概要

昨年8月、新作TRPGシステム「慈悲なきアイオニア」の公式サンプルシナリオ『リンの村の伝説』を遊びました。


オフセッション3人卓リプレイです。


初めてのシステムでしたが、比較的シンプルな判定システムと、濃厚なシナリオを楽しめました。


物語の途中で選択を迫られた時に、意見が割れたのが今となっては非常に印象深い体験を作ってくれました。


GMはボードゲームカフェの店長です。


以下、シナリオ感想です(ネタバレ注意!)

目次

前回

08 谷間へ

09 狼との遭遇

10 戦略会議

11 まどろみ

12 説得

13 起爆

14 決戦

15 春の訪れ


谷間へ

アンマとは一旦ここで別れる。


スヴェインによると、村を出てしばらく進むと分岐があるらしい。


上に行けばドラゴンのねぐらに、下に行けばセシリア達が落下した場所に着くという。


セシリア達は武器や魔法触媒を落としてしまったため、まず昨晩の現場に戻って回収する必要がある。


別れ道を下に、川沿いに進むと、スヴェインが昨晩セシリア達を発見した場所をあそこだ、と指差す。


上には、戦闘で焼けた跡が見える。


トーシュ「一緒だった商人たちは、どうなったんだろうな」

ゾラ「...食べられたのかな」

セシリア「...私、ドラゴンのご飯にはなりたくない」


一見すると探し物は見当たらないが、雪が積もっている。


掘り出すと、全員の武器と魔法触媒を見つけることができた。


ゾラ「そういえば、馬車に火薬が積まれていたよね」

セシリア「何か腹案があるの?」

ゾラ「あれを、ドラゴンに使おうと思う」


なるほど、と2人はうなずく。


トーシュ「直接当てれば、かなりのダメージになりそうだな」

ゾラ「作戦の前に、まず火薬を探さないと。私は鼻が利くよ」

セシリア「馬車が落ちたのはこっちだと思う!」


ゾラは火薬の臭いで、セシリアは直感で馬車の落ちた場所を探し当てる。


 火薬について

セシリアは「知識」+「歴史」で判定を申告したが、GMによると「最近の発明だから歴史書に記載はないかな」とのこと。


史実として、火薬は1000年以上の歴史があるが、坑道を爆破可能なもの(ダイナマイト)が発明されたのは19世紀。


つまり、作品の舞台となる中世には存在しない科学技術である。


狼との遭遇

落ちた馬の死体には、飢えた狼の群れが集まっていた。


…こちらに気付いていない様子だ。放浪者のゾラが耳打ちする。


ゾラ「保存食の干し肉を持ってきているんだよね」

セシリア「私も持ってきたよ」

ゾラ「肉を投げたら、狼の気を逸らした状態で攻撃できるんじゃないかな」


セシリア「それはいいね」

ゾラ「じゃ、始めようか」

トーシュ「...すぐに片付ける。始めるぞ」


干し肉を投げる。うまく気を逸らせたようだ。


トーシュはいつになく戦闘に乗り気だ。スヴェインも、不恰好な槍を持って戦闘に参加する。その腰は少し引けているように見える。


狼は気を取られ、狙いが定まらない様子。


セシリアが狼の攻撃を受けてしまったが、首尾よく狼の群れを全滅させることができた。


3人は勝利の言葉を交わす。


ゾラ「うまく行ったね!」

トーシュ「...楽勝だったな」

セシリア(足がすくんでいる)


セシリアは戦闘に慣れないようだ。


戦闘に慣れている傭兵のトーシュが肩を組んで言う。


トーシュ「お前、やるじゃないか」

スヴェイン「まぁ、な...」


スヴェインは本当は狼が怖く、強がりを言っている。セシリアが彼の顔を覗き込んで、笑顔で語りかける。


セシリア「無理しちゃダメだよ?私には正直に話しても大丈夫だよ」


戦略会議

セシリア達は来た道を引き返し、別れ道を今度は登って目的地を目指す。


スヴェイン「あれがねぐらだ。今は近づいても大丈夫だと思う」


入り口には新しい血が付着し、それが人間のものではないことが分かった。


…ドラゴンは傷を負っている。セシリアは、火薬について思うところがあった。


セシリア(使い方は分かるけど、私の歴史の知識になかった。この世界には私の知らないものが…)


