が、佐藤忠男氏。佐藤氏はその著作「黒澤明の世界」の中で、動いているばかりではダイナミズムは生まれない。動きはせき止められ、再び動き、そしてまた静止して動く。その中からダイナミズムは生まれる。そういう意味の文章を書かれておられた。黒澤映画「影武者」のなかの一場面について語った部分である。

 そして、その黒澤監督自身は自分の演出した立ち回りについて、実際に切り合う部分は極めて短い。その前後でぎゅっと盛り上げて、一気にやってしまう。だから短いチャンバラ場面でも客は満足する、とインタビューで語っていた。実際に用心棒の立ち回りは、パンクラスではないが秒殺である。

 なぜこんなことを書いているかといえば、ぼくがダイナミックなものが好きだからだ(笑)。音楽、映画、小説、マンガ、舞台、その他諸々の芸術表現を見るときのキーワードが「ダイナミック」ということになる。

 ただし、これはあくまでもぼくが感じるダイナミックであって、別の誰かにとってのダイナミックでは、多分ないだろうと思う。

 しかし、それでも宮崎駿のアニメはダイナミックだ。谷口ジローの「ブランカ」の疾走場面はダイナミックだ。あるいは「K」が谷底から吹き上げてくる風に身を任せ、切り立つ岸壁を手で登っていく場面はダイナミックの極みだ。手塚治虫の作品はどれもこれもダイナミックだ。J・エルロイの「LAコンフィデンシャル」や「ホワイトジャズ」はダイナミックだ。バーデン・パウエルのギターはダイナミックだ。S・キングの「シャイニング」はダイナミックだった。ジョン・フォードの「荒野の決闘」はセンチメンタルでダイナミックだった。ジェームス・ブラウンは存在自体がダイナミックだった。レイ・チャールズは歌う姿がダイナミックだった。朱理エイコの歌声はダイナミックだったし、上々颱風のチャンチキサウンドはダイナミックだ。
 好きなものは他にもいっぱいある。

 ……そうだ、大友克洋の作品もダイナミックだ。