京極夏彦 『ルー=ガルー《忌避すべき狼》』



分冊文庫版 ルー=ガルー《忌避すべき狼》(上) (講談社文庫)/京極 夏彦
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ちょっと前にようやく文庫化された作品だが、自分は約七年前に徳間ノベルス版を読んだ。



続編が刊行されたとのことで、復習のために久しぶりの再読である。



かなり長い話だけど、結構内容は覚えていた。




舞台は近未来の日本。人々は物理的なコミュニケーションをやめ、端末と呼ばれる機器でのみ世界を見ている。



そんな無機質な世界で生きていた少女たちの物語。



「端末」とは、いまで言う「パソコン」と「スマートフォン」のようなものだと思う。



パソコンはともかく、スマホのことまで予見していたのは慧眼だ。(これが書かれたのは約十年前)



そのうちこの物語のような世界になるのではないかという気がする。



何もかも端末さえあれば済む。しかし代わりに、個人の情報はすべて管理されている。もちろん容易く盗み見ることはできないが、緊急の場合であれば警察などは閲覧可能なのだ。



悪くはない。悪くはないが、おそらくそれは「死んだように生きる」状況に近いのではないだろうか。



動物も殺さない。食べる為に殺すこともしない。

食材はすべて合成食材だ。本物に限りなく近い、偽物。



本文にも出てくる表現だが、「人間は動物をやめた」世界だ。



食物連鎖の鎖から外れて、人間は「人間」でしかなくなった。異質な生物に。




しかしそんな中でも人は人を殺す。



事件に巻き込まれた少女たちは、事件を通してそれを、「人間」を知る。本来の「人間」の姿を。





事件のあとの少女たちが気になる。続編にも期待。