パオロ・バチガルピ 『第六ポンプ』


第六ポンプ (ハヤカワ文庫SF)/パオロ バチガルピ

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第一長編『ねじまき少女』で一躍SF界の寵児となったバチガルピの短編集。



「バチガルピ」という珍しい(そして覚えにくい)名前も興味深いけど、その作品もかなりのもの。



収録作は、


「ポケットの中の法(ダルマ)」

「フルーテッド・ガールズ」

「砂と灰の人々」

「パショ」

「カロリーマン」

「ポップ隊」

「タマリスク・ハンター」

「イエローカードマン」

「やわらかく」

「第六ポンプ」




このうち「カロリーマン」と「イエローカードマン」は、長編『ねじまき少女』と同じ世界を舞台にした短編。



これらに共通するモチーフとして、バチガルピ流のディストピア観が挙げられる。


とにかくこの世の未来はそう明るいもんじゃないという未来観のもと、荒廃した土地、荒んだ人間たち、そして新たな社会の基盤などなどが色濃く描写されるのが特徴。


決して悲観的なだけではないものの、辛い世界で辛い生き方を強いられる登場人物たちを見ているのは、こちらもなかなか神経を使うので疲れる。



印象としては、著者は格別「SFを書きたい」という想いがあったわけではなくて、「書きたいことを書いたらSFになった」という感じなんじゃないかと思った。


もちろんSFファンが喜ぶような設定(例えば、人体内部に特殊なゾウムシを巣食わせることによって、砂でも岩でもなんでも栄養に変えられる、つまりなんでも食べられるようになった人類とか)もあるんだけど、それらはあくまで設定で、ストーリーに上手く活きてくるわけでもないのがやや不満。





一番完成度が高いのは、ローカス賞を受賞した表題作「第六ポンプ」。


化学汚染によって人類の痴呆化が進む近未来で、地下にあるポンプの管理を任されている青年の話。




異色なのが、「フルーテッド・ガールズ」。


身体をフルート(楽器)に改変された姉妹の話。


裸になってお互いの吹き穴を吹き合って音楽を奏でるという百合描写が艶めかしい。




さらに異色なのが、SFでもなんでもない淡々とした殺人譚「やわらかく」。


きっかけというほどのものもなく、ちょっとした衝動で妻を殺した男が、さてどうしようかなーと1日を過ごすという、ただそれだけの話。


しかし、個人的にはこれが一番楽しんで読めた。


著者は環境問題とかディストピアとかに関心があるみたいだけど、そんなのよりも、自由にやりたいように文学でも書いたほうが面白いんじゃないだろうか……なんて思ったりもしたよ。








総じて、誰もが面白いと思える作品ではないけど、現代SFの新たなジャンルとしての価値は高い。




もう少し希望のある未来であっても良いんじゃないかとは思うけどねぇw