予告

あなた達は、ある貴族の当主から依頼を受ける。

15年前、彼の娘が行方不明となった。

森の奥の、人が人でなくなる場所。

どうか彼女を、助けてほしい。


人数

3-6


書籍

ルールブック「Ⅰ」~「Ⅲ」

バトルマスタリー


作成

冒険者レベル10-11(→「Ⅲ」72頁)


目次


1. 序章

2. 出発

3. 野営

4. 農園

5. 礼拝堂

6. 決戦

7. 終章


1. 序章


アルフレイム大陸南方、ブルライト地方――

潮風と冒険の香りが混じり合う港湾都市、ハーヴェス。


石造りの建物が立ち並ぶ港町の一角。

波止場には、夜明けの漁から戻った船が係留されている。

カモメの鳴き声。樽を転がす音。早朝の活気。


路地の奥――

木製の看板が風に揺れている。

〈踊る人形亭〉


石造りの建物の冒険者ギルド。

窓から差し込む朝日が眩しい。


あなた達は、国で一番の冒険者だ。


ギルドマスターは、地図を広げる。


「名門ヴェラン家の当主から依頼だ」


彼は、落ち着いた声で続ける。


「古い話がある。15年前のことだ。当時、俺はマスターではなく、冒険者だった」


マスターはヴェラン家の出身の冒険者について説明する。


「当時、ヴェラン家には5人の子女がいた。そ末の娘は冒険者として活動していたという。名は、アシュリーだ」

「アシュリーは魔術師で、3人でパーティを組んでいた。当時は〈踊る人形亭〉屈指の実力者パーティだったという」

「だが、蛮族討伐の依頼を受けた際、3人は行方不明となった」

「期日を迎えても、彼らは戻ってこなかった。つまり、依頼は失敗となった。3人の死体は発見されていない」

「とはいえ、15年間も行方不明となっていれば、死亡扱いとなる。だが」


彼は続ける。


「数日前、コロロポッカの森にある村を襲った蛮族を、冒険者パーティが討伐した。蛮族が持っていた略奪品の中に、ヴェラン家の紋章が縫い込まれた魔術師のローブがあった」

「上質な生地のものだったのだろう。当初、ローブはヴェラン家から盗まれたものと考えられ、屋敷に届けられた。ローブには、香水の匂いがついていた。つまり、最近まで誰かが着ていたということだ」

「返事は、予想外のものだった。現在、ヴェラン家の女性に魔術師はいないという。さらに、その香水は行方不明のアシュリーが愛用していたものだった」


マスターは、一枚の羊皮紙をテーブルに置く。


「これは、蛮族が持っていた指令書だ」


インクで描かれた地図と文字。

古びた地図と森のイラスト

○PL向け情報

汎用蛮族語で「村、食料、奪え」と書かれています。誰も読めなければ、マスターが教えてくれます。


地図には、2つの村が書かれている。


「片方が、蛮族が討伐された場所だ。その村にアシュリーはいなかった。お前さん達が行くのは、もう片方の村だ」


さらに、彼は奥の棚から古びた紙を持ってくる。


「これが、貴族令嬢アシュリーの似顔絵だ」

アシュリー・ヴェランの似顔絵

机の上に似顔絵が置かれる。

若い女の顔。快活そうな目。整った顔立ち。


「もし、生きていれば、35歳になっているはずだ」

アシュリーの似顔絵と港町

○PL向け情報

依頼内容と達成条件の詳細は、以下の通りです。

- 依頼人は、ヴェラン家の当主エドモンド(アシュリーの父)

- 目的は、アシュリー・ヴェランの救出(生存が条件)

- 報酬は、1人あたり10000G

- 指令書には地図が描かれていて、それがアシュリーの所在地と考えられる

- 地図の場所までは1泊2日の旅

- 保存食1日分を支給する

さらに、15年前に全滅したアシュリーのパーティの情報を知ることができます。

ジャロッド

種族:ドワーフ

年齢:25(当時)

