コニー・ウリィス 『航路』
- 航路 上 (ヴィレッジブックス F ウ 3-1)/コニー・ウィリス
- ¥998
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アメリカSF界の女王、コニー・ウィリスの臨死体験SF大作。
臨死体験。NDE(Near Death Experience)。
主人公は、心理学者のジョアンナ。
ジョアンナは臨死体験を科学的に解明するため、神経内科医のリチャードと共同で、擬似NEDを被験者に体験させて研究を行うことになった。
しかし研究はトラブルに見舞われ、被験者は減り、ついにジョアンナは自らNEDを体験することになる。
そこでジョアンナが見たもの。
ここがどこなのか知っている。なのにどうしても思い出せない。
紆余曲折を経て思い出したその場所は、思いがけない場所だった……。
というのが大まかなプロット。
しかし練熟のステーリーテラーであるコニー・ウィリスは、文庫上下巻で1300ページ(京極夏彦のレンガ本くらい)にも及ぶこの超大作を飽きさせることなく読ませる。
ウィリスお馴染みのコメディ展開。キャラが立ちまくった登場人物たち。終盤に待ち受ける感動。
すべてがオーソドックスでありながら、すべてが一級品なのだ。
登場人物なんて、とにかく人の話を聞かない。ひたすら自分の言いたいことを喋りつづけて、その無駄なお喋りだけで全体の3分の2くらいあるんじゃないかと思える。
しかしウィリスの凄いところは、一見無駄に思えるそんなか会話ですら重要な伏線になっているということ。
抜群に小説が巧い。訳者が「アメリカの宮部みゆき」と呼ぶのも頷ける話だ。
ストーリーの肝となるNED(臨死体験)。
誰もが気になって、誰もその答えを知らない「生のその後」の世界。
もちろんSFなんだけど、SF要素は希薄。(いくつかの体内要素と、擬似NEDを起こさせられることくらい)
だからこそその「答え」に感動を覚えるのかもしれない。
先日読んだ、高野和明 『ジェノサイド』の中で、とある老学者は「進化した人類とは、誰かのために己を捨てて行動できる人間なのかもしれない」的なことを言う。
これはまさにそれだ。ラストに待ち受けるヒューマニズム。NDEの本当の意味。
老学者言うところの、「進化した人類」の姿がそこにある。
ちなみに、「暖かい光に出迎えられて、天使とかキリストとか死んだ祖父母とかに出会って、啓示を受けて《あの世》を理解した」とかいうスピリチュアル要素は徹底的に笑いものにされてるのでご安心を。
これは、そんな安っぽくて短絡的な《救済》ではないのだ。
ぜひとも万人に読んでほしい傑作です。
と言いたいところだけど、残念なことにこの本は絶版状態になっている。(自分は中古屋で買いました)
こんな傑作を絶版にしている出版社は即刻つぶれてしまえばいいのにと思うわけだが、どうか中古本屋などで見かけた際にはぜひお買い求めください。