宮内悠介 『盤上の夜』


盤上の夜 (創元日本SF叢書)/宮内 悠介

¥1,680
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表題作にて第一回創元SF短編賞 山田正紀賞を受賞し、デビュー作にも関わらず直木賞候補になり、最終的には日本SF大賞を受賞するまでに至った短編集。




どの短編も、囲碁や将棋、麻雀などの盤上遊戯をテーマとし、とあるインタビュアーが関係者に取材していくという体裁で進む。


収録作は、



「盤上の夜」

「人間の王」

「清められた卓」

「象を飛ばした王子」

「千年の虚空」

「原爆の局」




表題作のテーマは囲碁。


旅行中に拉致され四肢を失った灰原由宇は、生きるために囲碁を覚え、盤上を自らの身体とダイレクトに接続して碁を打つ。


そして彼女が至った境地は、抽象で世界を塗り替えること……。




「人間の王」ではチェッカーという珍しい遊戯を扱い(チェスではない)、人と機械の対決から、またしても《世界》あるいは《宇宙》の概念にまで飛翔する意識を描く。




やや異色なのが「象を飛ばした王子」で、古代インドの遊戯チャトランガの成立秘話のような、とある小国の王子の物語が綴られる。




最後に「原爆の局」にて再び灰原由宇らがと登場し、それぞれ独立した短編群は緩やかな繋がりのような気配を見せるのだ。






正直自分はここに出てくるボードゲームは一つもわからないんだけど、それでも楽しめるほどに小説が上手い。


デビュー作とは思えないほど文章がこなれてるし、構成も達者。


明らかに「書ける人」の文章だねこれは。
直木賞の候補になったのも頷ける。




一方でSF要素は薄く、日本SF大賞を獲るほどジャンルSFとしての面白味はない気がする……と最後のページをめくるまでは思っていた。


がしかし、その直前に、唐突に「これはある意味で人類進化の一端なのでは……?」という想いに囚われたのである。



なんだか上手く言えないが、「どこがSFなの?」と読んでいた物語は確かにSFであったと確信した瞬間。


言うなればそれは内宇宙で、意識の中の宇宙だ。


物理の規範は存在せず、無限に無限が存在する世界で、各登場人物たちは「ここではない場所」を見つめていた。



その境地に、ほんの一端だけ触れることができたような、そんな読後感。






よくわかんない感想だけど、要は面白かったってことですw





この本は来月に文庫化されるらしいので、これから買う方はそれまで待ったほうがよろしいかと。