性別:♂

穢れ:0

出身:ブルライト地方(ファーベルト)

技能:ファイター、ライダーなど

アシュリー

種族:人間

年齢:20(当時)

性別:

穢れ:0

出身:ブルライト地方(ユーシズ)

技能:ソーサラー、セージなど

ベアトリス

種族:人間

年齢:20(当時)

性別:

穢れ:0

出身:ブルライト地方(魔動死骸区)

技能:プリースト(ティダン†)、スカウトなど


最後に、マスターは真剣な表情で言う。


「ヴェラン家の当主から言伝だ。彼女に会ったら名前を呼んでやってほしい、とな」


2. 出発


ハーヴェス北東の門を出ると、風が変わる。


潮の匂いが、薄れていく。

代わって、土と草の匂いが混じり始める。


石畳は、やがて砂利道になった。

砂利道は、やがて轍になった。

轍は、やがて草に埋もれた。


木々が増えてくる。

梢の間から差し込む光が、まだらになっていく。


コロロポッカの森。


足元の草が、濡れている。

ここは、人が来ない。


あなたは地図を確認する。

まだ遠い。


木の葉の影が風に揺れる。

やがて、日が傾き始める。


○GM向け情報

野営を行うことができます。

野営しない選択も可能ですが、翌朝6時以降は不眠によるペナルティを受けます。

種族特性[繁茂する生命]を持つPC(メリア)は前述の制約を受けません。つまり、寝ずに見張りをしてもペナルティ修正はありません。

見張り役のシフトが決定したら、GMは夜襲が発生する時刻を決定します。

GMは1d(シークレットダイス)を振って、以下の表を参照します。


出目

時刻

1

21:00

2

22:00

3

23:00

4

0:00

5

1:00

6

2:00


3. 野営


見張り役のあなた達は、焚火を囲んでいた。


木が爆ぜる音がする。

遠くで、ふくろうが鳴いている。


夜空に広がる、満天の星空。


その時――

草むらが揺れた。


○GM向け情報

起きているキャラクターは、危険感知判定(目標値17)を行います。

失敗すれば、味方を起こすのに手間取っていて不意打ちを受けます。ただし、すべてのキャラクターが1ラウンド目から戦闘に参加できるものとして処理します。

成功すれば、通常通り戦闘を開始します。

当該の時刻に野営していない場合は、全員で危険感知判定を行います。


マミー(→「Ⅱ」415頁)×(PC人数)

知名度15、弱点値18

マミーロード(→「Ⅱ」417頁)

