恩田陸 『まひるの月を追いかけて』
- まひるの月を追いかけて (文春文庫)/恩田 陸
- ¥660
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いい加減にしろと言われそうですが、まだまだ恩田陸再読キャンペーンは続く。
というわけでこれも再読。
キーとなる人物は、渡部研吾。
彼は奈良で失踪し、その恋人である優佳利と、異母妹である静が彼を探す旅に出る。
要は、奈良の明日香や藤原京、橘寺や古墳群を舞台にした女2人のロードノベルなんだけど、章ごとに強烈な引きをもって続いていくのは著者の真骨頂か。
話が進むにつれて、次々と明らかになる真実。そして嘘。
地味めな話ながら、心理描写が巧みで読ませる。
まず一章冒頭の文からして激しく頷ける。引用してみよう。
《旅に出るときは、ひどく憂鬱になる。子供の頃からいつもそうだった。指折り数えて待っていたはずの遠足や修学旅行が明日に迫り、荷造りをしながら気付くのは、自分が本当は「行きたくない」と願っていることだ。何かアクシデントがあって、突然中止になってしまえばいい。誰かが、「行くな」と強く引きとめてくれればいい。そうすれば、表面上はがっかりしてみせるけど、心の底ではホッとするに違いない、と》
個人的に、小さい頃からずっと、漠然と感じていたことを的確に表現してくれたと歓喜したほどです。
そう。旅というのはなぜかひどく憂鬱なもの。
旅行中一番楽しい……というか心安らぐのは、移動の最中だと自分は思ってます。
車、バス、電車、飛行機、船。
いずれにしろ、目的地に行くまでのこの宙ぶらりんな時間が一番安らげるし、旅をしているという感覚に浸れるのです。
というわけで、もうこの冒頭で引きこまれたね。
そしてもう一つ、激しく同意できる文章があったのでまた引用。
《私には、3人でいると引いてしまう癖がある。二対一の、一の方のポジションを無意識に選んでしまうのだ。なぜかは分からない。二人で何かをしてくれていて、その近くにいてぼんやり何かを考えている、というのが楽なのだ》
いやー、わかるわそれー。
3人でいたら、絶対「二」の側にはなりたくないんだよねぇ。
というかホントに無意識に、二人から距離を置いてしまう癖がある。
これらに同意する人も少なくないんじゃないでしょうかねぇ。
それとも少数派なんだろうか?
まぁこういった部分は話の中心とは関係ないんだけど、読み終わって心に残るのって、案外こういうなんでもない部分だったりもするからわからないものです。
今度は、奈良を旅行しながら読みたい傑作でした。