市川春子 『25時のバカンス』



25時のバカンス 市川春子作品集(2) (アフタヌーンKC)/市川 春子
¥620
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漫画は《読んだ本》の勘定に入れないつもりなんだけど、この作者の本は別格。



前作品集、『虫と歌』に続く第二作品集。



表題作『25時のバカンス(前後編)』と、『パンドラにて』、『月の葬式』の三編を収録。




まず、装丁からして素晴らしい。

柔らかで上品な紙質。画像ではわかりにくいけど、紋様のように浮き出た模様(触るとわかる)。そして幻想的な絵。

ちなみにこの素晴らしい装丁は作者自身の手によるもの。



そして中身はそれ以上に素晴らしい。



軽いけどそこに色んな想いが内包されているセンス溢れるセリフ。

様々な事象や想いを決して語らず、たったひとコマの絵で表現してしまう才能。

日常の中に当然のような顔をして潜んだSF的ガジェットの妙。

とにかく素晴らしい。



なんというか、『マンガ』よりも『文学』と呼んだほうがしっくりくる。一度ではなく、何度も読むことによって、言葉では語られていない登場人物の機微を察することができる。

それは「わかる」ではなくて、「察する」なのだ。



それほどにこの漫画は、コマで魅せる。語らずに語る。



何よりもそのセンス。ホント凄い。真似しようと思っても多分無理。



こんな本をたった620円で売っていいのか、と本気で思うw

もしこれが小説の単行本と同じ値段(1500円~2000円)だったとしても、躊躇せずに買うと言い切れるね。




前作の『虫と歌』よりもSF要素が多くなってるのも、SF好きとしては嬉しい。



でもSFがわからなくてもまったく問題はない。主題はそこではなくて、あくまで『人間』であり、『感情』であるからだ。



この登場人物はみんな寂しい。



寂しさがあるから、物語が生まれる。




次の作品集が待ち遠しい。