知名度16、弱点値19


では、戦闘準備をどうぞ。

魔物知識判定(15/18、16/19)をどうぞ。

先制判定(目標値17)をどうぞ。


静寂が戻ってきた。

焚火が赤く燃えている。


深夜の森。

風もない。

虫の声も、止んでいる。


誰かが、傷の手当てを始める。

誰かが、水を飲む。


やがて空が白み始める。

鳥が鳴き、夜が明ける。


今日、地図の場所に着くだろう。

その先に、何があるのだろうか。


4. 農園


二日目の昼下がり。


気付いたら、木々が減っていた。

気付いたら、足元の感触が柔らかくなっていた。

気付いたら、明るくなっていた。


振り返ると、森がある。

前を向くと、畑がある。


柵も、看板もない。

ただ、いつの間にか、森ではなくなっていた。


まず、においがした。

土。堆肥。蒸れた空気。


次に、音が聞こえた。

鍬が、土を打つ音。


規則正しく。

止まることなく。


そして、視界が開けた。


広大な農園。


整然と区画された畑。

麦。芋。豆。青々と育っている。

点在する木造の小屋。

井戸。物干し。


誰かが、歌っている。

子どもたちが遊んでいる。


百人ほどの集落だ。だが――


○GM向け情報

異常感知判定(目標値16/20、非自然環境)を行います。

16以上:人々を見ると、何かが引っかかる

20以上:表情が不自然に感じる


笑っているわけではない。

怒っているわけでもない。

ただ鍬を振り続けている。


○GM向け情報

農園の閉塞感を演出するために、以下を意識してください。

◆幸福そうに見えて、幸福でない

村人は笑顔を作ることができます。しかし、それは自然な微笑みではありません。

「楽しいですよ」と言っても、何が楽しいのかを説明できません。

◆個人が存在しない

名前がなく、個人の記憶が薄れています。

なるべく「私は」ではなく「私たちは」という主語で話します。

◆外の世界への無関心

故郷や家族の話をしようとすると、記憶に霧がかかったように不鮮明になります。

「ここが全てです」と言っても、それは自発的なものではなく、そう思わされているだけです。

◆指導者への絶対的な信頼

不審な質問をしても怒りません。

「指導者様は仰いました」という言葉で答えます。


一定のリズムで。

止まることなく。


○GM向け情報

以下は、農園の生活の特徴です。

◆村人は皆、同じような粗末な服を着ている

◆食事は共同炊事場で一括管理されており、個人で料理する様子はない

◆住居の中は簡素で、個人の所有物は少ない

◆笑顔はあるが、目が笑っていない

◆「指導者様」という言葉が、会話の中に自然に何度も出てくる

◆子どもたちは親元ではなく、一か所に集められて暮らしている


村人に近付くと、彼らは振り返る。


「ようこそ、おいでくださいました。旅の方ですか?」

「見ての通り、私たちは農園で働いております」

「村には私たちのほかに、指導者様と、魔術師様と、神官様がいらっしゃいます」


○GM向け情報

村人に質問すれば、以下のような回答が返ってきます。

◆あなたの名前は

「皆は、私を『8番さん』と呼びます」

「名前は……忘れてしまいました。不思議ですね。でも、不便だとは思いません」

◆なぜここにいるか

「ここは安全です。外には魔物がいますから」

「指導者様がいてくださる。それで十分です」

◆指導者について

「とても立派な方です。私たちを守ってくださっています」

魔術師について

「聡明で、教養のあるお方です。魔術師のローブをお召しになっています」

「4人のお嬢様を、深く愛していらっしゃいます」

「魔術師様は、午前中は子どもたちに読み書きや計算を教えていらっしゃいます」

「今夜は特別な儀式がありますので、礼拝堂でご準備をされています」

「戦士様とご結婚されていました」

戦士について

「魔術師様の旦那様だった方です。お二人には4人のお嬢様がいらっしゃいます」

「勇敢な戦士のお方でしたが、先日の蛮族の襲撃で亡くなりました」

「戦士様は、この村に来てご結婚されました」

神官について

「心優しいお方です。病になっても、神官様が治してくださいます」

「私たちが流行病で苦しんでいた頃、指導者様が連れてきてくださったのです」

「神官様は、この村に来てご結婚されました」

「神官様の家にご案内致しましょうか?」

◆外に出られないか/魔物について

「外は危険です。指導者様が仰っていました」

「出たいとは思いません。ここに必要なものは全てありますから」

「村にいれば、指導者様と、魔術師様と、神官様で魔物を倒してくださいます。この前も蛮族を撃退されました。ですが、この戦いで戦士様がお亡くなりになりました。他には、魔術師様のローブを盗まれてしまいました」

◆ここを出たいと思ったことはあるか

PC「ここを出たいと思ったことは一度もないのですか?」

「……」

(少し間が空く)

「外には、魔物がいます」

「ここが全てです」

◆子どもについて

PC「子どもたちはどこにいるのですか?」

「指導者様が、子ども同士で暮らすべきだと仰っています。あの建物です」

「元気に育っています。この村の宝ですから」

PC「自分の子どもに会えますか?」

「……もちろんです。面会はできます。ただ、一緒に暮らすことは……指導者様のお考えがありますので」

(言葉に詰まる、あるいは、表情が一瞬歪む)

