初日に観たミュージカル『マリーゴールド』のネタバレ感想を書きます。
他のシリーズ作品にも言及していくので、未見の方はご注意ください。
(※いくつか「追記」と書いてある部分は、2020年にDVDを見返して書き足したところです。それ以外にもちょいちょい書き直しました)
自分は『LILIUM』を「これを見るために生まれてきた……」と思ったくらいのLILIUMガチ勢なので、『マリーゴールド』のプロローグでいきなりシルベチカの名前が出てきたときには早くも呼吸を忘れそうになりました。
いつ以来ですか。
シリーズ作品でその名が(花の名ではなく人物名として)出てきたのは。
2015年の感謝祭で上演した短編演劇「二輪咲き」以来です。
その瞬間、ああこれは本当にLILIUMに関わる物語なんだと心が震えました。
最近はずっと『TRUMP』関係の作品だったので、ようやくこっちのターンがきたか、と。
本編が始まりしばらく経ったところで、ヘンルーダがガーベラに花の名前と花言葉を教える(歌う)シーンがあります。
そこで出てくる花はもちろんLILIUMの登場人物の名で、まったく泣きどころでもなんでもないのに思わず涙が流れてしまいました。
それと、キャスト発表のときからザワザワしていたソフィとウルについて。
末満さんのことだから、この物語が本当にLILIUMに出てくるマリーゴールドの話なのかすら疑わしく、この話は一体いつの時代なんだ?という疑問がまずあったんですが、会話のなかで「2800年前に実在したダリ・デリコという吸血種」というワードが出てきたので、なるほどLILIUMの200年前か、とわかります。
ということは、このソフィはあのソフィで間違いないらしい。
つまり、ファルス。
それでもしばらく疑って観てましたが、やがてファルスで間違いないのだと知れます。(ちなみにマリゴーの劇中では一度もファルスという名では呼ばれません。自分では言うけど)
なるほどだから事前のシリーズ配信でD2版の『TRUMP』リバースVer.を見せたのか、と合点がいきました。
「なぜリバースを?」と思ってましたが、そこでソフィを演じた三津谷さんがまたソフィを演じるというわけです。
(追記※2018年上演前に『TRUMP』が配信された)
ソフィがファルスと名乗り始めてからの時系列で、どぅー(工藤遥さんのニックネームです)以外の人がファルスを演じたのって初めてですよね。
ソフィはいろんな人が演じてきたけど、ファルスはどぅーだけだった。
だからどうというわけじゃなく、ただ、どぅーには絶対この舞台を観てほしいなと思いました。
ソフィはわかった。
じゃあウルは誰なんだ。
ウルがあのウル・デリコであるはずがない。
なんとなく察しはついたけど、いざ「ウルごっこ」をしていたのだとわかると、ソフィに対する哀れみを感じずにはいられません。
しかしウルがまさかキャメリアだったとは。
察しの良い人は気づいたかもしれませんが、わたくしはまったく予想してなかったので、ソフィがその名を呼んだときはまたしても呼吸を忘れそうになりました。
キャメリア、お前……。
しかもここでのキャメリアくんは町の住民たちをガブガブ咬んで血祭りにあげたり、ヘンルーダを剣でグサグサ刺して殺したり、悪行の限りを尽くしている。
ソフィにイニシアチブを握られているとはいえ、LILIUMでは気のいい好青年に見えたキャメリアがこんなことをしていたとは!という衝撃。思わず「お前ぇぇぇぇぇ!」と心のなかで叫びました。
そうそう、ヘンルーダが自身の過去を暴露するシーン。
そこでまたしてもシルベチカが出てきます。
今度は名前だけじゃなく本人が。(回想シーン)
もちろんそれはLILIUMでシルベチカを演じた小田さくらさんではありませんでしたが、ガチ勢としてはもうあのクランの少女たちが出てきてくれるだけで感無量でした。
紫蘭と竜胆も出てきましたね。
LILIUMとはまた違ったあの衣装。
LILIUMを演じた彼女たちがあの衣装を着たらどんな感じなんだろう――などと夢想しておりました。見てみたい。
そしてヘンルーダことヤン・フラがかつて擬似クランにいた頃シルベチカと知り合い、ファルスにイニシアチブを掌握されそうになったときに助けてもらったエピソードが語られます。
(ところでヤン・フラの「フラ」ってあのフラ家?)
