麻耶雄嵩 『貴族探偵』


貴族探偵 (集英社文庫)/麻耶 雄嵩

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一筋縄ではいかない本格ミステリ作家の麻耶雄嵩が、また個性的な探偵を生み出した。




本書に出てくる探偵は、その名の通り貴族。


故に使用人をはべらせ、捜査も使用人任せである。


そうか、最後の最後に推理だけしておいしいところを持っていくパターンか、と思いきや、なんと推理まで使用人任せなのだ。


探偵本人は何もせず、椅子に座って偉そうに支持を出すだけ。
事件に居合わせた美女をくどきまくり、およそ探偵としての仕事は皆無。


「推理などというつまらないことは、使用人に任せておけばいい」と言う。ならなぜ探偵などと名乗るのか。この設定がまず面白い。




収録作は以下の通り。



「ウィーンの森の物語」

「トリッチ・トラッチ・ポルカ」

「こうもり」

「加速度円舞曲」

「春の声」




捜査も推理もしない探偵という設定は面白いが、それ故に「主人公である名探偵が謎を解く」というカタルシスがなく、そこがちょっと物足りない。


事件やトリックもそう驚くものではなく、設定の妙を楽しんだほうがいいかもしれない。



しかしただ一編、「こうもり」だけはミステリとしてたいへん素晴らしい。


いや驚いた。フェアな叙述を極めた先に、こんな仕掛けが待っているとは。


思わず笑いました。これは凄いわ。




ちょいネタバレ気味で言うと、読者にはそこに5人いるように思えるのに、実際は4人しかいなかった、という感じ。


それを踏まえた上で読んでも、たぶん気付けないとは思うけど。







ちなみに本書には『貴族探偵対女探偵』という続編がある。


貴族探偵のライバルとして、新たに女探偵が出てくるらしい。



そちらもそのうち読もうと思います。