「及び(並びに)」と「又は(若しくは)」の使い方の注意点 | 法令・文書担当のブログ

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これまで国や地方公共団体で、法令の審査・立案を担当した経験を基に、地方公共団体における条例審査・立案担当者の参考となる情報を掲載していきます。
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「及び」と「又は」は、そもそも意味が全く異なるので、どちらを使うか迷わないように思いますが、実際にはどちらを使うか迷う場面が多いです。法令用語の常識8ページでも、「この「又は」という接続詞と、次に述べる「及び」という接続詞とをどう使い分けるかという問題になると、これはまた、法制局参事官の卒業論文になるくらい中々難しい点を含んでいる。」としています。
典型的な例をいくつか紹介します。

まず、「AもBも、Cをしてはならない」ということを言いたいときは、原則として「A及びBは、Cをしてはならない」とします(語感によっては「又は」を使うこともあります。)。

また、「AもBも、CやDをしてはならない。」ということを言いたいときは、「A及びBは、C又はDをしてはならない。」とします。これは、これ以外の方法だと、次のような誤解が生じるおそれがあるためです。

「A及びBは、C及びDをしてはならない。」…「AはCを、BはDをしてはならない」や「CとDを同時にしなければ問題ない。例えばAがCだけやっても問題ない。」と誤解
「A又はBは、C又はDをしてはならない。」…「AはCを、BはDをしてはならない」と誤解
「A又はBは、C及びDをしてはならない。」…「CとDを同時にしなければ問題ない。例えばAがCだけやっても問題ない。」と誤解


以上から分かるとおり、「及び」には、「同時に行う」という意味が含まれることがあるため、特に罰則の規定を書くときには注意が必要であり、例えば、本来「第10条又は第11条の規定に違反した者は、10年以下の懲役に処する。」とすべきところを、「第10条及び第11条の規定に違反した者は、10年以下の懲役に処する。」としてしまうと、「第10条と第11条の両方」に違反した場合にのみ刑罰が科されると読まれてしまいます。

ただ、「及び」と「又は」の使い分けは、最終的にはその規定の意味、語感等によっても影響を受けることになるので、自分が作ろうと思う規定に似た規定を複数見つけるなどして、適切な選択をすることが必要です。


微妙な使い分けの例 保険法(平成20年法律第56号)
(損害の発生及び拡大の防止)
第13条 保険契約者及び被保険者は、保険事故が発生したことを知ったときは、これによる損害の発生及び拡大の防止に努めなければならない。
(損害発生の通知)
第14条 保険契約者又は被保険者は、保険事故による損害が生じたことを知ったときは、遅滞なく、保険者に対し、その旨の通知を発しなければならない。

これは、保険法の中の規定で、いずれの条文も同じ構造をしています。それにもかかわらず、第13条は「及び」が、第14条は「又は」が使われています。
推測にはなりますが、第13条に規定する損害の拡大防止は、保険契約者も被保険者も一緒に取り組む必要があるのに対し、第14条に規定する通知は、保険契約者か被保険者のどちらかが取り組めば足りるために、こうした使い分けがしてあるのではないかと思います。もちろん、政策的に第14条の「又は」を「及び」に変えても大きな問題はないと思われます(第14条の「及び」を「又は」に変えるのは不適切でしょう。)。


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