野﨑まど 『ファンタジスタドール イヴ』


ファンタジスタドール イヴ (ハヤカワ文庫JA)/野崎まど

¥648
Amazon.co.jp




『ファンタジスタドール』というアニメがあるそうな。


まったく知らなかったのでググってみると、どうやら美少女が出てくるアニメらしい。


“カードの中から飛び出す華麗な“ファンタジスタドール”と契約した主人公・うずめはカードマスターとなり、知恵と工夫で個性あふれる5人のドールたちをまとめ、バトルに挑む。
多感な14歳の少女の懸命さが、鮮烈なアクションとハートフルな描写を交えて丹念に描かれる。互いに認めあう経験を通じて、うずめとドールたちの“絆と希望の物語”が、いま始まる!”


と公式サイトに書いてあった。




本書は、一部で熱狂的人気を誇る(たぶん)異能の作家、野崎まどによるファンタジスタドールの前日譚ノベライズである。




「それは、乳房であった」男の独白は、その一文から始まった―ミロのヴィーナスと衝撃的な出会いをはたした幼少期、背徳的な愉しみに翻弄され、取り返しようのない過ちを犯した少年期、サイエンスにのめりこみ、運命の友に導かれた青年期。性状に従った末に人と離別までした男を、それでもある婦人は懐かしんで語るのだ。「この人は、女性がそんなに好きではなかったんです」と。アニメ『ファンタジスタドール』前日譚。(Amazonより)




知らないアニメの前日譚ノベライズをなぜ読もうという気になったのかといえば、著者が野﨑まどだから、というのもあるが、どうも普通のノベライズではないらしいという予感がビンビンしたからだった。


見てわかるように、まるで明治の古典文学作品のような装丁。
長さも、新潮文庫の古典作品くらいの短さなので、ますますそれっぽい。


中を開けば、さながら太宰治の『人間失格』のような文体で、ひとりの男の一人称が始まる。



これはつまり、「理想の女性を創造する」という背徳の技術を得るに至る手記なのであった。




どうやらアニメは可愛らしいイラストに相応しく、可愛らしいスチャラカなものらしいが、この前日譚はそんなアニメ本編など想像もつかないほどに凄絶であり、どう見ても古典文学なのである。


そこが面白い。
内容もさることながら、美少女アニメの前日譚で『人間失格』をやろうという発想とその手腕が素晴らしいと思う。



アニメを知らない人でも楽しめるのでご安心を。



ここからアニメに進むという人もいるのだろうが、自分はこれだけで満足してしまった。ごめんなさい。