フィリップ・K・ディック 『アジャストメント』



アジャストメント―ディック短篇傑作選 (ハヤカワ文庫 SF テ 1-20)/フィリップ・K・ディック
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もはや何冊出てるのかわからないディックの短編集。

(解説に詳しく書いてあるけどね)



これは、同名映画『アジャストメント』公開に合わせて、割と最近編まれた日本オリジナルの短編集である。




著者のデビュー作である「ウーブ身重く横たわる」、初期作品の表題作、「ルーグ」、「にせもの」、「くずれてしまえ」、「消耗員」、「おお!ブローベルとなりて」、「ぶざまなオルフェウス」



そして中期の傑作「父祖の信仰」、「電気蟻」、晩年の作品「凍った旅」、本邦初訳の掌編「さよなら、ヴィンセント」



巻末に、エッセイの「人間とアンドロイドの機械」を収録。





前に何かの雑誌で日本のSF作家が、「ディックは夢を見るように読むのがいい」と話していて、それに激しく同意する次第。



そういった傾向にあるのは主に長編なんだけど、ここに収めれてる短編でいうと、中期~後期の「父祖の信仰」、「電気蟻」、「凍った旅」辺りがそれに近くて面白かった。




初期作品は、いかにも昔のSF短編といった感じで、普通に面白いけどディックらしさはあまり感じられず。(だからといって悪いわけでは決してないけど)




そんな中、自分が一番気に入ったのは、SFとはなんの関係もない初訳の掌編「さよなら、ヴィンセント」だったりするからディックは面白い。



でもなんだろう、ディック特有のこの無情感というか諦念というか、気怠いときに読むと妙に肌に合うのである。




そしてエッセイの「人間とアンドロイドと機械」だけど、これはもうほとんど意味がわからないw



晩年になってやたら宗教や神などにかぶれたディックの、まさにそういった側面が爆発していて、これは新手の宗教書かといった体(てい)。



ある意味ではこれが一番SFしていて、エッセイじゃなくて小説なんじゃない?と思って読めば楽しめる(かもしれない)。






ディックは、死後もこれだけ支持されてるだけあって小説はかなり上手いのにそう見えない作家で、例えるならば「超美味しいB級グルメ」みたいなものだ。



どれだけ美味しくても、なんとなく雰囲気がB級っぽい。でも味はA級。



そういうところが愛おしいんだけどねー。





この短編集のあとに編まれた『トータル・リコール』(これも映画化に合わせた日本オリジナル)もあるので、次はそちらを読みましょう。