ジョン・クロウリー 『エンジン・サマー』
- エンジン・サマー (扶桑社ミステリー)/ジョン クロウリー
- ¥980
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SF/ファンタジーの名手、ジョン・クロウリーの名作。
文明崩壊後の遠未来のアメリカ。
主人公が〈天使〉と呼ばれる存在に語りかけるモノローグ形式で物語は進んでいく。
とにかく寓意が満載で、時折なにを読んでいるのかわからなくなるほどだw
登場人物の名前も秀逸で、主人公は〈しゃべる灯心草〉と書いて「ラッシュ・ザット・スピークス」と読む。
ヒロインは〈一日一度〉と書いて「ワンス・ア・デイ」と読む。
他にも変わった名前の人物が出てきて、地球の話なのに、異世界ファンタジーを読んでいるかのような錯覚を覚える。
だがその地球は大きく変貌している。
《嵐》と呼ばれる大災害のあとの、別世界のような地球なのだ。
その中に出てくる〈天使〉という存在。
読み進めていくと、この〈天使〉は、文明崩壊前に人間たちのことだとわかる。
冒頭で主人公は、なぜどのような経緯でこの〈天使〉に物語を語っているのか。
最後に判明する事実に、胸が苦しくなることうけあいだ。
それにしても読むのに時間がかかった。
あまりにも寓意が含まれすぎていて、まるで誰かの夢を除いているかのように思える。
それでいてこの物語は紛れもなくSFなのであり、論理的な統合性があるから厄介なのだ。
正直、巻末の解説(訳者あとがき)がなかったら、ちょっとキツイかもしれないw
作者のジョン・クロウリーはベテランの作家で、ここしばらくは邦訳が出ていない。
だけど近々、『古代の遺物』という短編集が出るとのこと。
ずーっと前から「出るよ」と言われ続けている『エヂプト』の刊行も期待したいし、絶版になっている『リトル・ビッグ』の復刊も望ましい。