米澤穂信 『リカーシブル』


リカーシブル/米澤 穂信

¥1,680
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米澤穂信久々の新刊は、実に自分好みの傑作でした。



主人公である中学1年生のハルカの父親が会社の金を盗んで行方をくらまし、再婚相手の母親とその息子サトル(小3)と一緒に、母親の故郷に帰ってくるところから物語は始まる。


常井というその町でつつましい生活を送る3人だが、なぜかこの町に帰ってきた日からサトルが妙なことを言い出すようになった。
まだ起こっていないことを言い当てたり、知らないはずの過去を知っているというのだ。


どうしても義理の弟を好きになれないハルカは、サトルの嘘に決まっていると相手にしない。


だがそれが続くにつれて、そうも言っていられなくなる。
どうやらこの町には、《タマナヒメ》という未来・過去予知の伝承があるらしい。


タマナヒメの伝承を調べるハルカ。
この町で始めて仲良くなったクラスメイトのリンカも、何かが妙だ。


そう、この町はどこかおかしい。






という、不穏な雰囲気がたいへん素晴らしい傑作。


物語というのはプロットやキャラクターも大事だけど、雰囲気というのも重要になってくる。


本書は、これまでの作者らしからぬ不穏な雰囲気が実に自分好みなのでした。


恩田陸の著作や、道尾秀介の『シャドウ』に近い感じ。




最後まで読んで驚いたのは、真相の複線がかなり最初のほうから何度も張られていたということ。


読み返せば、「ああこれもか!」と驚くことになるだろう。


また、「予知」という幻想が現実に還り、しかしそこで新たな幻想が顔を見せる構図も素晴らしい。



結局、タマナヒメは実在するのか?予知は?そしてこれからこの町とハルカたちはどうなるのか?


それらを明確に描かないのも、恩田陸っぽい。



とか思ってしまうのは自分が恩田陸ファンだからかもしれないけど、タマナヒメ伝承やリンカの人物造詣など、もっと掘り下げてほしいと思ってしまう部分もあった。
まぁそれは贅沢かもしれんけどね。


「恩田陸だったらリンカ視点でも書いてただろうな~」とか思ってしまうのさw






ともあれ謎が気になってスイスイ読んでしまうことは間違いない。


これはおススメです。