瀬名秀明 『希望』


希望 (ハヤカワ文庫JA)/瀬名 秀明

¥756
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『パラサイト・イヴ』や『BRAIN VALLEY』で有名な著者の第一短編集。


『ハル』や『第九の日』のような連作を除いた純粋な短編集はこれが初とのことで、ちょっと意外。





収録作は、



「魔法」

「静かな恋の物語」

「ロボ」

「For a breath I tarry」

「鶫と鷚」

「光の栞」

「希望」




SFの短編集ではあるが、総じて文学的であり、それを超えた哲学ですらある。


「魔法」や「ロボ」、「For a breath I tarry」も傑作だけど、とにかく表題作の「希望」が素晴らしい。




少女が語るのは、幼いころ父親と共に行った衝突実験。


大型ハドロン衝突型加速器の研究であり、コミュニケーションの定性・定量化モデルの構築。


母親は、いわゆる《エレガントな宇宙》の不在を証明し、ヒッグス粒子の発見とその先の科学を見据える。


少女はグレアム・グリーンの著作に魅了され、その哲学の中で、重力に抗えずにテロを繰り返す人類の次の階梯を登り、最後に”希望”を残した。





なんのことやらさっぱりわからないでしょうけども、読んでもはっきり主題やストーリーがわかる類のものではないのです。


まさに、SFを超え、文学を超え、哲学すら超えようとしている著者の”未来”がここにある。


その他の短編にも共通なモチーフはあって、テロの先の人類、希望、未来などが《科学》によって描かれたのがこの短編集。






瀬名秀明は、SF作家の中でも特に《科学》の観点から人類を見据えており、時に読者に不親切なほどの飛躍を見せることもある。


だけどその鮮烈なビジョンには確かに未来があり、人類が科学とは切り離せない存在であることを痛感するのです。





まぁとにかく、最後の「希望」だけでも読んでみてほしい。



ただ無邪気に美しいだけでも、あるいは恐ろしいだけでもない”未来”と“希望”がそこにはある。