This is beautiful world | ✧︎*。いよいよ快い佳い✧︎*。

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主人公から見ても、悪人から見ても、脇役から見ても全方位よい回文世界を目指すお話


  大人になった私に、夢が出来ました。
  それは、バクになること。


  ゾウのようでサイみたい
  ウシなのかトラなのかもわからない
  そしてまるでクマにも見える? 
  そう、ちょっぴりへんてこな姿をしている
  あの、不思議な動物、バクになること。


  子どもの頃、次に生まれ変わる時は
  お陽さまの光を浴びて眠り、時に雨となって海に落ち、そしてまた空へ戻る、誰の妨げにもならない、雲になりたいと願っていました。
  でも、そんな私が今なりたいものは〝バク〟。


  志望動機はーー『あなた』でした。


  どうせなら良い夢にすればいいのに、悪夢のほうをわざわざ食べてくれるバク。
  ある時、私はバクに聞きました。


「ねえ。どうして、あなたは悪い夢ばかりを食べているの?」

  〝まずくはないの?〟と聞きました。
    だって、〝そんなものをずっと食べていたらお腹が痛くならないのかな?〟そう思ったから。


   そうしたら、

「今から夢を食べにいくところなんだ。一緒においで」

  ただバクはそう言って、歩いていきました。
  私が黙ってあとからついていくと、一軒の家にたどり着きました。
  そこに眠っていたのは、ひとりの女の子。
  苦しそうに額に汗を浮かべて、その目じりには涙が光っていました。
 
 
「この子はね、大事な大事な宝物をなくしてしまったんだよ。何があっても手放さなかった、大切なものだったんだ」


  そう、女の子はなくしてしまったのです。 

  誰に何を言われても、どんなことがあっても必死でその小さな手で守り抜いてきた、かけがえのないものを。


  宝物を失ってしまったその日から
  その女の子はどうしようもない寂しさと不安に襲われ、ずっとずっと悪夢に魘されているのだとーーバクは辛そうな目をして教えてくれました。


「ひとりで怖かっただろう……でも、もう大丈夫だよ」

  静かに語ったバクが、私には泣いているように見えました。


「さあ、安心してお休み」

  バクは、その子の寝顔を見つめながら、大きく口を開けてすーっと何かを吸い込んでいきます。


「よく頑張ってきたね……辛かっただろうに」


  よしよし……よしよし……

  バクは女の子を起こしたりしないようにそっと鼻先で触れ、何度も何度も頭を撫でてあげました。


「あ……」


  すると少しだけ、その子がほほ笑んだのです。
  私にはわかりました。 
  どうして、バクが毎日毎日悪い夢だけを食べても、それでも嬉しそうにしているのかが……。


「こうやって、みんなが笑う顔を見ると、幸せになれるからだよね?」


  聞いてみたら、バクはにっこりと頷いて、また他の誰かの悪夢を食べにいってしまいました。



  ーー舐めた涙は苦いけど、この優しい寝顔を見た瞬間、食べた悪夢はお菓子のように、甘くおいしくなるんだよ。



  そう、教えてくれました。


  私には、夢があります。


  あなたが握りしめているその痛みが、夢のなかまで襲いかかったりしないように。
  
  目が覚めていちばん最初にあなたの瞳に映るものが、まばゆい希望の光であるように。

  暗く翳ったその心に空いてしまった大きな穴に、これ以上冷たい風が吹き込むことのないように。


  この手はいつもあなたの背中を、あなたの肩を、あなたの心を抱きしめるためにあるから。

  
  ひとり目を閉じることに怯える夜があるなら、私を呼んで。
  怖い夢を見て身体が震えたなら、私の名前を呼んで。
 
  今すぐに飛んでいくから。



  だから私は、あなたを不安で包み込み、苦しめる悪夢を食べるバクを目指す


  叶えたい想いの先にあるーー


  あなたの、宝物(えがお)を取り戻すために。





✳︎



   始まりの僕は、色々な動物の寄せ集めだった。
   
   だけど、ゾウのように力持ちでもなければ、サイのように足が早くもなく、ウシのようにミルクも出せない、完全な出来損ない。


   きっと、神さまは配分を間違えたか、余ったものがもったいなくて適当に創り出したに違いない、と思っていた。

   なんの役にも立てず、見てくれも悪くて、外に出ることも恥ずかしく、周りも扱いあぐねる存在でしかなかった。

  お腹が空いてもご飯を食べることさえ申し訳がなくて、途方に暮れながら空を飛び続け、ふと我に帰ると、そこは人間たちの世界。

  あちこちの家から、得体の知れない虹色のモヤが出ているのが見えた。

  それは、人間たちが本物だと思っている世界のなかで延々と見ている夢幻……苦しみや痛み、試練や絶望だったんだ。

  あまりにも大変そうに感じられて、最初は出来心のようにそれを吸い込んでいた。

  ほんの少し食べただけで、人間の表情が変わる。楽になったのかと、胸をなでおろしながら、最後まで食べた。


  この虹色のモヤは、見た目はとても美しいけれど、中身は苦くてまずい。

 
  食べれば食べるほど、お腹を壊した。
  食べれば食べるほど、涙が溢れて止まらなくなった。


  食あたりを起こしながら、それでもようやく得た生きる意味を、役割を果たさなければと、七転八倒しながらひたすら食べたんだ。


  出来損ないの僕にできる、唯一のこと。
  みんなが進んで食べない、人間の悪夢を処理すること。


   最初はそう思っていた。

   だけど、夢から覚めた人間が、生まれ変わるように変わっていく様子を見ていたら、モヤの味が甘くなっていった。消化出来なかった悪夢が、溶けていったんだ。



  僕は余りものの寄せ集めじゃない
  要らないもので創られたんじゃない
  
  出来損ないじゃない
  足りなくなんかない



   僕は、自分がこうしたいから、この虹色のモヤを食べているんだ。


   そうしたら、神さまが応えてくれた。


   よく気がついたね、と。



   お前は余ったもののツギハギじゃなく、それぞれの良いところを集合させた特別な命なんだ、って。


   ゾウのように穏やかで
   サイのように正直で
   クマのように優しくて
   トラのように勇敢な


   神さまの最高傑作で自慢なんだって。


   

   今も、涙が出ることがあるよ。
   君たちはただ夢を見ているだけだとわかっていても、たまらなく辛くなる。

   だから、虹色のモヤを見つけると僕は一刻も早く駆けつける。

   
   僕も、夢を見ていたんだ。


   大丈夫、もうあと少しだよ。
   僕が君の幻をみんな食べてしまうから


   バクーっとね!






昔の私と今の私……
やりたいことは
あまり変わっていませんでした

お読みくださり本当にありがとうございました