信之夫妻の結婚秘話 | るーちゃんのブログ

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信之夫妻の結婚秘話


 登場人物
  真田信之       内藤大希
  小松姫        井深克彦
  真田昌幸・ト書き   大山真志
  真田幸村(映像出演) 佐奈宏紀


昌幸   時は天正十七年、私はまだ生きている。上田の合戦にて本多忠勝に打ち勝った私へ、忠勝は娘を差し出した。いやいや戦に勝ったのは私ですよ。家康ごときの家臣の娘を、なぜ一国一城の主・真田昌幸の長男が娶らねばならぬのだ!
信之  (本人でのト書き)しかし父上がいくら勇んでも仕方なく。家康殿は、時の太閤・秀吉様と懇意の間柄
昌幸   秀吉様にも頼まれてしまった。まぁ、時世を読めば徳川に恩を売っておくのも悪くない。あの狸の持ち味は知略。諸大名への根回しがうまいからな。そう、全ては真田家のため。私が死んだのちも、真田が滅びることだけはあってはならぬ
信之   反意がないと示すため、私は名の漢字を変えた
昌幸   信幸の、ユキを「幸せ」から、ちょんとしてにゅっとする、ひらがなの「え」に似てるあれにな
信之   真田が代々受け継いだ幸せの文字。弟、幸村と揃いであったのにと少し寂しく思いもしたが、幸村は笑っていた。これからは僕の知らないお兄ちゃんの幸せを見つけてねと、無邪気に
昌幸   自慢の息子たちだ
信之   家臣の娘では家のランクが見合わないだろうからと、家康殿は小松姫を養女に迎えた
昌幸   真田の長男と、徳川の娘なら丁度いい。がしかし!
信之   家康殿は、私と姫とを見合いにせず、婿選びの場をこしらえた
昌幸   なんたる侮辱! 他の婿候補たちと共に、信之を庭に並ばせるだって!? そちらが嫁にどうぞと言ってきたのに!(激怒)
信之   まあまあ父上。家康殿にも体面がございましょう
昌幸   お前は優しい男だが家のメンツというものを分かっていない
信之   分かっておりますとも。この信之、なにに変えても真田の血を残すと誓います。たとえ心寄せぬ姫を妻としようとも
昌幸   その心意気、我が息子ながら天晴れ
信之   夫婦(めおと)となればこちらのものです。その姫を屈服させ、忠勝を意のままに操り、家康の寝首をかくも良し
昌幸   お前なら容易いな
信之   どうせ右も左も分からぬ箱入りのお嬢様です
昌幸   家康が滅んだ場合は幸村にうまくやらせる。どんなことがあろうとも、二人、共に死ぬことだけは許さんぞ?
信之  (しっかりと)はい、父上

昌幸   かくして、婿選び当日

 庭に信之や婿候補を横一列に座する。
 薙刀をもった小松姫が立って登場。屋敷から座って眺める昌幸や家康。


小松姫  我が名は小松!いざ尋常に参られよ。この小松と、一生涯を添い遂げる勇気のある者はどこにおる!
信之   なんと・・・!
昌幸   なんという生意気な姫だ。しかし信之は礼儀正しい男だから、他の婿候補と共に庭に座して頭を下げた。偉い
小松姫  よし、では一人ずつ面構えを確かめようぞ。えいっ!
昌幸   小松姫は婿候補のはじから、チョンマゲを掴んでは表をあげていく。無礼が過ぎる!あんなおてんば娘に、うちの信之はやれん!薙刀まで持って武将気取りか
小松姫  えいっ!・・・ふぬけた顔だ。次の男、えいっ!・・・そんな顔じゃ我が夫はつとまらんぞ、次、えいっ!
昌幸   いよいよ信之の番となった。小松姫は信之のマゲを掴む、と!
信之   触るでない!

小松姫  きゃっ!
昌幸   よくやった! 信之は小松姫の手を打ち払ったのだ。さすが我が息子、女子供とて容赦は・・・
信之  (遮る心の声、だだ漏れ)可愛い・・・
昌幸   んん!?

信之   可愛すぎて、思わず手を払ってしまった。この世に、これほど愛らしい人がいるなんて。あぁ距離が近すぎる。つるりとした肌、この姫には毛穴がない。まつげも長すぎる。驚いて姫は私を見つめている。私が赤面していることが見抜かれていやしないだろうか。そんな事があれば腹を切るより他ないぞ
昌幸  (遠くから心の声かけ)どうした信之
小松姫  なにこの男・・・
昌幸   小松姫が震えている。そうだ、恐ろしいだろう。生まれてこのかた自分に歯向かう男なんぞおらなかったろうからな。小松姫から断りを入れるか? それもよし、さすれば家康の面目は丸つぶれだ!
小松姫  初めての衝撃。打たれた手が痛い。熱い・・・
信之   嫌われてしまっただろうか
小松姫  父上の威光を恐れず、私よりも強い男・・・
信之   戦だけでなく、女性の扱いを学んでおくべきだった
小松姫  初対面なのに
信之   一目で
小松姫  父上、小松は決めましたぞ!
信之   父上、この縁談は叶いませぬ
小松姫  ・・・どうぞ末永く、小松をよろしくお願い申し上げまする
信之  (驚き)・・・ぁ。身に余る光栄にございます
昌幸  (きょろきょろと)どういうことだ
小松姫  この方にとっては、徳川と真田を結ぶ政略結婚だろうとも
信之   この思い、死ぬまで言葉にすることがなかろうとも
信之・小松姫 永久(とわ)にあなたを


