恩田陸 『三月は深き紅の淵を』



三月は深き紅の淵を (講談社文庫)/恩田 陸
¥700
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ただいま絶賛恩田陸にハマってまして、連続3冊目。でもこれは再読。



約10年ぶりの再読。

初めて読んだのは、たしか高校生の頃。



しかも当時はまだ小説にハマり始めたころでスレておらず、そんな時期に読んで「傑作だ」と思った本を、果たして今読んでも面白いと思えるだろうか……という不安は杞憂に終わり、やはりこれは傑作だと再認識。





全体は四つの章から成り立っていて、第一章「待っている人々」、第二章「出雲夜想曲」、第三章「虹と雲と鳥と」、第四章「回天木馬」それぞれに共通するモチーフは、《三月は深き紅の淵を》というタイトルの本。



作者不明の謎の小説。

自費出版でほんの少しだけ世に出回ったこの本は、たった一人に、たった一晩だけ貸すことが許されるというルールがある。



世紀の傑作というわけではないけど、不思議な魅力で読者を惹きつけるこの本。



この本はどの章にも出てくるが、章によって扱いが違う。



時にそれは幻の本であり、存在しない本であり、これから書かれようとしている本でもある。




そしてこの作中の《三月は深き紅の淵を》も四部作をなしており、その中の第一章「黒と茶の幻想」は、実は著者(恩田陸)の長編として出版されているのだ。



ついでに言えば、第四章で作者とおぼしき女性の一人称の間に挿入されている物語も、『麦の海に沈む果実』という長編として出版されている。



言ってしまえば複雑なメタ構造の小説なんだけど、この本の魅力はそういったミステリ的な部分に留まらない。




折しも作中で言及される《三月は深き紅の淵を》と同じように、その独特の雰囲気にとても魅了される。



人を選ぶのかもしれないが、自分にとってこれは読書の原初的体験として深く心に残っている。





と、ここまで感想を書いてはみたものの、なんとも紹介の難しい本ですよこれはw



内容自体、複雑な入れ子構造になっていて一筋縄ではいかない。



それに加えて現実の著者の作品ともリンクしたり派生したりして、そこまで説明するにはちょっと気合いを入れて書かねばなるまい。

(しかしそんな気力はなかったw)




プラス、自分の場合、かつて夢中になって読んだ本の再読ということで、思い入れもひとしおである。



読みながら、高校時代のことも思い出してしまいました。




あの頃、まだ小説というものに慣れていなかった時期にこの本を読めたことは、幸運だったなぁとしみじみ思う。



誰か自分の親しい人や好きな人に贈るなら、この本を贈りたい。



《本》の、そして《物語》の魅力に、きっと気付けるはずだ。






読んでる最中はもっと長々と感想が書けると思ったんだけど、こうして読み終わってみると、何をどう書けばいいのかわからなくなってしまった。



不思議な小説である。




とにかく、これ以上ないほどの魅力に満ちたこの本。



おススメしたくないほどに、おススメです。