麻耶雄嵩 『メルカトルかく語りき』
- メルカトルかく語りき (講談社ノベルス)/麻耶 雄嵩
- ¥840
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久しぶりな《メルカトルシリーズ》の短編集。
自称「銘探偵」のメルカトル鮎(これが名前)のシリーズだけど、この探偵は稀代の悪徳探偵で、数多い探偵の中でも最悪の部類に入る嫌な奴なのだw
とにかく性格が悪くて自己中心的、自分の都合のためなら、誰が死のうがどうでもいい。自分が銘探偵でありさえすれば。
そんなメル(とワトソン役の美袋から呼ばれている)の性格をうまい具合に使ったミステリー。
ミステリーとはいえ、これはどう考えてもアンチミステリーだ。正当な「推理小説」とはとても言えまい。
(※この辺、ややネタバレになるので注意)
なんせ、「次の犠牲者が出れば自動的に誰が犯人かわかるから、黙って静観してる」とか、「これは確かに殺人事件だけど、犯人はいない」とか、「犯人は君か僕で、そのどちらでもないというのなら事件をなかったことにしてしまおう」とか言ったりするのだ。
メルカトルの言うことは、絶対だから。
なぜこれがミステリーとして評価されているかといえば、その不条理さは、完璧なまでの論理性で成り立っているからだ。
要は、探偵が論理的に「犯人は存在しない」と結論付け、確かにそれ以外は考えられない。でも殺人は起こっている。
なので、「……どういうこと???」と、唖然となる。
あまりにアンチ過ぎて、逆に本格ミステリーとして評価されてしまうという、とんでもない代物だ。
例えば、マジシャンが物理的にありえないマジックを披露して、「タネも仕掛けもございません」と言う。誰がどう調べても、確かにタネはない。だけど現象としてはありえない。でもタネはない。
??????
という顔をして、茫然と岐路につくしかないお客。そんな気分。
無茶苦茶だ。だけどそれが面白い。
少しでも遊び心がある人ならば楽しめること間違いなしのミステリー。
頭の固い人は怒り出すかもしれないけどw