小川一水 『時砂の王』
- 時砂の王 (ハヤカワ文庫JA)/小川 一水
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小川一水の時間SF。
異星からやってきた「ET」と呼ばれる人類殺戮機械群に蹂躙され、滅亡に瀕している未来の地球。
人類は「メッセンジャー」という人型機械兵士でこれに応戦していた。
ETはやがて時間遡行技術を身につけ、過去に戻って人類の祖先を殲滅しようと目論んだ。
メッセンジャー側もこれに応戦して時間遡行を行うが、過去に戻っての戦争は歴史改変にも繋がる行為だ。
そのため、正史は幾度となく改変され、結果的に時間枝は肥大し、いくつもの並行世界ができてしまった。
主人公のメッセンジャー「オーヴィル」は、元いた世界には二度と帰れない。そもそもそんな世界など無かったことになってしまったからだ。
そしてオーヴィルは、時間遡行の最終地点、邪馬台国の時代に降り立ち、女王卑弥呼に出会う。
というのが序盤のあらすじ。
ここから、邪馬台国で卑弥呼と共同してETを倒していくパートと、オーヴィルの過去とがカットバックで描写されていく。
これはもう、設定の勝利と言えよう。
この複雑な時間SFがもたらす感動と熱気が、コンパクトに収まっている点も素晴らしい。(300ページもないのだ)
壮大なスケールの長編(中編?)だが、オーヴィルが絶望の中にあっても任務を遂行し続けることができたのは、人類への奉仕を超える、ただ一人の女性への尽きることない想いだった。
難しい時間SF理論が理解できなくても楽しく読めます。
短い話なので、ちょっとSFチックな(でも面白い)ものが読んでみたくなったときなどにおススメ。