上田早夕里 『魚舟・獣舟』
- 魚舟・獣舟 (光文社文庫)/上田 早夕里
- ¥620
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長編『華竜の宮』で日本SF大賞を受賞した著者のSF短編集。
表題作の「魚舟・獣舟」は、わずか30ページ足らずの分量ながら、たいへん素晴らしい傑作。
陸地の半分以上が水没した未来、人々は陸で暮らす「陸上民」と海で暮らす「海上民」に分かれていた。
海上民には、己の分身とも言える「魚舟」という魚がいる。
その「魚舟」が主人を失い変貌した姿が、「獣舟」。
そんな世界でのお話。
最初に書いた長編『華竜の宮』は、この短編の世界を長編化したもの。
そっちを読むのが楽しみになった。
他には、「くさびらの道」が素晴らしい。
パンデミックSFと、「幽霊」を科学的に絡めた手腕が凄い。
全体の半分を占める中編「小鳥の墓」は、著者のデビュー長編である『火星ダークバラード』のスピンオフ。
とある殺人鬼の回想譚で、舞台装置以外はSF味は薄い。
その他に、3つの短編が収録されてます。
前に『火星ダークバラード』を読んだときにも思ったんだけど、この著者が書く「男の主人公」はどうも好きになれない。
なんだかんだ言って結局は自分のことしか考えてないし、アウトサイダーな自分に酔ってるのもなんかイラつくw
ほとんどの「男の主人公」がそんな感じで、そこだけがいちいち気になる。
SF的背景は素晴らしいのに、キャラが好きになれなくてなんかもったいない。
いっそ「人間ドラマ」を排して、SF的アイディアに徹してみたらいいんじゃないかと思っちゃう。
でも著者のインタビューとか読むと、それはありえないだろうなぁw
とりあえず、まだ読んでない『華竜の宮』の主人公は好きになれることを願ってます。
個人的には男性キャラが気に入らないけど、SFとして、小説としては傑作でした。