小川一水 『フリーランチの時代』


フリーランチの時代 (ハヤカワ文庫JA)/小川 一水

¥693
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『天冥の標』シリーズが絶好調な小川一水のSF短編集。



裏表紙のあらすじに「さまざまな幼年期の終わりを描く」とあるように、人類が(様々な形で)次の階梯に登るタイプの物語が多い。


しかしそれは本家『幼年期の終わり』ほど劇的なものではなく、時にほのぼのと、時にじわじわと人間社会に浸透していくものなのだ。




収録作は、


「フリーランチの時代」

「Live me Me.」

「Slowlife in Starship」

「千歳の坂も」

「アルワラの潮の音」




テーマ的に興味深かったのは、「千歳(ちとせ)の坂も」。


人類が不老不死になった社会を描いた短編だが、それはなにか特別な力によるものではなく、医学が発達してなった結果である。


「健康であること」が法律でも義務化され、不老不死の処置を行わない人々は法律違反に問われる社会。


そうなると必然的に出てくるのが、「死ぬ権利」を叫ぶ人々だ。


緩やかに死んでいく薬を、密かに売りさばく町。それに縋って死のうとする人々。



死ななくなった人類は、その後、幾度も倫理と価値観の変容を経て宇宙へと飛び出していく。




こういったテーマを本気で描けるのがSFの良いところ。


「もし今そんな社会になったら……」と想像してみるのも楽しい。







巻末の短編「アルワラの潮の音(ね)」は、著者の長編『時砂の王』のスピンオフ作品。


とある未開の島に、時を超えてやってきた異星人(悪者)と、それを殲滅する未来人の戦いを描く。


『時砂の王』の主人公オーヴィルも登場する、ファンには嬉しい一編。






こないだ読んだ瀬名秀明の『希望』よりはずっと読みやすいSFなので、SF苦手な人にもおススメです。