イアン・マクドナルド 『サイバラバード・デイズ』


サイバラバード・デイズ (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)/イアン マクドナルド

¥1,836
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かつて『火星夜想曲』でSF界の寵児となったマクドナルドは、いつしか人々の記憶から忘れられ……という各所で言われてる略歴はともかく、「復活後」の氏はどうやら大活躍の様子。



そんなマクドナルドが近未来のインドを舞台に狂騒的な日常を描いた連作短編集が本書。




収録作は、


「サンジーヴとロボット戦士」

「カイル、川へ行く」

「暗殺者」

「花嫁募集中」

「小さき女神」

「ジンの花嫁」

「ヴィシュヌと猫のサーカス」





各中短編に共通するのは、「パーマー」と呼ばれる手袋型情報端末と、それに付随する「ホーク」と呼ばれる(耳の後ろにつける)受信機、男でも女でもオカマでもない第三の性である「ヌート」という人種、インドの神々、ジン、高性能AI、AIが演じる国民的ドラマ、そして分離戦争。


テクノロジーに塗れたインドで、人間味溢れる人々が織りなす日常と狂騒。


《結婚》というモチーフがたくさん出てくるのも特徴で、これはインドらしい……と言っていいのかよくわからないが、カースト制度の残るインドでは結婚もまた楽じゃないようだ。





前半は物珍しいインドの風景や人々、そして進化した文明が新鮮で楽しめたが、後半になるとちょっと飽きてくる。


科学の進歩のわりに人々の価値観は相変わらずだし、せっかくのSFガジェットがやや勿体ないような……。



とか言ってると「ジンの花嫁」ラストシーンで目が覚めて、巻末の中編「ヴィシュヌと猫のサーカス」がとんでもない傑作で驚いた。


この中編だけ違う人が書いてない?と思うほど素晴らしい。


ヴィシュヌという神の名を冠した遺伝子操作のデザイナーベイビーが語る半生とインドの未来。


それまでは人々の泥臭い日常にスポットを当ててきたけど、ここで一気にSF的ビジョンが炸裂する。


まさかこんなシンギュラリティが到来するとは。



この中編だけでも読む価値がある。


でも他のも面白いし細かい設定の説明は各短編から徐々にわかってくることなので、やっぱり全部読みましょう。







ちなみに本書からスピンオフした長編『River of Gods』はマクドナルド復活のきっかけとなった傑作らしく、そちらの翻訳も望みたい。