 信之と小松姫、見つめ合う。

 夜。

昌幸   信之
信之  (まだ小松姫を見つめている)
昌幸   おい、信之
信之   はっ、父上。考え事をしておりました
昌幸   確かに悩みどころだ。これではますます断りにくい
信之   断る。この縁談を?
昌幸   おのれ忌々しい! お前には立派な城を持たせ、国一番の美しい姫を迎えてやるつもりだったのに・・・。しかしさすがは我が息子。あんなじゃじゃ馬娘の心をも一瞬で掴みよって。はっはっは、まるで初心な乙女のように頬を赤らめていたじゃないか。いい気味だ。(と、ため息)・・・秀吉様はお怒りになるだろうが、仕方ない。息子が不幸になるのを見過ごせん。明日(あす)、正式に断りを入れよう
信之   そのお心、曲げることは叶いませんでしょうか
昌幸   断りを入れるなと・・・?
信之   今や徳川は関東の要。秀吉様はこれからも家康殿を重宝されましょう。ゆえにこの婚礼も、真田にとって得はあれども損はないはず。父上のお心は痛いほどに分かります。けれど、この信之、徳川の婿となり必ずや父上の期待以上の働きなすことを誓います
昌幸   しかし・・・
信之   私は今まで、父上の命に背いたことがございません。これからも真田のため、一生を賭す覚悟です。ですからどうか・・・このまま、姫との祝言をあげさせては下さいませんでしょうか
昌幸   お前がそこまで言うには、なにか策略があってのことだな
信之   それが・・・ないのです
昌幸  (低く)なに?
信之   お恥ずかしながら
昌幸   信之、お前もしや・・・

信之   女人一人のために、このように冷静さを欠くなど不徳の致す限り。真田家長男として恥ずかしゅうございます
昌幸   ・・・・・・
信之   ・・・・・・
昌幸  (大きく咳払い)
信之   ・・・!?
昌幸   家康に、尻尾をふることは
信之   ありませぬ
昌幸   子供に徳川を名乗らせろと迫られても
信之   許しませぬ
昌幸   今後ほだされることはあるまいな
信之   決して
昌幸  (穏やかに)どうやら私は、婚礼の二次会で歌う歌でも考えていた方が良さそうだな
信之   余興を?
昌幸   ・・・しかし、あの姫のどこがそんなに良かったんだ?
小松姫 (昌幸をキッと睨む)
昌幸  (睨む小松を指さし)ほら、絶対厄介だよ?
信之   それは、父上といえどお答えするわけには参りませぬ

昌幸   というわけで、私は信之の結婚を許した。しかしそれは秀吉様や、ましてや家康のためではない。初めて惚れた女に出会った息子のため。堅物だとばかり思っていたが、ふふ。母ちゃんも喜ぶだろうな~。そして婚礼の儀、当日!

 冷たい態度の信之と、慎ましやかな小松姫。

小松姫  信之様
信之   なんですか、小松
小松姫  私は、信之様をなんとお呼びすればよろしいでしょう?
信之   婿になるにあたり、家の文字を捨てた私です。もう名前に思い入れはありません。いかようにもお好きに
小松姫  では、信の字をお呼びします。捨てず残った、あなたの生まれ持った文字を。よろしいですね・・・のぶ様
信之   ・・・・・
小松姫  お返事をなさって下さい
信之   しかし
小松姫  のぶたん
信之   さすがに、それは
小松姫  では少し誤魔化して
信之   はい
小松姫  のんたん
信之   はい
小松姫  小松は幸せ者です
信之  (恥じらって眼鏡を直す)
小松姫  うふふ
信之  (つっけんどんに)下らぬお喋りはもう結構。小松、弟からの祝いのVTRが始まります
小松姫 (信之を見ながら)始まります♡
信之  (観客へ)皆も心して見るように
小松姫 (観客へ)見るように♡




小松姫 (感動し)うえーん
信之  (不器用にあやし)

ト書き  秀吉が倒れ、兄弟が袂を分かつのはまだ先の話


小松姫  三々九度の盃です
信之   ああ(さっと飲んで盃を返す)
小松姫  またそんな、そっ気のない飲み方を・・・
信之   お前が口をつけた盃に、おいそれと口づけなどできるか
小松姫  小松は分かっております。分かっておりますとも
信之   ・・・長く生きよう。この世を、小松
小松姫 (信之を見つめる)
信之  (視線に気づき、初めて少し微笑みかける)
昌幸   取り上げた幸せの文字、お前は自ら探し当てたのだな。信之。ぬかりなくやれよ、真田のために

 二人を見守る昌幸、満足げに。
                                   終わり