老いた二人の話 | るーちゃんのブログ

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る・ひまわりオフィシャルブログです

先日の上映会より。

こちらのお話を掲載させていただきます。

 

『老いた二人の話』

 

赤澤ムック

 

伊達政宗  辻本祐樹

真田信之  内藤大希

片倉重長  安西慎太郎

ト書き   大山真志

 

一六五八年、五月二十四日。

 

ト書き さらさらと森の緑、揺れ。そよぎ。さて、これはいつの日の物語か・・・

政宗  これはこれは信之殿

信之  今年もまた、やって参りました

政宗  この時期の仙台は良いでしょう。暑すぎず、風、爽やか

信之  山々の新緑が、この目と心を休めてくれます

政宗  でしょでしょ。しかしまぁ

信之  はい

政宗  年をとりましたなぁ~

信之  ええ

政宗  家康が倒れ、秀忠、家光と徳川家を三代見守ってきました。手探りでしたね。色々ありました。けれど十一歳だった家綱くんが四代目の将軍に就任したことで、世の民は、これからも徳川幕府が続いていくことを実感し、その力を認めたことでしょう。まだまだ浪人たちが討幕を企てるかしれませんがね。それを阻止できる力が、今の幕府には備わっている

信之  政宗殿のご尽力あってこそです

政宗  それをいうなら信之殿だって。隠居のはずが、政に戻られたそうじゃありませんか

信之  仕方なくです。真田の家を継がせるはずの子供らを亡くし、孫を亡くし、お恥ずかしながら家督争いに振り回されての返り咲き。国のためではありません。真田の家を残すためだけの苦肉の策なのです。父はよく言っていました。信之、幸村どちらでもいい。どちらかが必ず真田の血を残せ。真田の家を滅ぼすことだけは許さん

政宗 (声かけ)信之殿

信之 (聞こえておらず)幼き頃より父に命じられ、犬伏で涙ながらに手を握り合ったこの誓いだけは破れません。なのになぜでしょう。私の子らは、親の私より早く死んでしまった

政宗 (もう少し大きく声かけ)信之殿

 

信之  はい、なんでしょう

政宗  悲しむべきはそこですか?

信之  ・・・どういう事でしょう

政宗  あなたのお父上、真田昌幸殿は立派な武将でした。けれど、あなたはもう子ではない。子をもった親であり、おじいちゃんです

信之  はい、そうですが・・・

政宗  親のいいつけなどよりも、もっと大切なことがあるでしょう?

信之  おっしゃっている意味が・・・

政宗  ここは仙台。誰にも、見咎められやしない場所ですよ

 

 

信之  ・・・・・・信吉は

政宗  はい

信之  長男の信吉は、真面目な子供でした。実直すぎて、慎ましく、親の私に気遣いをしすぎる優しい子でした

信之  ・・・次男信政は、顔が父、昌幸にそっくりな子供でした。歌が好きだったなぁ

政宗  はい

信之  ・・・熊之助はまだまだ小さな孫でした。初めて抱き上げた日、空が高いと喜んでいましたっけ

政宗  はい

信之  ・・・政宗殿

政宗  なんですか

信之  私は、あの子らを亡くしたことが一番悲しい

政宗  はい

 

 音楽の中、信之が静かに泣く。政宗はそっと目をそらし、待つ。

 

信之  ありがとうございます

政宗  なにがです

信之  人前で涙するのは人生で二度目です

政宗  ・・・そう、四十年以上も昔に

信之  もうそんなにも日が経ったのですね

政宗  そりゃあ年もとるわけです。

政宗  おいくつになられます

信之  九十三、にございます

政宗  長っ!

信之  お恥ずかしい限りです

政宗  いえいえ、私はもとより『長生き推奨派』なので。しかし九十三とは羨ましい限りだなぁ。どうせなら百まで目指しましょう!

信之 (小さく笑って)

政宗  ・・・信之殿。また来年もここへ来て下さいね。この場所はいつだってあなたを

 

重長 (遮り)あれっ!信之さんだー!

政宗  うるさいのが来たな

信之  おぉ、重長殿

重長  お久しぶりですね!

信之  ええ、ご無沙汰しております。まさかここで貴方に会えるとは

重長  いや実はなんとなく分かってたんです。今日ここで信之さんに会えるんじゃないかなぁ~って!

信之  私と?

重長  はい。つか毎年、今年は会えるんじゃないかなぁ~って思ってたんで

すけどね

信之  なぜですか

重長  それです

ト書き 重長が示し指さす先には、薄紫のハギの花

信之  これがなにか

重長  だって、ここにそんな地味な花をもってくるの、信之さんしか思いつきませんて!(悪気なく笑っている)

信之  地味か・・・

重長  そこがいいんですけどね。ハギの花はここ仙台の花。他の人たちは、政宗様が派手好きだからって派手な花を持ってきます。

でもこの花を持ってきた人は違う。この国を、藩を思う政宗様の心を知る者だ、という推理です。当たりでしょ?正解でしょ?