◆ここに来る前の記憶について

PC「故郷はどこですか?」

「……どこだったでしょう。霧がかかったように、はっきりしないのです」

「ここが私の故郷です。それで十分です」

PC「家族はいましたか?」

「……いたのかもしれません。でも、ここに家族がいます」

「以前のことは、あまり覚えていないのです。不思議ですね」

◆礼拝堂について

PC「礼拝堂では何をするのですか?」

「皆で集まり、指導者様のお言葉を聞きます」

「満月の夜には、特別な集まりがあります」

PC「通過儀礼とはどんなものですか?」

「子どもたちがいよいよ大人になる、大切な儀式です」

「詳しくは……指導者様が仰っています。私たちには分かりません」

◆指導者について詳しく

PC「指導者様はどこから来たのですか?」

「昔のことは分かりません。ただ、ずっとここにいてくださっています」

PC「指導者様は人間ですか?」

「……どういう意味でしょう。指導者様は、私たちを守ってくださる方です」

(質問の意味が理解できないように見える)


気付けば、日が傾いていた。村人たちは仕事を終えると、住居に戻っていく。

農園と礼拝堂がある集落の風景

○GM向け情報

神官の家に行くことができます。


村の外れに、小さな家がある。


他の家よりも、少しだけ手入れが行き届いている。

窓辺には、野の花が飾られている。


扉を叩いた。

少し待つと、扉が開く。


神官服。落ち着いた眼差し。

口元に、笑みがある。

ベアトリス(神官)の似顔絵

だが、すぐに気付く。

目が、笑っていない。


「いらっしゃいませ」


穏やかな声だ。

招かれるまま、中に入る。


机の上に、光る球体。

その光が、室内を照らしている。


○GM向け情報

ティダンの特殊神聖魔法【サンライト】(→「MA」101頁)です。

見識判定(目標値12)に成功するか神官に尋ねると詳細が判明します。


清潔だが、生活感がない部屋。

本も、思い出の品も、見当たらない。


まるで、誰かが住んでいるのに、誰も住んでいないような家だ。


「私は太陽神ティダンに仕える者です。ここで、夫と暮らしています」


一瞬、神官の表情が歪んだ気がした。


「できれば、3人のかわいい子どもたちと一緒に暮らしたいのですが、指導者様は、子どもは親とではなく、子ども同士で暮らすべきだ、と仰います」


さらに、彼女は続ける。


「指導者様は仰いました。子どもたちは、この村の未来だと。子どもたちは、15歳を迎えた最初の満月の夜に、礼拝堂で通過儀礼を受けます」


○GM向け情報

見識判定(目標値12/16/20)を行います。

12以上:ワーウルフの儀式ではないかと思う

16以上:ワーウルフの呪いを解く方法はある

20以上:本人の名前を呼べば、呪いは解ける


私事で恐縮ですが、と神官は続ける。


「家族と暮らせることに感謝しております。ですが、私はここに来るまでのことが、ほとんど思い出せないのです。せめて、私の名前だけでも思い出せたら……」


○GM向け情報

かつて、神官(ベアトリス)はアシュリーの仲間でした。

ワーウルフの討伐に失敗し、アシュリーと共に囚われの身になると、気を失っている間にワーウルフの呪いの儀式で二人は洗脳されました。

彼女は他の村人と同様、儀式を受けるまでの記憶をほとんど失っています。ですが、ワーウルフの呪いが完全な形で効果を発揮していない彼女は「子どもと暮らしたい」や「名前を思い出したい」という指導者にとって不都合な感情を抱いています。

