森博嗣 『有限と微小のパン』
- 有限と微小のパン (講談社文庫)/森 博嗣
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まさに至高。それ以外にない。
しかしそれだけではなんなので、蛇足とは承知しつつも少しだけ感想などを。
本作は森博嗣のデビュー作『すべてがFになる』から始まる、通称《S&Mシリーズ》の10作目、最終巻である。
『F』の英題が『THE PERFECT INSIDER』だったのに対し、『パン』は『THE PERFECT OUTSIDER』となっており、両作は対を成す作品となっている。
『F』で登場した天才科学者、真賀田四季。
長崎にあるテーマーパークに招待された西之園御一行は、四季と再びの邂逅を果たすこととなる。
ミステリィ(←森博嗣的表記)なので当然殺人事件が起こるわけだが、この真相は結構驚いた。
場合によってはバカミス…あるいはアンチミステリィとして評価されそう。
ただ現実的には至極真っ当であり、再現不可能ではない。やろうとする人間はいないと思うけどw
それよりも興味深いのは、四季という人格。思考。
シリーズの主人公である犀川や萌絵もかなり特殊な人格で面白いが、この真賀田四季という天才は、森作品至上で最も常人離れした特殊さを持ち合わせている。
というか、自分が今まで読んできた小説のキャラクターの中でも一番特異な天才。(常識的に見れば異常者かもしれない)
その思考(の一部)に触れられる。
それが本作の一番の価値だろう。
それはまさしく、冒頭に書いたように、至高である。
言葉はいらない……というか言葉だけでは表せない。
言葉は思考の単純化であり、言葉に還元した瞬間に瓦解してしまうからだ。
思考は思考のままで。
本作を読むと、そう思わずにはいられなくなる。
だからこの感想は、すべて蛇足です。
シリーズ中最も分厚い作品になったわけだが(800ページ超え)、読み心地はその半分くらいに感じるから臆することはない。(分厚すぎてなかなか読む気にならない人がいるらしいので言ってみた)
シリーズ完結編とはいえ、なにか大きなカタストロフがあるわけでもなく、四季の至高さや事件の異常さを別にすれば、わりと淡々と進んで終わる。
著者本人も、これを「完結編」と呼ぶことはしっくりきてない様子で、シリーズ全体を通してようやく一つのお話に区切りがついた、といった具合だろうか。
実際、別シリーズで犀川や萌絵、脇役の国枝さんなんかがちょいちょい出てくるらしい。
シリーズは終わっても、愛すべきキャラクターたちに他作品で会えるのは嬉しい。
シリーズ10作目の最終巻だけど、たぶんこの巻から読んでも問題ないんじゃないかな。
少なくとも著者は、「シリーズを順番に読まなければいけない理由はない」と仰ってます。