古谷田奈月 『星の民のクリスマス』


星の民のクリスマス/古谷田 奈月

¥1,620
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ちょうどクリスマスの日に読み終えた……んだけど、題にクリスマスとあるのに紹介がいまさらになってしまってすみません。




つらい時、いつも傍らにあった物語。もし、本当にその中で暮らせるなら――。クリスマスイブの夜、最愛の娘が家出した。どこに? 六年前、父親が贈った童話の中に。娘を探すため、父は小説世界へと入り込む。しかしそこは、自らが作り上げた世界と何かが決定的に違っていた……。人は、どうして物語を読むのだろうか? その答えがほんの少し見えてくる、残酷で愛に満ちたファンタスティックな冒険譚。(Amazonより)



第25回 日本ファンタジーノベル大賞 大賞受賞作。


ファンタジーノベル大賞は2013年に惜しくも終了となってしまったので、この作品が最後の大賞受賞作となった。





歴史小説家の父親が幼い娘のために書いたクリスマスの童話。
ある日行方不明になった娘を探して彷徨っていた父親は、ふいにその童話の世界へと迷い込んでしまう。そして娘もここにいると直感する。


一方10歳になった娘も案の定童話の世界に迷い込んでおり、そこで暮らす銀色配達員(童話でいうところの銀の角のトナカイ。この世界では人間)に助けられ、この世界こそが自分の居場所だと悟り、配達員と共に暮らしたいと言い出す。


娘を探して彷徨う父親はこの世界では“影”となり、唯一《外》の世界(現実世界)と関わりのある配達員たちにしかその影は見えないのだった。




あらすじだけ聞くとファンシーな物語だけど、この童話の世界が現実に負けず劣らずシビアで、父親が書いた覚えのない血なまぐさい歴史まで持っている。


そんな世界に《外》の異分子である娘はなんとか適応しようとし、実際に娘自身はまるで最初からその世界の住人であったかのように馴染むわけだが、そこの住人は異常なまでに《外》との関わりを持ちたがらないからさあ大変。


そもそもこの世界は《外》へ贈り物を届けることによって雪が降り、その雪が電力やらなんやらを賄う貴重な資源となって成立しているので《外》への憧れや畏敬の念は持ち合わせているものの、直接関わることは禁忌とされているのだ。




等々、設定を説明するだけでもなかなか骨だけど、特徴的なのが文体。


翻訳調のようなそうでないような、なんとも不思議な読み心地である。



登場人物たちはみな感情豊かで、童話の世界の住人にしてはやけに人間臭い。良くも悪くも。


完全無欠のヒーローもいなければ、救いようのない極悪人もいない、そこがまた、ファンタジーでありながらもリアル。


(読者として)腹が立つこともあれば、愛おしく思うこともある。
そんなキャラクターたちも魅力的だ。





今季はもう過ぎちゃったけど、今年末のクリスマスあたりに向けてどうでしょう。