ベアトリスをその名で呼ぶと、彼女は記憶を取り戻します。

以降、ベアトリスは冒険者に協力します。フェローとして随行します。また、15年前の事件について話します。

フェロー詳細

| 冒険者レベル | 11 |

| 種族 | 人間 |

| 性別 | ♀ |

| 年齢 | 35歳 |

| 技能 | プリースト11、スカウト9、ドルイド7、アルケミスト1 |

| 言語 | 交易共通語(会/読)、ブルライト語(会/読)、魔動機文明語(会/読) |

| MP | 82 |

フェロー行動表

1d

想定出目

行動

達成値

効果

7

《魔法制御》を宣言して

【レイ】

射程2(30m)MP5

24

威力10+17

6

【デイブレイク】

射程2(1m)MP10

-

光球を作る

8

《魔法拡大/数》を宣言して

【キュア・インジャリー】

射程2(30m)MP8

25

威力50+17

5

《魔法拡大/数》を宣言して

【ブレスⅡ】

射程2(30m)MP12

-

全能力値+6

9

《魔法制御》を宣言して

【レイ】

射程2(30m)MP5

26

威力10+17

4

【デイブレイク】

射程2(1m)MP10

-

光球を作る

10

《魔法拡大/数》を宣言して

【キュア・インジャリー】

射程2(30m)MP8

27

威力50+17

3

《魔法拡大/数》を宣言して

【ブレスⅡ】

射程2(30m)MP12

-

全能力値+6

以下は、ベアトリスが記憶を取り戻した場の描写です。


「ベアトリス!」


あなたがその名を呼ぶと、彼女ははっとしたような表情を浮かべる。


「まぁ、なんということでしょう……」


ベアトリスは、口元を手で覆っている。


「私は、魔動死骸区の出身でした。両親に捨てられ、ハーヴェスのティダンの神殿の孤児院に身を寄せていました。成人すると、ティダン様の教えを広めるため冒険者になりました」

「それから5年。私たちは、3人パーティでした。ジャロッドとアシュリーは、私の仲間でした」


少し間を置くと、彼女は続ける。


「ジャロッドは、ドワーフの男性です。馬を連れていました」

「アシュリーは、魔術師です。貴族の出でよく喋る人でした。なぜあんなに話すことがあるのか、不思議なくらい」


ベアトリスは目を伏せる。


アシュリー・ヴェランの似顔絵

「私たちは、ワーウルフの討伐依頼を受けました」

「洞窟で敵に囲まれました。数が多すぎて。私はそれ以上、魔法を使えないくらいに消耗していました」

「ジャロッドが態勢を崩したところに、狼男が爪を振り下ろしました。ジャロッドは動かなくなりました」

「アシュリーも限界でした。私たちは、これ以上、戦うことができませんでした」


その手が、微かに震えている。


「殺される、と思いました。相手は蛮族です。ですが、意識が遠のいていく中で、私は両手を縛られているのが分かりました」


彼女は続ける。


「目が醒めた時、私は礼拝堂にいました。目の前に、狼男がいました。彼は『お前は神官だ。病の村人を治療する役目を与えよう』と言いました」


少し沈黙した後、ベアトリスは再び話し始める。


「それから15年が経ちました。私は夫と結ばれ、子どもを授かりました」

「ここでの生活は幸せなものでした。私は家族に恵まれたのです。ですが――」


彼女は、俯く。


「ワーウルフは独自に繁殖ができません。彼らは子孫を残すため、人族をさらって、儀式で仲間にします」


ベアトリスは、息を呑む。


「この村の子どもたちは――成人の儀を迎えると、呪いをかけられます」


彼女は、あなた達をまっすぐな瞳で見つめる。


「私の名前を呼ばれた時、私そのものを取り戻せたような感覚がしました。そして、それまで思い出せなかった記憶が蘇ってきました。きっと、アシュリーも同じ方法で自分を取り戻せるはずです」


