知人の温泉ソムリエ仲間が集まって出す電子書籍のゲラが出そろった。これから、素人さんにはかなり難儀な「先方校正」という作業を迎えるが、なかなかに大変そうだ。
何しろ編集のプロであって、20年以上もこの作業をやっている僕ですら、厄介だな、と思っているくらいなので、初めて経験する著者の方々は、相当に面倒な思いをする可能性がある。
まあ、仕方がないよね。今や先方校正は当たり前の時代だから。
僕が駆け出しの旅雑誌記者の頃は、先方校正などというものは存在しなかった。ただ、電話番号の確認だけひたすらやっていたことを思い出す。いまでも新聞社などは先方校正がないのが普通。
先方校正をしなくてもいいようにきちんとした取材をすることの方が大事であり、先方校正があるから、ある程度曖昧な原稿でもいいや、ではなかったのである。
広告記事でもない限り、先方校正がないのは普通だったのだが、時代は変わったな。でも、僕は何度か週刊誌の取材を受けているが、掲載前にゲラを見せてもらった経験は数えるほどしかない。こっちの方が報道としては真っ当な気もするが、何度も、言ってもいないような歪曲された記事を書かれて、ああ、やっぱりな、と思ったことがあるのも事実。
それでも、先方校正がない方が健全な気もする。
色々と出版業界も難しいことになっている気がしてならない。
第一、旅雑誌で先方構成をして修正が入ったら、その施設に関してマイナスイメージのことは何一つかけない。これは変だ。
先日、大昔に取材に出かけた温泉宿に取材に行ったが、その時には先方校正なしで、夜中に宿の前の道を大型ダンプが通ってお揺れすることを書き、現代版の人馬のいななきだ、と書いた。
今回訪ねた時にはその記事に感謝されて、むしろクレームが減った、とさえ言ってもらえた。夜中の揺れよりも他の宿の魅力の方が勝ると思ってこのように書いたのだが、こういう記事が書けることこそが、実際に取材に出かけた強みであると思う。
提灯記事ばかりになると誰も信用しなくなる。お金が絡むとこういうことになりやすい。どの雑誌とは言わないけれど、僕自身が全く信用していない雑誌もある。悲しいことでもあるけれど。
例えば、現状、立法府と行政府は独立していないと感じている。桜を見る会の一件でも明らかだと思う。僕はもはや新聞さえも信用していない。テレビのニュースも信用していない。ネットの情報も信用しようがない。
この状態でマスコミの一員として存在していることに、内心は忸怩たる想いもある。もう、何もかんも、全部やめちゃうか。
そう思いつつも、今回の電子書籍を出すのは、著者さんの笑顔を見たいからである。なまじプロではないから、原稿も真っ正直であり、温泉愛に溢れている。
こうした書籍の編集を続けていきたいとも思うこの頃である。
飯塚玲児のmy Pick
