もし、妊娠中に起こってしまったら、もの凄く怖いことです。
既に妊娠している人は読まない方がよいかも知れません。
子癇とは
典型的な子癇は、妊娠高血圧症候群(妊娠中毒症)の妊婦さんに起こる痙攣(ケイレン)発作です。
分娩前、分娩中、分娩後のいつでも起こりますが、妊娠後期、特に予定日が近づくにつれて発生頻度が高くなります。
頭痛、目がチカチカする、ミゾオチや右上腹部の痛みなどの予兆の後にケイレン発作が起こります。
最近では、妊娠中の高血圧や蛋白尿(腎症)に対してしっかりとした管理がされますので、子癇発作をみたことがある産婦人科医は非常に少ないと思います。何度もみたことがある医者がいたら、妊婦さんの管理能力が低いといっているようなものです。
子癇発作の経過
現代では、子癇発作が起こらないように妊娠高血圧症候群を管理します。
世界的に有名な産婦人科の教科書に子癇発作の経過がこと細かに書いてあります。私が最初に読んだのは約30年前の第18版ですが、最新の第23版にも引き続き記載は継承されています。
原文を読むと、まるで目の前にケイレンを起こしている妊婦さんがいるかのような詳しい描写で、当時、私は少なからず衝撃を受けました。
では、
子癇発作の自然経過
口の周りからケイレンが始まり、顔がピクピクとケイレンします。その数秒後に全身が硬直。顔がゆがみ、目が飛び出て、腕が屈曲、こぶしを強く握り、下肢が内側に押し付けられ、という全ての筋肉が硬直した状態が15~20秒続きます。
すると突然、口が激しく開いたり閉じたりし、その後に目も同様に開閉します。そして、顔の筋肉や体中の筋肉が猛スピードで収縮と弛緩を繰り返し、筋肉の動きが速すぎて、妊婦さんはベッドや分娩台から落ちてしまいます。
この間に、ほとんど常に妊婦さんは自分の舌を噛み切ります。(注:ここで、医者が安易に指で保護しようとすると指を噛み切られます。私は1年目のときに、決して指を直接口の中に入れないように、保護するのなら割り箸にガーゼなどを巻きつけて口の中に押し込むようにと教わりました)
妊婦さんは口から血混じりの泡を吹き、顔は充血、眼の結膜は裏返ります。
このような筋収縮と筋弛緩の繰り返しが1分くらい続きます。次第に筋肉の動きが弱くなり、繰り返しの間隔がのび、ついに動きが止まります。ケイレンの間じゅう、横隔膜の動きが止まっている、つまり呼吸が止まっているので、数秒ほど、妊婦さんは呼吸停止のために今にも死にかけているようにみえます。しかし、最悪の事態に陥ると思われた瞬間、妊婦さんは長く深く息を吸い込みます。呼吸が戻って安心、と思いきや、その後昏睡状態が続きます。
ケイレンの数は、軽ければ1~2回、10~20回のこともあれば、100回以上の最重症例もあります。ケイレン後の昏睡の持続時間には個人差があり、ケイレンの間隔が長ければ発作後に少し意識を回復することがあるのですが、その際に非常に暴れたりします。
最重症の場合、ケイレンとケイレンの間にも昏睡が続き、目が覚める前に死に至ります。
また、発作の後に39度以上の発熱があったら非常に危険なサインです。なぜなら、脳内出血の結果だからです。
これぐらいにしておきます。
個人的には1度だけ経験があります。大学に勤務していたころ、血圧が非常に高いということで搬送されてきた妊婦さんが病棟に到着してすぐ、子癇の予防処置を始めていた矢先のことです。突然、妊婦さんの顔がピクッとしました。すると頬にミミズが波を打って這い回っているように顔のケイレンが起こったのです。まるでアニメや映画でもみているような一瞬でした。子癇予防の薬の投与を開始し始めたところだったので、急いで薬を増やし、すんでのところでその後の大きなケイレン発作は予防できました。
しばらく怖い話を続けます。
こんな怖い話を普段耳にすることが少ないのは、産婦人科医が予防措置をとっているからです。予防できない怖い話もたくさんあります。