窓の外を見た。日が沈んでいた。


その時――

扉を叩く音がする。


扉を開けると、村人がいた。


「指導者様から伝言です。礼拝堂へお越しください」

「新しい方が来られると、礼拝堂に併設されている宿泊棟でお休みになられます。お代は不要です。食事の準備もございます」


村人は、口元に笑みを浮かべながら続ける。


「歓迎いたします。魔術師様も、お待ちですよ」


5. 礼拝堂


満月の夜。


農園の人々が、動き始める。

一人、また一人。


住居の扉が開き、人影が現れる。

皆、同じ方向へ歩いていく。

皆、無言で。


身体が、自然に動いているように見える。

まるで、長年繰り返してきた動作のように。


足音が重なる。


松明の光が、石畳を照らしている。

農園の奥に、建物が見えてくる。


他の建物よりも高い。


窓から、蝋燭の光が漏れている。


礼拝堂だ。


百名近い村人が入るのに、十分な広さはある。


扉を開ける。


高い天井。

左右に並んだ蝋燭。


正面の壇上に立つ、二人の男女。


男は振り返ると、白い歯を見せて微笑む。


「ようこそ、旅のお方。私が、村の代表です」


よく通る声だ。

耳に心地よい。

だが、何かが引っかかる。


「遠いところを、よくおいでくださいました」


男は、にこやかに言う。


「さぁ、今夜は泊まっていきなさい」


魔術師のローブ。

長い髪。

男の隣に、静かに立っている。


背を向けたまま、動かない。


男が言う。


「こちらは、魔術師殿です」


女が振り返る。


アシュリーの似顔絵と礼拝堂

似顔絵の女だ。

過ぎ去った年月。

だが、面影は残っている。


この女は、アシュリーだ。


○GM向け情報

ベアトリスが同行していれば、彼女がアシュリーの名を呼びます。アシュリーの名を呼ぶと、彼女は自我を取り戻し、戦闘を放棄します。

以下は、彼女の名を呼ぶ場合の描写です。

は無表情のまま、あなた達を見ていた。

「アシュリー!」

女の肩が震えていた。

「……どうして」

泣き出しそうな声だ。

「私のことを」

その手が、顔を覆う。

「なんで……私の名前を……」

女は膝をつく。

アシュリーは、沈黙していた。

やがて、彼女は顔を上げる。

「……私は、アシュリー」

掠れた声で、自分自身に言い聞かせるように言う。

「アシュリー・ヴェラン」

アシュリーは、男を見る。

「私を、騙していたの?」


6. 決戦


男の顔から笑みが消える。


「せっかくですが」


その姿が、変わり始める。


皮膚の下で、何かが動く。

骨が軋む音。


獣の顔。

鋭い爪。

黄色く光る目。


狼男は高らかに言う。


「では、我々の配下をご覧にかけましょう」


柱の影が動いた。

小さなフェレットだった。

 

だが――

それは決して愛玩動物ではなかった。


全身を覆う、鋼のような灰色の体毛。

前足に束ねられた刃のような毛は、人の皮膚なら容易く切れるだろう。


蝋燭の炎が揺れる。

戦闘は避けられない。


○GM向け情報

名を呼ばなければ、アシュリーは戦闘でワーウルフ側として敵対します。

戦闘中に改めてアシュリーの名を呼ぶ(主動作)ことも可能です。

このとき、彼女は自我を取り戻し、戦線から離脱します。

なお、アシュリー(邪教の大神官のデータで代用)が敵対している場合、ワーウルフを倒すと離脱します。

アシュリーを気絶させた場合は、生死判定を行います。

判定に失敗すると彼女は死亡(蘇生拒否)し、依頼失敗となります。


ワーウルフ(指導者)(オリジナルモンスター)

知名度14、弱点値19

〈剣のかけら〉を10個追加する

詳細は巻末に記載

デュラハンロード(→「Ⅲ」380頁)

知名度17、弱点値24

〈剣のかけら〉をコア部位に10個追加する

ブレードストーム(→「BM」116頁)×(PC人数 - 2)

知名度17、弱点値20

邪教の大神官(→「BM」149頁)