ヤン・フラより先にイニシアチブを奪われてしまったシルベチカは、なぜそれに逆らってヤン・フラを助けることができたのか。
これは短編演劇「二輪咲き」を観ていないとわからない部分かもしれません。
パンフレットの用語集で、「その行動には『イレギュラー』である彼女の特異な繭期の症状が関係している」と書いてありますが、シルベチカは二重人格なんですよね。
二重人格というかイマジナリーフレンドというか、シルベチカの心のなかにはリコリスというもう一人の少女がいた。
シルベチカがファルスにイニシアチブを奪われたあとも、リコリスはその支配下にはない。
「二輪咲き」で、みんなが忘れてしまったピーアニーをリコリスだけが覚えていたことからもそれが窺えます。
そんなわけで、ヤン・フラを助けたのはおそらくリコリスの人格だったのでしょう。
単にシルベチカがイニシアチブに逆らっただけとも考えられますが、出会ったばかりのヤン・フラを助けるためにそこまで強い意思が芽生えるかは疑問なので。
まさかそんな二輪咲きのネタまで盛り込んでくるとは。
シルベチカの“イレギュラー”な能力は「予知夢を視ること」だったと思いますが、もうひとつの人格を宿しているというのもイレギュラーとしての能力なのでしょうか。
シルベチカがどうしてリコリスというもうひとつの人格を得ることになったのか、その話も大いに気になりますね。
どんな形でもいいから、いつか掘り下げて描いてほしいです。
(『LYCORIS(仮)』やりましょう)
ところでソフィ・アンダーソン。
この時点で2800年も望まずに生きながらえてしまっている哀れな少年。
冒頭では、LILIUMでおなじみの貧血(のふり)をかましたり、ウルと一緒におちゃらける愉快な少年を文字通り演じていましたが、こいつは本当にとんでもない奴ですね。
たしかに彼も被害者だし、気の毒ではある。
ガーベラに会って早々、内なる孤独を見透かされて「あなたも私とおんなじ……可哀そうな人……」と言われてしまいます。
このセリフ、LILIUMを見た人ならば「うわああぁぁ」となるでしょう。
ダンピールであるが故に短命であるガーベラ。
そんなガーベラに、永遠の繭期になって同じ夢を見ようと持ち掛けるも、「永遠なんてクソくらえよ」と突っぱねられてしまう。
それは奇しくも2800年前にソフィがクラウスに言った言葉。
にもかかわらず死を奪われてしまったソフィが、今度はそれを言われてしまう立場になるとは。
元々繭期で情緒が不安定なソフィはそのガーベラの言葉に激しく取り乱し、ウル(キャメリア)に「なんでもいいから歌を歌ってくれ」と頼みます。
そこで歌ったのがまさかの『星の轍』。
あれは泣く。
TRUMPガチ勢だったらむせび泣くところでした。
ソフィが気の毒なのは、本当の意味で狂ってしまうことができないところです。
永遠なんてクソくらえと言っていた少年が無理矢理に永遠の命を与えられてしまい、何千年も生き続けている。
なのにソフィは遥か昔に死んだ友を忘れられず、死を渇望し、共に生き続ける仲間を求める。
いい加減正気なんて消え失せてしまうそうな時間と苦しみのなかにあっても、完全に狂いきってしまうことができないというのは地獄そのものでしょう。
だからまぁ気の毒な奴ではあるんですが、それにしたって酷すぎるよね。
LILIUMでマリーゴールドが語る母親像は、なんとも最低な親という印象でした。
ダンピールとはいえ自分が生んだ子にそんなことを言うなんて、と。
だけど『マリーゴールド』で出てくる母親アナベルは、秘密を知れば知るほど“素晴らしい母親”ではありませんか。
そんな、我が子を心から愛する母親がどうして……?と観てる最中ずっと疑問だったんですが、ソフィとウルがアナベル(とヘンルーダ)を殺したのち、アナベルが吸血種に転化してしまった瞬間に「まさか」と悟りました。
おい待てソフィ。お前そんな残酷なことを、いくらなんでも。
吸血種に転化したアナベルをイニシアチブで操り、ガーベラの目の前で言わせてしまうのです。
「あなたを生んだのは間違いだった」
もう本当に頭を抱えたい。
なんてことしやがるんだお前は。
しかもそれを言わせる直前、卑屈で暗くて人生に絶望していたガーベラが、いろんな人の愛情を知ってようやく愛というものの尊さに気づけたんですよ。
