ブラム・ストーカー 『吸血鬼ドラキュラ』


吸血鬼ドラキュラ (角川文庫)/ブラム・ストーカー

¥907
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ヨーロッパの辺境、トランシルヴァニアの山中。暗雲をいただきそびえる荒れ果てた城があった。主の名は、ドラキュラ伯爵。彼は闇に紛れ血を求める吸血鬼だった―。辺境での雌伏の時を経て、血に飢えた伯爵は大都市ロンドンへの上陸をもくろむ。ドラキュラに狙われた婦人を救うべく立ちあがったのは、不死者の権威、ヴァン・ヘルシング教授。不死者と人間の闘いが、始まろうとしている…。恐怖小説の古典、待望の新訳登場。(Amazonより)




言わずと知れた吸血鬼小説の代表的作品。(ちなみに元祖吸血鬼小説は、レ・ファニュの『吸血鬼カーミラ』です)


長らく創元文庫版が読まれてきたけど、これは2014年に出た新訳版でかなり読みやすい。


そういえばちゃんと読んだことなかったな、ということで、この機会に読んでみた。





いや長かった。
物語は、登場人物の日記や書簡形式で進むので読みやすいが、展開が遅々として進まず時間がかかった。
古典ならではの緩やかさとでも言おうか。



そして意外な事実がふたつ。


ドラキュラ伯爵は映画などで描かれたイメージとは違う(もっと醜男。表紙のイケメンは誰やねん)ということと、物語のなかではあまり姿を見せない(人間たちの日記からじわじわ浮かび上がる)ということ。


なんとなく、悪の化身のようなイメージがあるし、本書の中でも人間たちにはそう映っている。


しかし実際は、長い年月を孤独に生きてきた哀れな異形種、という印象を受けた。



あのまま自分の城で暮らしていればよかったものを、ロンドンになんて進出しようとするから人間に見つかり、有無を言わさず滅ぼされてしまった可哀想な伯爵。


たしかに人の血を吸い、その人物を同種に変えてしまう驚異ではあった。


でもどうだろう。伯爵はそこまで凶悪な人物だっただろうか。


むしろ、「あの怪物はなんとしてでも滅ぼさねばならん」と意気込むヴァン・ヘルシングら人間たちのほうが粗暴に見える。


発表当時は勧善懲悪として受けたんだろうが、いま読むと「自分たちと違うものは駆逐しろ」という人間のエゴを感じなくもない。



しかも、最初に言ったようにこれは全部登場人物の一人称で語られるのだ。


つまり、彼らの主観でしか、読者は伯爵のことを知ることができない。


ある意味では“信頼できない語り手”であり、本当に伯爵がそれほどの悪だったのか、確かなことは言えないのだった。



(訳者あとがきにもあるように、血液型も確認せずバンバン輸血しまくってたからルーシーは死んでしまったんじゃないかという気もする)





などとツッコミどころはあるものの、思ったよりもエンタメしてて面白かったです。