ジェフリー・フォード 『白い果実』
白い果実/ジェフリー フォード

¥2,625
Amazon.co.jp
世界幻想文学大賞を受賞した、三部作の一作目。
原題の『THE PHYSIOGNOMY』は「観相学」の意。
観相学とは、その人の相貌を観察し推し量ることによって、性格や嗜好、果ては未来までも読みとる学問のこと。
マスター・ビロウが支配する《理想形態都市(ウェルビルトシティ)》に住む一級観相官の主人公クレイは、ある日マスターから、都市を離れ辺境の属領で起きた事件を調べるように命じられて現地に赴く。
その村アナマソビアにて、幻の「白い果実」が何者かに盗まれたとの報。
クレイは得意の観相学を用いて、村人一人ひとりを調査していく。
ところでこの主人公クレイはとんでもなく嫌な奴で、傲岸不遜が服を着て歩いてるような人間なのである。
物語の主人公がここまで性格の悪い奴というのも珍しい。
自分とマスター以外のほとんどの人間を侮蔑するクレイは、アナマソビアでの調査を続けるうちに、天罰とでもいうべき転落人生を味わうことになる。
一級観相官の地位から転落したクレイは島流しに合い、地獄のような硫黄採掘場で死ぬまで働かされることになった。
そんな極限状態の中、村での調査中に助手を務めた聡明な女性アーラが祖父の体験を元に書いた《この世の楽園への旅》という手記の断片を幻視するようになるクレイ。
見た目はそっくりだけど中身は正反対な兄弟の見張り役や、人語を理解する奇妙な猿などなど、個性的なキャラクターたちに翻弄されながら、徐々に傲慢な己を恥じて改心していく。
と、あらすじを書いてたらキリがないくらいに様々な要素、展開に圧倒される。
簡単にいえば、第一部で偉そうに調査していた主人公がとうとうやらかし、第二部で酷い目に合いながらもなんとか帰還し、第三部ではすっかり善人になって独裁的なマスターを倒してやろうと奮闘する話。
最初はもっと幻想文学寄りの話なのかと思ってたけど、思いのほか冒険小説的展開になって驚いた。
作者は『ガラスの中の少女』のような軽快な作品も書く人なので、硬筆な中にもユーモラスな筆致が窺える。
もちろん幻想部分も素晴らしくて、第一部で散りばめられた数々の謎、この世の楽園(それは実在するのか何かのメタファーなのかも判然としない)、人間とは思えない「旅人」の存在、白い果実の秘密、《彼の地》の探索に出たアーラの祖父の物語(の幻視)などなど、時にリアルでありながら、白昼夢めいた幻想がそこには常にまとわりついているのだ。
何層にも連なった難解な幻想文学的要素を、軽快な冒険小説的エンタメで包んだような感じ。
とはいえ文章自体はかなり読みやすいのでご安心を。
この本が(一部で)話題になったのは、内容もさることながら、訳文をあの山尾悠子が書いたということに尽きる。
正確に言うと、翻訳者が訳したものを、山尾悠子が自分の文体でリライトしたということ。
山尾悠子を一言で説明すると、途轍もなく美しい文章を書く幻想文学作家(でも途轍もなく遅筆)。
なので、「あの山尾悠子が訳文を!?」というだけで、日本ではちょっとした事件だったのである。
そんな文章のおかげもあってか、訳者あとがきにもあるように、もしかして原文を超えてしまってるんじゃないかという気もする。
ともすればありがちなエンタメ小説になってしまいそうなところを、山尾悠子の文体のおかげで重厚な幻想文学ファンタジィに仕上がっているという具合。
最初に書いたように本書は三部作の一作目なので、クレイの物語はまだ続く。
ここから先、どういった展開が待ってるのか想像がつかないので、ぜひ残り二作も読みたいところ。(絶版ではないけど普通の書店ではまずお目にかかれないので、探すのが大変……)
白い果実/ジェフリー フォード

¥2,625
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世界幻想文学大賞を受賞した、三部作の一作目。
原題の『THE PHYSIOGNOMY』は「観相学」の意。
観相学とは、その人の相貌を観察し推し量ることによって、性格や嗜好、果ては未来までも読みとる学問のこと。
マスター・ビロウが支配する《理想形態都市(ウェルビルトシティ)》に住む一級観相官の主人公クレイは、ある日マスターから、都市を離れ辺境の属領で起きた事件を調べるように命じられて現地に赴く。
その村アナマソビアにて、幻の「白い果実」が何者かに盗まれたとの報。
クレイは得意の観相学を用いて、村人一人ひとりを調査していく。
ところでこの主人公クレイはとんでもなく嫌な奴で、傲岸不遜が服を着て歩いてるような人間なのである。
物語の主人公がここまで性格の悪い奴というのも珍しい。
自分とマスター以外のほとんどの人間を侮蔑するクレイは、アナマソビアでの調査を続けるうちに、天罰とでもいうべき転落人生を味わうことになる。
一級観相官の地位から転落したクレイは島流しに合い、地獄のような硫黄採掘場で死ぬまで働かされることになった。
そんな極限状態の中、村での調査中に助手を務めた聡明な女性アーラが祖父の体験を元に書いた《この世の楽園への旅》という手記の断片を幻視するようになるクレイ。
見た目はそっくりだけど中身は正反対な兄弟の見張り役や、人語を理解する奇妙な猿などなど、個性的なキャラクターたちに翻弄されながら、徐々に傲慢な己を恥じて改心していく。
と、あらすじを書いてたらキリがないくらいに様々な要素、展開に圧倒される。
簡単にいえば、第一部で偉そうに調査していた主人公がとうとうやらかし、第二部で酷い目に合いながらもなんとか帰還し、第三部ではすっかり善人になって独裁的なマスターを倒してやろうと奮闘する話。
最初はもっと幻想文学寄りの話なのかと思ってたけど、思いのほか冒険小説的展開になって驚いた。
作者は『ガラスの中の少女』のような軽快な作品も書く人なので、硬筆な中にもユーモラスな筆致が窺える。
もちろん幻想部分も素晴らしくて、第一部で散りばめられた数々の謎、この世の楽園(それは実在するのか何かのメタファーなのかも判然としない)、人間とは思えない「旅人」の存在、白い果実の秘密、《彼の地》の探索に出たアーラの祖父の物語(の幻視)などなど、時にリアルでありながら、白昼夢めいた幻想がそこには常にまとわりついているのだ。
何層にも連なった難解な幻想文学的要素を、軽快な冒険小説的エンタメで包んだような感じ。
とはいえ文章自体はかなり読みやすいのでご安心を。
この本が(一部で)話題になったのは、内容もさることながら、訳文をあの山尾悠子が書いたということに尽きる。
正確に言うと、翻訳者が訳したものを、山尾悠子が自分の文体でリライトしたということ。
山尾悠子を一言で説明すると、途轍もなく美しい文章を書く幻想文学作家(でも途轍もなく遅筆)。
なので、「あの山尾悠子が訳文を!?」というだけで、日本ではちょっとした事件だったのである。
そんな文章のおかげもあってか、訳者あとがきにもあるように、もしかして原文を超えてしまってるんじゃないかという気もする。
ともすればありがちなエンタメ小説になってしまいそうなところを、山尾悠子の文体のおかげで重厚な幻想文学ファンタジィに仕上がっているという具合。
最初に書いたように本書は三部作の一作目なので、クレイの物語はまだ続く。
ここから先、どういった展開が待ってるのか想像がつかないので、ぜひ残り二作も読みたいところ。(絶版ではないけど普通の書店ではまずお目にかかれないので、探すのが大変……)