(追記※この辺、後々考えると別にそういうわけでもなかったなと思いました。ガーベラは相変わらず母親しか求めてなかったんでしょうね。他の人らがどうなろうと、そんなに関心はなかった)
特に母親からの愛。
途中までは、自分の小さな世界を守るために母親を求めていたガーベラが、最後は母を母として愛するようになっていた。
なのに。
なのに奴(ソフィ)はアナベルを操って言わせてしまったのです。
ガーベラにとって一番残酷な言葉を。
思いっきり腹いせですよね。
自分と同じダンピール。哀れな吸血種。
そいつを共に生きる仲間にして永遠を与えてやろうとしたのに、永遠なんていらんと言われてしまった。
おまけに彼女は母親から愛されている。最初は彼女を嫌っていた周りの人間(コリウスとかエリカとか)すら彼女を命懸けで守った。
ああ妬ましい。
と思ったかどうかはわかりませんが、ガーベラにとって一番残酷で、一番有効的な手段を使って母親から切り離したそのやり方は、もはやクラウスよりもタチの悪い悪魔の所業。
(追記※この辺も、腹いせというよりは奸計かなと思います。まぁ少しは腹いせしてやれという気持ちもあったかもしれませんが)
でもそのあと、イニシアチブに逆らって少し正気を取り戻したアナベルが最期にガーベラに語り掛ける言葉を聞いて号泣しました。
あそこはやばい。
周囲の客席からも嗚咽が聞こえてきましたが、あそこは本当に無理。
知っているから。
いつかガーベラが「私はひとりじゃない」と思える人物に出会えることを。
「もう泣かない」と心に誓えるようになることを。
そして、そのすべても(というかガーベラ自身を)ソフィによって奪われてしまうことも。
なんて残酷で美しい物語なんでしょうね。
ソフィくん、LILIUMではガーベラ(マリーゴールド)によってお気に入りのスノウを殺されてしまいますけど、それは自業自得の因果応報なんじゃないかな。ガーベラにこんな酷いことしちゃったんだから。
まさかLILIUMで見ていたマリーゴールドが、こんな凄絶な過去を持っていたとは。
そりゃあ性格も歪んじゃうよ。
そんなマリーゴールドにとって、リリーはどれほどの救いだったのでしょう。
スノウを殺してでも守りたいと執着した、リリーという存在。
繭期とはいえちょっとリリーに固執しすぎじゃないか?なんて思ったこともありましたが、こんな人生を送っていたのなら無理もない。
やっと見つけた、たった1人の友達だもんね……。
まだまだ言いたいことはありますが、長くなったのでとりあえずこれくらいにしておきます。
もう全編に渡って言及したい箇所がありすぎて言い切れない。
個人的に、LILIUMでこじらせた繭期は、4年という時の流れとSPECTERやグランギニョルによって(これらはあまりLILIUM要素なかったので)多少落ち着いてきたかなと思っていましたが、マリーゴールドを観てまたこじらせました。
このシリーズはいろんな意味で業が深いですね。
ぜひとも、いやなんとしてでも、完結させてほしいです。
(※追記)
ラストシーンについて。
のちの末満さんの言葉を聞いて改めて見返してみましたが、アナベルがソフィのイニシアチブに逆らって「私にあなたを殺させないで」と言う場面。
当初はアナベルが必死にイニシアチブに逆らい、私があなたを殺してしまう前に私を殺してちょうだい、と娘に言ってるのかと思ったんですが、どうやらあれはソフィのイニシアチブで言わされているらしいと判明します。
イニシアチブに逆らっているような姿すら、イニシアチブで操られていたお芝居だったというわけです。
そのときキャメリアが「イニシアチブに逆らっているのか!?どうしてそんなことができるんだ!」と少々おおげさなリアクションをしていてやや不自然な気がしたんですが、それもおそらくガーベラに聞かせるためにわざと言った言葉だったのでしょう。
そうやって、“操られながらも娘を守ろうとする母親”を作り出し、それをガーベラに自分の手で殺させることこそが、ソフィの言う「親離れ」だったんだな、と理解しました。
ちょっとソフィくん、ひどすぎ。
今回、見るのは3回目だったんですが、あまりにもガーベラが気の毒で、最後に「マリーゴールドの花言葉は――」と言う直前のあの表情を見てたら泣いてしまいましたよ。
ガーベラ、幸せになってほしいなぁ……と思う余地すらなく、やがて燃やされ灰になってしまうと知っているからなおさら辛い。
末満さんは本当にひどい話を書く。
その体を流れる血は、きっと緑色でしょう。