ゾラ「さて、どうする?」

トーシュ「…俺は、中を調べたい」

ゾラ「奥にドラゴンがいるかもね」

セシリア「もしかしたら、今は留守中かも」

トーシュ「…その可能性もある」

ゾラ「とりあえず、調べようよ」


セシリア「誰が行くの…悪いけど、私は魔物が苦手なの(足がすくんでいる)」

トーシュ「…確かに、全員で行く必要もない」

ゾラ「スヴェインとセシリアは入口で待機ね」

トーシュ「スヴェインにセシリアを守ってもらおう」


2人は坑道を進んでいく。残されたセシリアは改めて思う。


セシリア(…狭い場所で戦うのは分が悪い気がする)


 トーシュの生い立ち

・残酷な領主の両親の元に育つ。

・幼い頃、烙印を焼き付けられた。

・12の頃、両親は傭兵に暗殺された。

・その傭兵についていき、彼に鍛えられる。

・一端の傭兵となり、師から槍を引き継ぐ。

・瞳の奥には、今でも憎悪が渦巻いている。


寡黙で好戦的な性格。


まどろみ

怖がる司祭セシリアを入り口で待たせ、放浪者ゾラと傭兵トーシュは洞窟の奥へと進む。


やがて暗闇の向こうから、恐ろしい輪郭が現れる。


それは成熟した個体としては比較的小さい部類だが、それでも人の手には負えない脅威である。


ゾラ「まだ眠っているね」

トーシュ「…いったん戻るか」


その直後、背後で巨体が身じろぐ音が聞こえる。


トーシュ(今は逃げるぞ!)

ゾラ(隠れられないかな?)


瞼がぴくりと動き、徐々に開いていく。口元に火が付き、やがて人を焼き殺す炎へと変わっていく。


トーシュ「首尾よく逃げられた」

ゾラ「見つかった…」


真っ赤な炎が背後から迫り、肌を焦がしていく。


傷を負うも直撃を免れたゾラは、トーシュと洞窟から脱出。セシリア、スヴェインと合流する。


ゾラ「死ぬかと思った…」

トーシュ「ドラゴンは中だ。強さも把握済みだ」


セシリアは、火薬についての考えを話す。


セシリア「このまま洞窟を崩落させよう」


セシリアの意見を聞いた2人は考えを話す。


ゾラ「崩落させたとして、傷を負いながらも這い出てくるんじゃないかな?」

トーシュ「直接当てる方が強力ではないのか?」

セシリア「でも、私達も巻き込まれる」

ゾラ「何か工夫は必要だね」


…敵の圧倒的な力を前に、意見が一致しない。


セシリア「直感だけど、何か忘れている気がする」


セシリア(みんなは怖くないのかな...)


トーシュ「全く歯が立たない相手ではないと思うが?」

セシリア(私はここで死ぬ訳にはいかない。旅に出たのは教会と故郷のため。最善の方法があるはず)

ゾラ「何かいい案があるのかな?」


昨晩の戦闘と洞窟の崩落によるダメージを差し引いてなお、ドラゴンは7割の体力を残しているだろう。


その後肉弾戦を挑んでも、ドラゴンの体力を削りきる前にこちらが倒されてしまうかもしれない。


犠牲を承知の上で、村長に従って村を捨てるべきかもしれない。


少なくともセシリア達が死ぬことはないだろう。


でも、昨晩見たドラゴンの首に光るものは…?

スヴェインが祈っていたのは?


…それらを合わせても、セシリアは何を意味するのか思いつかなかった。


しかし、ノーリの家で人を導く者の心得に関する本を読んだことを思い出した。


あれは、説得について書かれた本だ。説得するのは…


セシリア「今から村に戻って、みんなに加勢するよう説得してくる。私はこれが最善だと思う」


 ゾラの生い立ち

・父とともに、群れを追われた。

・放浪の旅で戦いを身に着けた。

・故郷のことが、夢に出てくる。

・父は故郷には絶対に帰るなと言って、亡くなった。

・父は母がどうなったのか教えてくれなかった。

・故郷のことが気になっている。

人助けには積極的。


説得

セシリアとスヴェインは村へと急いでいる。


司祭のセシリアは、大勢の人に話をするのはお手の物だろう。それでも、とスヴェインは言う。


スヴェイン「俺は…難しいと思う。村が襲われて、みんな怯えている。親父も、その時に…」


セシリアは笑顔で、同時に信念に満ちた声でこう答える。


セシリア「私達には、具体的な策があります。ゾラ達は火薬を見つけてくれました。状況は私達に有利です。何より、村を救うことは皆の願いです。私達の熱意を伝えれば、彼らは力を貸してくれるはずです」


