小川一水 『天冥の標Ⅱ 救世軍』
- 天冥の標 2 救世群 (ハヤカワ文庫JA)/小川 一水
- ¥798
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大河SFシリーズ《天冥の標》第二巻は、2800年代だった前作と打って変わって201×年が舞台。
とある山奥の少数部族で起こった大量死に始まり、パラオでのパンデミックで幕を開ける。
致死率95%の感染症は、酷い苦痛と同時に、眼の付近に顔を両手で覆ったかのような黒い斑紋が生じ、感染者は体内から妙な芳香を放って情欲を刺激する。
のちに「冥王班」と名付けられるその病気の特徴だ。
この「冥王班」は、1巻『メニー・メニー・シープ』でも出てきた。
そちらでは割と早期に治まったが、発症が始まった2巻では何十万人もの人間が死んだ、最悪のパンデミックとなっていた。
『救世群(プラクティス)』という名前も1巻で出てきた。
この2巻でその意味を知ることとなるが、自嘲を含んだもの哀しい名称ではある。
……なんというか、感想が実に言いにくい本だねw
これ単体でみても、素晴らしいパンデミックSFとして評価できるんだけど、もちろんこれは全10巻の大河シリーズなのだった。
とにかくわからないことが多過ぎる。
1巻で提示された謎も、ほとんど解かれないまま。わかったのは救世群の成り立ちと冥王班の恐ろしさ。
途中、突然差し込まれる『断章二』も意味深。
恐らく例の「ダダー」のことだとは思うけど……。
冥王班の発生源も、本当に宇宙からきたものなのかとか……。
ああ気になる。色んなことが気になる。
冥王班からの回復患者群である「救世群(プラクティス)」が、1巻ではどうしてああも羊飼いに恐れられていたのか。
その羊飼いは、怪物イサリを見て「プラクティス」と言った。
800年の間に、感染症患者がどうしてあんな怪物になったのか。
ああ気になる。何もかも気になる。
そんなわけで、満足感と共に、シリーズとしての謎は深まるばかり……。