宮部みゆき 『楽園』



楽園 上 (文春文庫)/宮部 みゆき
¥700
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著者の大長編、『模倣犯』に出てきた前畑滋子が主人公の長編。

とはいえ直接的な続編というわけではないので、『模倣犯』を読んでいなくても大丈夫。

自分も、読んだのは十年近く前なのでほとんど忘れてる)


現実の事件に「超能力」が絡んでくるという点で、同じ著者の『龍は眠る』に似ているかもしれない。

(※『龍は眠る』を読んだのももう十年近く前なので内容はほとんど覚えてないけど)





本書で出てくる超能力は、いわば「サイコメトラー」に近い。



もうこの世にはいない萩谷等くん(享年12歳)は、頭の中に浮かび上がる映像を、稚拙な絵にして残していた。



その絵は、現実に起こった事件と一致する。書かれたのは、事件が起こる前だ。



フリーライターの前畑滋子は、九年前の事件(『模倣犯』)で犯人を追いつめた。

その事件で使われた「山荘」。地面から突き出した13本の手。殺されて埋められた被害者たちの手。



その「山荘」と被害者の絵も、等くんは書いていた。




そんな魅力的で、ちょっとSFチックな導入部から始まるが、物語が進むにつれて「超能力」よりも、それによってどんどん浮き彫りになってくる「事件」にフォーカスが移る。



正直、もう後半は超能力なんてどうでもよくなってくるw



等くんの能力をきっかけに焙り出されていく事件。



そこにまとわりつく、人間の闇。愛情。悲劇。




ああもう、こんな重い話になるとはね……・。





読後感は、なんともやりきれない。



悲しみだったり、憤りだったり。



超能力を扱ってはいても、核になるのはやはり「社会」であり「人間」だ。



どうしようもない、ろくでなし。

そういう人間はたしかにいる。



家族の中に、それがいる場合だってあるのだ。



何かがどこかで間違って、もう絶対に元には戻れなくなってしまう瞬間。






そんな瞬間と、その瞬間から人生が崩壊していった人々のお話……。