スヴェインはやれるだけのことはやろう、とセシリアと一緒に説得に参加してくれるようだ。


村長は少し驚いた様子だ。それは災難だったな、と付け加える。


村に到着し、村長に経緯を話す。


村長「私は村の意思を決定する立場だ。より多くの村人の安全を優先しなければならない。

だが、説得を試みるだけならよいだろう」


スヴェインと一緒に、村人を村の広場に集める。


セシリア「私達は皆さんにお願いがあります。ドラゴンを倒すため、力を貸して下さい」


セシリアは続ける。


セシリア「私と2人の旅人は、昨晩ドラゴンと交戦しています。敵は手負いです。

私達は交戦場所に赴き、隊商の馬車の残骸から火薬を見つけました。

ねぐらの洞窟を崩落させれば、さらに傷を負わせて戦いを始めることができます。

敵が這い出てきたところを皆さんと一気に叩くのです」

 

セシリアはこう締めくくる。

 

セシリア「勝算はあります。私達が力を合わせれば、必ずや敵を倒せるでしょう。

そして何より、皆さんの村を救うことができます」


※書物と説得RPで4点のボーナスを得る。8,12,16で段階的に結果が変化する(期待値20.5)ダイスロール(3D10)結果は…1,2,4の合計7(ひどい!)

※ボーナス込で11。辛くも説得に成功する。


村長が渋る中、村人の中からぽつぽつと決起の声が聞こえてくる。


村人A「…そうだ。彼女の言う通りだ」

村人B「…逃げても、凍え死ぬだけかもしれない」

村人C「村のため、戦おう」


スヴェインを含む10人の村人が奮起する。


セシリア「なんとかやりました…」


 説得ロールプレイについて

ノーリの家で説得の本を見つけた時、「これ、ネタルートだよ」とGMが言っていた。


GMとゾラ&トーシュのPLが静かに見守る中、3人を前に演説のロールプレイをした。


PLにも説得の技術が求められるが、聖職者らしく、静かに、信念を込めて皆の感情に訴えかけた。


このシナリオのセシリアは割と筆者の性格が反映されているので自然な展開だったが、大勢を前に演説するのは人によっては考えづらいかもしれない。


起爆

説得に成功したセシリアは、決起した民を導きながらゾラ達のいる場所を目指す。


その頃、ゾラとトーシュは隊商の残骸へ戻り、加勢する村人のために武器や防具を運び出していた。


ゾラ「うまく説得出来たかな?」

トーシュ「...セシリアなら上手くやるだろう」


話題は作戦に移る。


ゾラ「火薬はどうする?」

トーシュ「村人が来るなら、彼女の言うように崩落させて迎え撃った方が良いだろう」


やがて、村人の一団がこちらへと走ってやって来るのが見えてきた。


その先頭には、セシリアの姿が見える。


ゾラ「説得できたんだね!」

トーシュ「...起爆するぞ」


2人は引き締まった表情になる。


ゾラ「では、始めよう」


仕掛けられた火薬が、轟音と共に炸裂した。


洞窟は完全に崩落し、一帯は瓦礫で埋もれる。再び、辺りは静寂に包まれる。


トーシュ「...来るぞ!」


瓦礫を押し上げ、怪物が姿を現す。その瞳は、怒りで赤く燃えている。


...村の存亡を賭けた戦いが今始まる。


 10面ダイスの確率につい

まず、この卓はダイスよわよわ卓である。

 

セシリアは狼の攻撃(命中21%)とドラゴンのブレス(命中36%)をいずれも回避に失敗し、4点ずつダメージを受けている。

 

狼(1D3+1)からの4点は最大値。 セシリアは毎日祈りを捧げていたが、神からは完全に見放されていた。

 

トーシュはそこそこ攻撃を外していて、ゾラは何度もダメージチェックをしているが、20台の出目ばかりで危なかった。

 

セシリアは3D10で1,2,3(歌唱)と1,2,4(説得)という驚異のダイス運。

 

それでも、プレイヤーがシナリオのギミックに気付けば多少出目が悪くてもなんとかなった。

 

村人の説得(3D10+4)は、8/12/16の判定に

※実際は12の判定に失敗、8の判定に成功

 