知名度16、弱点なし

神聖魔法13レベルを真語魔法13レベルに変更

条件を満たすと戦線離脱


では、戦闘準備をどうぞ。

魔物知識判定(14/19、17/24、17/20、16/なし)をどうぞ。

先制判定(目標値22)をどうぞ。


7. 終章

○GM向け情報

進行チャートを記します。

「戦闘に勝利」かつ「アシュリーが生存」

「7-1. 再会」へ進む

「戦闘に勝利」かつ「アシュリーが死亡」

「7-2. 娘の死」へ進む

「戦闘に敗北」かつ「アシュリーが生存」

「7-3. 人間牧場」へ進む

「戦闘に敗北」かつ「アシュリーが死亡」

「7-4. 偽りの歴史」へ進む


7-1. 再会


狼男は倒れていた。

獣の姿が徐々に消えていく。


爪が。

牙が。

黄色く光っていた目が。


やがて、一人の男になった。

ただの、男だった。


彼は天井を見上げていた。

その口が、微かに動く。


何か、言おうとしている。

だが、言葉にならない。


礼拝堂に静寂が戻った。

蝋燭の炎が揺れている。


アシュリーと礼拝堂の外に出た。


夜明けの光。

朝の冷たい空気。


深く息を吸う。


「15年ぶりね」


彼女は空を見上げる。

「この空を、こんなふうに見るのは」

アシュリーの似顔絵

4 人の少女が、駆け寄ってくる。


一番上は、13歳くらい。

一番下は、4歳くらい。


アシュリーは、膝をついて子どもたちを抱きしめる。


「行くわ」


少女たちを見る。


「一緒に来れる?」


少女たちが頷く。


農園の村人たちは、夜明けと共に目を覚ました。


「私は……誰?」

「私の名前は……」


元凶は、もういない。

数日かけて、彼らは少しずつ自分を取り戻していくだろう。


ハーヴェスへの帰り道。


アシュリーは、あまり喋らなかった。

ただ、時折、子どもたちの頭に手を置いた。


彼女は言った。


「今は、話すのが難しいわ。考えることが多すぎて」


風が吹き、木々が揺れる。


ギルドへの路地――

誰かがいる。


白髪の男性。

ヴェラン家当主。

娘の顔を見ると、唇が震えた。


彼は何か言おうとした。だが、言葉にならなかった。


アシュリーは、父の前に立つ。


「……お父様」

貴族の父と泣く娘

水面が光を反射して、銀色に煌めく。


これから、新しい日が始まる。


報酬(PC4人の場合)

