典型的な例をいくつか紹介します。
まず、「AもBも、Cをしてはならない」ということを言いたいときは、原則として「A及びBは、Cをしてはならない」とします(語感によっては「又は」を使うこともあります。)。
また、「AもBも、CやDをしてはならない。」ということを言いたいときは、「A及びBは、C又はDをしてはならない。」とします。これは、これ以外の方法だと、次のような誤解が生じるおそれがあるためです。
「A及びBは、C及びDをしてはならない。」…「AはCを、BはDをしてはならない」や「CとDを同時にしなければ問題ない。例えばAがCだけやっても問題ない。」と誤解
「A又はBは、C又はDをしてはならない。」…「AはCを、BはDをしてはならない」と誤解
「A又はBは、C及びDをしてはならない。」…「CとDを同時にしなければ問題ない。例えばAがCだけやっても問題ない。」と誤解
以上から分かるとおり、「及び」には、「同時に行う」という意味が含まれることがあるため、特に罰則の規定を書くときには注意が必要であり、例えば、本来「第10条又は第11条の規定に違反した者は、10年以下の懲役に処する。」とすべきところを、「第10条及び第11条の規定に違反した者は、10年以下の懲役に処する。」としてしまうと、「第10条と第11条の両方」に違反した場合にのみ刑罰が科されると読まれてしまいます。
ただ、「及び」と「又は」の使い分けは、最終的にはその規定の意味、語感等によっても影響を受けることになるので、自分が作ろうと思う規定に似た規定を複数見つけるなどして、適切な選択をすることが必要です。
微妙な使い分けの例 保険法(平成20年法律第56号)
(損害の発生及び拡大の防止)
第13条 保険契約者及び被保険者は、保険事故が発生したことを知ったときは、これによる損害の発生及び拡大の防止に努めなければならない。
(損害発生の通知)
第14条 保険契約者又は被保険者は、保険事故による損害が生じたことを知ったときは、遅滞なく、保険者に対し、その旨の通知を発しなければならない。
これは、保険法の中の規定で、いずれの条文も同じ構造をしています。それにもかかわらず、第13条は「及び」が、第14条は「又は」が使われています。
推測にはなりますが、第13条に規定する損害の拡大防止は、保険契約者も被保険者も一緒に取り組む必要があるのに対し、第14条に規定する通知は、保険契約者か被保険者のどちらかが取り組めば足りるために、こうした使い分けがしてあるのではないかと思います。もちろん、政策的に第14条の「又は」を「及び」に変えても大きな問題はないと思われます(第14条の「及び」を「又は」に変えるのは不適切でしょう。)。