江戸川大学社会学部ライフデザイン2年 池谷ひかる
今回は『銀座ミツバチプロジェクト』の副理事長である田中淳夫さんによる貴重なお話を伺った。
■銀座で養蜂は可能か
『銀座ミツバチプロジェクト』とは、銀座にあるパルプ会館の屋上でミツバチを期間限定で飼っている特定非営利活動法人(NPO法人)である。銀座と養蜂は一見不釣り合いのように思えるが、実は銀座はミツバチが住むにはとても快適な環境なのだと田中さんはおっしゃっていた。
養蜂が盛んな長野などには、ミツバチが運ぶための花粉や蜂蜜を含む花がたくさん存在する。しかし、このような自然豊かで、農業も盛んな土地では農薬がたくさん使用されている。ミツバチは環境指標動物と言って、多量の農薬を使用した場所だと生きることができない。そこで目を付けたのが農薬を一切使っていない都会だ。その中でも銀座はミツバチの行動範囲である3キロ以内に、皇居や浜離宮、銀座の街路樹などたくさんの自然が残っていたため、ここが養蜂するのに適しているのではないかと考えたのだ。
■ブランドとなった「銀座ハチミツ」
はじめは、こんな都会で本当にはちみつが採れるのか?という心配する声もあがった。しかし、2006年3月後半から、西洋ミツバチを3群3万匹設置して2ヶ月、その数も10万匹に増えて、蜜の種類もソメイヨシノ、マロニエ、ユリノキなどの都会の樹木から順番にフレーバーなハチミツが採れた。結果6月初旬までに予想の3倍、150 キロ超えるハチミツを採取できたという結果になった。2007年は、天候に恵まれたこともあり、更にミツバチの数は15万匹を超え、3ヶ月で260キロと毎年収量も順調に上がってきている。今年は440キロを超えるという。今では、銀座のバーでカクテルに使われたり有名パティシエや老舗の洋菓子店がこのハチミツを使ったスイーツを作ったりして、「銀座ハチミツ」はブランド化されつつある。
■広がるミツバチプロジェクト
プロジェクト開始前、田中副理事長は屋上でミツバチを飼うことを同ビルのテナント1軒ずつに説明して回るなどの結果、銀座では屋上菜園を作ろうとしていたビルが、「ミツバチが来るなら」と屋上庭園へ計画を変更したり、三笠会館の調理場に迷い込んだミツバチをスタッフが、「銀座ミツバチプロジェクトのミツバチだ」と保護、無事外に放したりと、最近では銀座のミツバチは温かく見守られ始めている。また「ミツバチは黒くて光るものを攻撃する性質があり、隣の朝日稲荷で悪さをしていたカラスがいなくなったのはミツバチのおかげではないかと、掃除をされている方から報告があった」ことから、絶滅危惧種の渡り鳥、コアジサシの営巣がカラスの被害に遭っているという大田区の「森ヶ崎水再生センター」へ、同プロジェクトのミツバチを「派遣」することも予定されている。
■人と人をつなぐミツバチ
このように、この銀座ミツバチプロジェクトは、年々様々な分野に派生し、認められ始めている。都会である銀座とミツバチは異色の組み合わせである。しかし、この一見不釣り合いな組み合わせはお互いの良さを生かし合い、またお互いのよさを見出していたのだ。このプロジェクトは様々な事を教えてくれた。
自然なんて存在しない、住むには環境が悪いと考えられていた都会は、実は農薬を使用していない安全な町であったということ。危ないとばかり思っていたミツバチは、自然の植物が繁栄するために大切な受粉の役割を手伝ってくれていたということ。このプロジェクトがここまで広まったのも、人々がこのようなことに気がついたからなのではないだろうか。
銀座ミツバチプロジェクトは毎週ボランティアを募り、ハチミツ採取を行っている。都会でハチミツを採取し終わった後、みんな笑顔で記念写真を撮る。きっと都会の自然も元気なのだとミツバチを通して実感したからではないか。ミツバチは、ただ単に花と花を結びつけるための受粉を行っていたのではなく、人と人とを笑顔で結びつける役割も果たしてくれていたのだ。このプロジェクトが今後も広まっていき、物があふれた銀座に、素朴でホッとできる「ハチミツ」がたくさんの人を笑顔にしていってほしい。