| 基礎報酬 | 10000G / 人 |

| 経験点 | 2150点(基礎)+1000点(アシュリーとベアトリスの名を呼ぶ) |

| 成長 | 1回(基礎)+1回(アシュリーとベアトリスの名を呼ぶ) |

| 剣のかけら | 20個 |


7-2. 娘の死


礼拝堂が静かになった。

蝋燭の炎が揺れている。


狼男は倒れていた。


その傍らに、もう一人。


上質な魔術師のローブ。

長い髪。


女は、静かに横たわっていた。

赤く染まった左


その顔を見た。


整った顔立ち。

似顔絵の女だ。


過ぎ去った年月。

面影は、残っている。


だが、もう息はない。


「……アシュリー」


誰かが名前を呼んだ。

返事はなかった。


アシュリーの訃報を知ったベアトリスが、膝をついていた。

その肩は震えていた。


「……名前を、もっと早く」


アシュリーの死とベアトリスの悲しみ

その先は、声にならなかった。

窓の外が、白み始める。

鳥が鳴いている。


「せめて、4人の子どもたちだけでも、ヴェラン家に連れて帰ってあげましょう」


ギルドへの路地。

誰かがいた。


白髪の男性。

ヴェラン家当主。


娘の顔を探している。


あなたは、一歩踏み出した。

何か言葉を探した。


だが、どんな言葉も、正しくはなかった。


7-3. 人間牧場


あなたは、礼拝堂の床に倒れていた。


抵抗しなくては。だが、身体はもう動かない。


「殺される。そう思いましたか?」


狼男が言う。


「私は優しいので、反逆者を処刑するような真似はしません」


彼は、人間の姿に戻っていた。


「あなた達には、もっと有益な使い方がある」


あなたは悟った。


ここを訪れた者は儀式を受け、狼男のために働くか、繁殖の道具となっていた。


そして、あなたの意識は深淵へと落ちていく。


目が醒めた。鳥の鳴き声が、聞こえる。

窓の外が明るい。夢を見ていた気分だ。


何かが、変わっている。

だが何が変わったのか、うまく言葉にできない。


ただ、あの男の言葉が、妙に心地よく聞こえる。


○GM向け情報

13レベルの真語魔法使いであるアシュリーは【テレポート】を行使できます。

この魔法で、対象は術者が行ったことのある場所に転移することができます。

アシュリーが名前を呼ばれて自我を取り戻している場合は、彼女がヴェラン家の屋敷に転移して救援を要請します。

このとき、依頼は成功扱いですが、冒険者は自身の救援のための費用として、10000Gを支払わなければなりません。費用は依頼報酬と相殺されます。


7-4. 偽りの歴史


あなたは、礼拝堂の床に倒れていた。


抵抗しなくては。だが、身体はもう動かない。


救出されるはずだったアシュリーが、壇上に横たわっていた。


アシュリーが倒れている場面

「心臓を貫かれている」


人間の姿に戻っていた男は膝をつく。


「惜しい人物を亡くしました」


彼の手が、アシュリーの頬にそっと触れる。


「彼女は4人の子を産み、育ててくれました」


男は、立ち上がる。


「農園。表向きは、作物を育てるための場所です。ですが」


農村で、結婚や出産が奨励されていた理由――

それは、名前を持たない人族の子どもを増やすためだった。


「名前を持たない以上、呪いを解かれる心配はありません」


彼は、不敵な笑みを浮かべる。


「いい考えがある」


男は、歩き始める。


「村人に伝えましょう」


彼は、あなたの方へ近付いてくる。


「旅人を装った侵略者が、魔術師様の命を奪った」


男は、あなたの顔を覗き込む。


「偉大なる指導者様に敵は成敗され、農園は脅威から守られたと」


次の瞬間――

狼の姿。

黄色く光る瞳。


「何事も終わりは儚いものです」


最後に、鉤爪が振り下ろされた。


ワーウルフ(指導者、レベル11)

ルールブックのワーウルフ(レベル8)の下の数値をすべて「+3」します。

知名度/弱点値、先制値、移動速度、生命抵抗力、精神抵抗力、命中力、打撃点、回避力、防護点、MP

また、HPを「+27」します。

[常]通常武器無効

[常]獣人の力

満月の夜は命中力・回避力判定に+1のボーナス修正を得ます。

太陽の下では命中力・回避力判定に-1のペナルティ修正を受けます。

[主]2回攻撃&双撃

両手の爪でそれぞれ1回ずつの攻撃を行います。

1回目の攻撃の結果を確認してから、2回目の攻撃を、同じ対象にさらに行うか、別の対象を選んで行うかを選ぶことができます。

[補][準]練技

【ストロングブラッド】【ビートルスキン】の練技を使用します。

[補][準]獣化

一瞬で、獣の姿に変化します。

「獣化」している間のみ、爪での攻撃を行えます。

「獣化」の解除もやはり補助動作または戦闘準備で行います。

 

シナリオ「荒野に沈む影」について

本作は「荒野に沈む影」の後日談として書かれました。

手記の中でジャロッドが語っていた、ワーウルフ討伐の失敗――

あの出来事から、15年が経ちました。



◆クレジット本シナリオは「北沢慶」「グループSNE」及び「株式会社KADOKAWA」が権利を有する『ソード・ワールド2.5』の二次創作物です。(C)北沢慶/グループSN


BOOTH掲載中

(セッションに便利なGM向け資料あり)