円城塔 『オブ・ザ・ベースボール』
- オブ・ザ・ベースボール/円城 塔
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ついこのあいだ芥川賞を受賞し、一躍有名(?)になった円城塔の文芸デビュー作がこの表題作だ。
ちなみにこの中編は芥川賞の候補にもなっていた。
しかし今読むと、なんともわかりやすいその話に驚く。こんなにわかりやすい円城作品があっていのかというくらいにわかりやすい。
反面、物足りない。すごく物足りない。円城がこんなにわかりやすくて良いはずがないのだ。
だって、話のあらすじが説明できてしまうというのが驚きだ。
これ以降の円城作品は、あらすじを説明するのが困難なものがほとんどなのに。
「ファウルズ」という町には、年に1度くらいの割合で人が降ってくる。語り部の「俺」は、そんな降ってくる人間を救うために日夜バットを持って町をパトロールするレスキューチームの一員である。
だがチームはいまだ一回も降ってくる人間を救えた試しがない。どこに落ちてくるかなどわからないし、落下地点にいれたとしてもバットで救えるとも思えない。
という感じ。
変な話だけど、これでも充分わかりやすい。
もう一つの中編、『つぎの著者へつづく』はしかし、いつもの円城節が満載。こちらはあらすじを説明できないので、読んでみるしかない。
数ページで投げ出す人も多いかもしれないけど……w
芥川賞受賞で円城塔に興味をもったなら、まずこの本を読むといいかもしれない。
これで「意味わからん」などと言っていたら、受賞作の『道化師の蝶』は2ページも読めないだろう。
円城塔が描くのは、「人間」や「物語」よりも、小説の「構造」だ。
『道化師の蝶』はまさにそういう話らしい。「思考」の小説だと。
ちなみに「文芸円城」の作品だと思っていた『これはペンです』(これも芥川賞候補になった)は、SFの年刊ベストランキングで1位になった。
純文学とSFの境界線に立つというよりは、両方の場に同時に存在する作家といったほうがしっくりくる。
変わった話が読みたい人はどうぞ。