恩田陸 『ユージニア』



ユージニア (角川文庫)/恩田 陸
¥660
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再読。



今回再読してみて、驚くほど細部まで覚えていたことがわかった。



それほど印象深かったということか。





第59回 日本推理作家協会賞受賞作。たしか直木賞の候補にもなったはず。



だがそんな文学賞なんてものはどうでもいい。

そんなものがなくても、この本はたいへん素晴らしい傑作である。







ユージニア、私のユージニア。


私はあなたと巡り合うために、ずっと一人で旅を続けてきた。






かつて、代々続く医者の名家でおきた大量毒殺事件。



その日は名家・青澤家で盛大なお祝いが催されており、家族、家政婦、近所の人間がたくさん出入りしていた。



そして毒の入った飲み物を飲んだ、大人と子供17人が死んだ。



毒を飲んでも奇跡的に生還した人間はほんの少数いたが、一人だけ何も飲まずに済んだ人物がいる。



それが青澤当主の孫娘、緋紗子だ。



緋紗子は幼い頃の事故で目が見えなくなっていた。だから毒を飲まずに済んだ。



彼女は当時、中学一年生だった。彼女は特別だった。



見えなくなった代わりに、世界を手に入れたのだ。






物語は、過去に起きたその毒殺事件を、当時の関係者にインタビューしていく形で進む。



いわゆる、独白形式。



事件当時小学生だった女性が大人になって書いた、『忘れられた祝祭』という例の事件を題材にして書いた本について。



犯人とされる、自殺した若い男について。



誰よりも謎めいた、青澤緋紗子について。



人々は語る。




そして見えてくるのは、事件のおぼろげな輪郭と、緋紗子という人間の特別性。




この物語の印象を一言で表すなら、雨だ。



ずっと雨が降っている。

しとしとと、陰鬱な雨が降り続いているかのような物語。



事件当時も、雨が降っていた。嵐が来ていた。



今も昔も、ずっと雨は降り続いたまま、関係者の心に暗い根を張る。




事件の異常性。

結果的には犯人とされる男の自殺で終結した事件なのに、誰もが納得いかないものを抱えている。



真犯人が他にいるのではないかという疑問を。






色んな人々の独白や、創作という形で事件当時を描写されるので、しっかり読まないと茫洋とした物語に流されてしまうかもしれない。




この本について、結末が曖昧だとか、解決してないだとか、よくわからないだとかいう意見もあるらしい。



しかし何を言ってるのか。

この本に陳腐な解決なんて無粋なだけだし、曖昧で「わからない」からこそ素晴らしいのだ。



「わからない」ことがこんなにも魅力的だなんて。



すべての謎が解かれないことが、こんなにも人を惹きつけるとは。




これは、そういう本である。



好みは分かれるだろうけど、個人的には殿堂入りレベルの傑作。



恩田作品の中でもベスト3に入る。



一番他人にススメるのなら、これでしょうね。






文庫版が出ているけど、単行本は本文が斜めに傾いだ特殊なレイアウトになっていて、事件の茫洋さや不安を表していてとても素晴らしい。



できれば、単行本で読むことをおススメしたい。





読書を続けると、たまにこういう神がかった本に出会えるからやめられないね。