SFマガジン編集部 『ゼロ年代SF傑作選』
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タイトル通りというよりは、「リアル・フィクションアンソロジー」といったほうが正しいかも。
主にSFマガジンなどに掲載された、リアル・フィクション世代のラノベ/SF作家の短編を集めたアンソロジー。
「リアル・フィクションってなに?」と思うでしょうけど、きっちりした定義はないし、長くなるので詳しくは巻末の解説をお読みくださいw
ざっくり言うと、70年代生まれで、ラノベ出身の作家がゼロ年代に書き始めたSFと文学の境界的作品、といったとことでしょうかね。
掲載順に、
冲方丁 「マルドゥック・スクランブル”104”」
新城カズマ 「アンジー・クレーマーにさよならを」
桜坂洋 「エキストラ・ラウンド」
元長柾木 「デイドリーム、鳥のように」
西島大介 「Atmosphere」
海猫沢めろん 「アリスの心臓」
長谷敏司 「地には豊穣」
秋山瑞人 「おれはミサイル」
個人的ベストは、「おれはミサイル」かな。
人間がいない世界での、戦闘機の一人称で、まさかのミサイルも喋るという。
短い枚数で、ここまでのものが書けるとは。
この作家はどれもハズレがないけど、あまりにも遅筆に過ぎるのが最大の瑕疵。
2002年初出のこの短編も、いまだに短編集などにまとまっていない。
早く出してくださいw
それに続いて、「マルドゥック~」、「アリスの心臓」、「地には豊穣」が良かった。
ほとんどの作品が、ラノベ的でありながらもその一歩先を行ったものであり、SFとしてはまさにその「ラノベ的なもの」を取り入れた新しいものになっている気がする。
しかし新しいといってもそれはいわゆる「ゼロ年代」での話で、これからの10年代はまた違ったSFが顔を見せるのでしょう。
解説にもあるようにそれは、伊藤計劃(故人だけど)、円城塔から始まり、宮内悠介などの作家も出てきている。
もちろんゼロ年代の作家が終わったわけではなく、これからはそれこそがSFのスタンダードになっていくのかもしれない。
なので、この本に収録されている作家さんたちは、一刻も早く、もっとたくさんSFを書いてほしいと強く望みます。
冲方さん、『天地明察』とか『光圀伝」とかの時代小説書いてる場合じゃないよ。『マルドゥック』の新作はまだですか?w
秋山さんは言うに及ばず、新城さんも桜坂さんも、数年前には早川書房からSF長編を出す予定だったのに、音沙汰ないまま今に至る……。
逆に長谷さんは、ここ最近になって『あなたのための物語』や『BEATLESS』などのSF長編を精力的に書いていて頼もしい。
これからの10年代こそ、ゼロ年代に生まれたSF作家のみなさんに「スタンダード」になってもらうべく活躍してほしい所存に御座います。