円城塔 『これはペンです』



これはペンです/円城 塔
¥1,470
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芥川賞候補作でもあり、昨年度のベストSF第1位に輝いた中編集。



表題作の「これはペンです」に加え、「良い夜を持っている」が収録されている。





まず表題作が、タイトルからしてなんとも人を喰ったものである。



「これはペンです」



英題はもちろん、「This is a pen.」



《叔父は文字だ。文字通り。》という印象的な一文から始まるのは、姪が書き記す『叔父』についての手記。



この叔父がなんとも意味不な存在で、とにかく「文字」や「文章」について、意味のあるものを意味のないものから次々と生み出しては消していき、消しては生み出していくのだ。



『擬似論文生成プログラム』なるものを開発したと思ったら、今度はそれを「解読」するプログラムを作ったりする。



自分で掘った穴に自分で埋まり、また自分で埋め直すような生き方の叔父。



もう何言ってんだかわからないと思うけど、書いてる自分でもわかってません←



とにかく、読んでみてくださいとしか言えない。



きっと読んでも「わからない」か「わかった気にはなれたような気がするかも」程度のものだとは思うけど。





もう一編の「良い夜を持っている」は、「待っている」ではなく「持っている」なので注意。



英題を見ればわかりやすい。



「Have a good night.」



こちらは、超記憶力を父に持つ息子の話。



表題作の姉妹編といった趣か。



書き出しがまた良い。



《目覚めると、今日もわたしだ。》



幼い頃から超人的な記憶力を持つことは、決して便利なものではないらしい。



父はその頭の中に一つの「街」を創り上げ、それこそが膨大なる「記憶」の一つ一つなのであった。



これまた何言ってんだかわからないと思うけど、以下同文。





どちらも助かるのは、他の円城作品に比べると読みやすく、何が書いてあるのかわかりやすいという点。



少なくとも、読んでる最中に「あれ、これは何について書かれた小説だっけ?」と読書する自分を見失うことはない。(※他の短編だとたまにある)





ちょっと変わった小説が読みたい、という方はどうぞ。



血沸き肉躍る物語を求める向きには絶対ススメませんw




しかし、これがベストSFの1位になってしまうあたり、SF界の混沌、あるいは逞しさと呼んでもいいのでしょうね。たぶん。



まぁ、スペキュレイティヴフィクションという意味でのSFであれば、まさにその通りなんだろうけど。