「者」と「物」と「もの」 | 法令・文書担当のブログ

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これまで国や地方公共団体で、法令の審査・立案を担当した経験を基に、地方公共団体における条例審査・立案担当者の参考となる情報を掲載していきます。
このブログ読者の方からの質問も受け付け、より内容を深めていきたいです。
よろしくお願いします。

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「者」は、(原則として)法律上の人格を有する自然人及び法人を指す場合に使います。このため、(原則として)人格のない社団等については「もの」が使われます。

「物」は、権利の目的となる、人格を有する者以外の有体物を指す場合に使います。(ただし、法律によっては「物」に有体物以外を含めている例があります。有名なものでは刑法第245条があります。また、不正競争防止法第2条第10項等があります。)

では、「もの」はどういう場合に使うかというと、大きく次の3パターンがあります。

一つは、抽象的なものを指す場合や、抽象的なものと物とを両方指す場合に使います。

例1 女性の職業生活における活躍の推進に関する法律(平成27年法律第64号)
(基本方針)
第5条 (略)
2 基本方針においては、次に掲げる事項を定めるものとする。
一 女性の職業生活における活躍の推進に関する基本的な方向
二 事業主が実施すべき女性の職業生活における活躍の推進に関する取組に関する基本的な事項
三 女性の職業生活における活躍の推進に関する施策に関する次に掲げる事項
  イ 女性の職業生活における活躍を推進するための支援措置に関する事項
  ロ 職業生活と家庭生活との両立を図るために必要な環境の整備に関する事項
  ハ その他女性の職業生活における活躍の推進に関する施策に関する重要事項
四 前三号に掲げるもののほか、女性の職業生活における活躍を推進するために必要な事項
3~5 (略)
※ 一~三号では、「方向」や「事項」といった抽象的なものを規定しているので、それらを指して四号で「もの」としています。

例2 文化財保護法(昭和25年法律第214号)
(文化財の定義)
第2条 この法律で「文化財」とは、次に掲げるものをいう。
一 建造物、絵画、彫刻、工芸品、書跡、典籍、古文書その他の有形の文化的所産で我が国にとつて歴史上又は芸術上価値の高いもの(これらのものと一体をなしてその価値を形成している土地その他の物件を含む。)並びに考古資料及びその他の学術上価値の高い歴史資料(以下「有形文化財」という。)
二 演劇、音楽、工芸技術その他の無形の文化的所産で我が国にとつて歴史上又は芸術上価値の高いもの(以下「無形文化財」という。)
三~六 (略)
※第1号は「物」ですが、第2号はそうではないので、それらをまとめて指す「文化財」では「もの」が使われています。


二つ目は、人格のない社団又は財団を指す場合や、そうしたものと自然人・法人を合わせて指す場合に使います。(ただし、その法令の目的等によっては、法人ではない団体を法人に準じるものとして扱う必要があるなどの理由で、それを「者」としているものもあります。例:株式会社商工組合中央金庫法第15条第1項第1号、保険業法第2条の2第1項第1号等)

排他的経済水域における漁業等に関する主権的権利の行使等に関する法律(平成8年法律第76号)
(定義)
第2条第4項 この法律において「外国人」とは、次に掲げるものをいう。
一 日本の国籍を有しない。ただし、適法に我が国に在留する者で農林水産大臣の指定するものを除く。
二 外国、外国の公共団体若しくはこれに準ずるもの又は外国法に基づいて設立された法人その他の団体
※第1号は自然人のことを指しますが、第2号では法人格のない「団体」を含むことがあるため、これらを合わせて指すものとして、「もの」が使われています。


最後が、よく英語の関係代名詞と同じ使い方と言われる「もの」です。法令上は、「○○であって、△△するもの」(英語だと○○ which/who △△のような感じ)のような形で書かれることが多いです。
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