16の判定に成功する確率:約83.5%

12の判定に成功する確率:約96.5%


これだけ天に見放されたら、セシリアは故郷に戻っても司祭を続けられないかも。


決戦

目の前に立っていたゾラとトーシュはあることに気付く。


ゾラ「セシリアが言っていた、ドラゴンの首に光るものって...」


首元に、大きな新しい傷。


折れた矢が埋まっている。...今は亡きスヴェインの父親によるものだ。


トーシュ「首を狙って攻撃すれば...」

ゾラ「弱点を突けるね」


ゾラとトーシュの攻撃は敵の急所を突き、着実に弱らせていく。


火炎はゾラを包み、爪はトーシュを切り裂く。だが、致命傷とはなっていない。


セシリアがゾラとトーシュを回復し、決起した村人が加勢する。


再びドラゴンの火がセシリアとトーシュを襲う。…が、村人が盾の陣形で攻撃を防いだ。


セシリア「一度で十分!」


…村人の鉄の盾は溶けて使えなくなったが、ドラゴンは虫の息だ。


攻撃をかわしたゾラが反撃し、陣形を組んだスヴェイン率いる村人達が突撃すると、ドラゴンはよろめき、倒れ伏した。

 

赤い瞳からは輝きが失われ、そして動かなくなった。

 

スヴェイン「…勝った、のか」

 

彼は茫然としていた。次の瞬間、加勢した村人たちの大合唱が始まる。

 

村人「俺たちの村は!俺たちが守る!」

 

3人は言う。

 

ゾラ「ホットドッグになっちゃった…!」

トーシュ「俺達の手にかかれば楽勝だな」

セシリア「皆さん無事でよかったです…」

 

セシリアはゾラが丸焼きになるのを見て、足がすくんでいた。

 

 キャラクターへの愛着

セシリアにはかなり愛着が湧いたし、セシリアを大事にしてくれるゾラやトーシュのことも大好きだった。

 

問題は、キャラクターが死ぬ可能性があるシナリオは愛着が湧くと辛いということ。

 

こうなると、死や後遺症を避けるため、あらゆる手を尽くし危険を遠ざける他ない。

 

春の訪れ

ゾラ、トーシュ、セシリアの3人は雪溶けまで村に逗留することを余儀なくされる。

 

壊滅的な被害を被ったリンの村は、ドラゴンの死肉を財源に立て直そうとしている。

 

お金が好きな放浪者のゾラは、この村を旅人のパワースポットか何かにしようと企んでいるらしい。村長は苦笑いする。

 

村長「こんな辺鄙で小さな村が、観光地になるなんてあるかなぁ」

 

そういう村長は、言葉とは裏腹に嬉しそうだ。

 

その頃、司祭のセシリアはノーリの家にいた。

 

静かに座って本を読むノーリの横で、セシリアもまた別の本を静かに座って読んでいる。

 

セシリア「では、また明日に」


ノーリが声をかける。


ノーリ「お前さん、今日は何を読んでいたんじゃ?」


セシリアは振り返って答える。

 

セシリア「技術に関する本を読んでいました」


うなずくノーリに、セシリアは続ける。


セシリア「私は教会で育ちました。そして、故郷の人たちの幸せのため、信徒としての務めを果たしてきました。

 

宗教や歴史、音楽を学んできたのは、聖職者として必要な教養を身につけるためです。

 

しかし、ドラゴンとの戦闘で火薬の力を知りました。これは、私の歴史の知識にはなかったものです。

 

また、ノーリさんの家で人々を導くための本を読み、村の人たちを集めて力を貸してほしいとお願いしました。

 

世の中には、私の知らない世界が広がっています。

 

ずっと教会にいたら、私はそんなことも知らないままだったでしょう。

 

故郷の幼馴染は、外の世界を知らない私をずっと心配していました。

 

今となっては、彼の正しさを痛感しています。

 

そして、彼が私のことを大事に思っていてくれたことも」


彼女は締めくくる。


セシリア「私は、故郷の人々に愛されてきました。いずれ故郷に戻ったら、彼らに恩返しをしたいと思います。私がいかに恵まれていたかを痛感したから。

 

ラウス王国に行ったら、技術についてもっと学びたいと思います。

 

今まで、故郷に根付いた信仰を守ることこそが、幸福への道と信じてきました。

 

今の私は、他国で技術的な知識を学び、故郷の人々の暮らしをもっと豊かにしたいのです。


ノーリさんに出会えたこと、とても感謝しています」



ノーリは黙ってうなずく。窓から夕日が差して彼の顔はセシリアからはよく見えない。


…けれども、彼は確かに笑顔を浮かべていた。


次回