 

信之  今年は少し長居してしまった

重長  おかげで会うことができました

信之  政宗殿と語り込んでしまいまして

ト書き 今日のこの日は、一六五八年、五月二十四日

重長  殿もお喜びかと思います。殿の命日に、信之さんが欠かさず訪れて下さることを

信之  もう一度、手を合わせてもいいだろうか

重長  どうぞどうぞ!

信之 (神妙に目を閉じる)

重長 (べらべらとうるさく)しっかしこの寺、すごくないっすか。めちゃくちゃ恰好いいでしょ。お墓なんだからちゃんとしろとか、ワビサビだとかいう意見もあったんですけど、やっぱ政宗様は派手が一番だと思うんすよね。伊達男とか言われてますし、政宗様と会ったことない人も驚かせるってゆーか、度肝抜かせたいってゆーか、すげー奴がいたんだなって、バンっと打ち出してこうってそういう考えがあるんです。信之さん、どうっすか、ここよくないっすか?瑞鳳寺

信之 (うるさいなぁと目を開ける)

 

重長  あれっ。もういいんですか?もっとゆっくりお参りしてもらって構い

ませんよ?

信之  いや、結構。もう一か所参らねばならない場所があります故

重長  それってうちですよね?

 

信之  ・・・・・・

重長  うちの寺にも毎年お参りにいらしてますよね

信之  それは・・・

重長  幸村さんの位牌があるから。

今年はきちんとお参りして下さい。信之さんに会いたがってる人は、まだいるんですよ

信之  この俺に、誰が

重長  幸村さんの子供たちです

信之 (重長を見てしまうが顔をそらし、うつむく)

重長  息子の大八くんも、片倉を名乗って元気にしています

信之  徳川から疑われただろうに・・・

重長  ご心配には及びません。なにせ、うちの殿ときたら徳川を煙に巻くことにかけては天下一品、手慣れたものですから。いつものように

政宗 『他人の空似でございますぅぅ!』

重長  って土下座して、馬鹿笑いして、お金握らせて追い返しました

信之 (ついつい笑う)

重長  ね、笑っちゃいますよね。それからこうも言ってました

政宗 『幸村の息子の大八。今は片倉を名乗っているけど、こっそり真田に名前を戻しちゃっていいと思うんだ。そろそろ大阪の陣のほとぼりも冷めた頃だし、こっそり真田に戻って家族を作って、仙台真田家!みたいな分家として甦らせるってのはどうだろう』

信之  仙台真田家・・・

重長  で、やってみたんすけど、やっぱ徳川が良い顔しなくって一旦中止です。大八は片倉に戻しました

信之  失敗したのか

重長  はい。案外、気付かれるもんですねー、ははは!

信之  まぁ当然といえば当然の・・・

重長  でも!俺は諦めてませんよ。大八も諦めてません。

いつかきっと、ここ仙台に真田は甦ります。いつか、必ず

政宗  だってここは、この伊達政宗が生きた土地。無茶難題はお手の物

信之  政宗殿が笑う顔が目に浮かぶ・・・

重長  酒も飲んでいって下さいね。上物のホヤが手に入ったんです

信之  ホヤ?

重長  ええ、ここの海でとれる酒とめっぽう相性のいい特産物です。九度山でその話をしたら、みんな食べてみたいってはしゃいでたっけな・・・

信之  夢、叶わずか

 

重長  誰かが描いた夢を、受け継ぐことっていけませんか?それって奪うことですか?夢をみるのって、特別な人にしかできない特権ですか?どうですか?

信之  それは・・・

重長  血を継ぐのと、思いを継ぐのって、どっちが大切ですか?

信之  どちらも同じこと

重長  ・・・

信之  いや、思いがあってこそだ

重長  ですよねー!さっすが信之さん。さあ、参りましょう。今日こそは皆に色んな話を聞かせてやって下さい

信之  ・・・本当に、いいのか?

重長  ・・・・・・

ト書き その問いは、重長へ向けたものか、亡き幸村へ向けられたものだったか

重長  いいんです。そうしてもらいたいんです

ト書き 重長は信之を促し、てくてくと歩き始めた。二人合わせて百五十をこえる高齢者。足元によーく注意しながら、共に心は柔らかく、優しく踊っていた

重長  どうしました?

信之  うん

ト書き 信之は政宗の墓を振り返る

信之 『なにごとも、移ればかわる世の中を、夢なりけりと思いざりけり』

 

重長  いい句ですね、味わい深い

信之  また来年も、ここへ参りたいな

重長  お待ちしています。政宗様ともども!

政宗  ・・・はい

ト書き 眠る政宗の声は聞こえたか否か、老いた二人の物語

 

おしまい

 

 

8月18日、凱旋のる年上映会が決まりました。

詳細はるひまHPをご覧ください。

 

本日は、脚本の赤澤ムックさんと打ち合わせを行いました。

次回ラスト上映会、という事で。

重長と政宗、本当にほんっとに最後の二人のお話

上映会にてラストのリーディンングとしてお届け致します。

どうぞお楽しみに。