橋本紡 『九つの、物語』



九つの、物語 (集英社文庫)/橋本 紡
¥650
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タイトル通り、九つの短編からなる連作長編。



この著者特有の優しい視点と、ふんわりした文章で、穏やかな気持ちにさせられる。



大学生の主人公「ゆきな」の元に、兄が帰ってくるのだが、その兄は実は……。



という少しファンタジックな要素もある内容だけど、主点はそこではなく、優しさや喪失、そして成長にある。




物語の最後のほうの印象的だった一文を引用。




《ああ小説とは、と思った。どこかの誰かが書いただけの話。まったくの作り話。それがなぜか、絶妙のタイミングで、心に飛び込んでくる。とても不思議なことだ。そして、とても大切なことだ。わたしはその古びた本を、ぎゅっと抱きしめた。》




そうなのだ。たくさん本を読んでいると、そういうことが割りとある。



「おおまさに、今の自分の心境(あるいは状況)とぴったり」ということが。



内容は全然違うのに、同じテーマが三冊くらい続いてしまうときもある。実に不思議だ。



別に運命論者ではないけど、「巡り合わせ」なのかなぁとも思う。



本当に何かを好きになり、夢中になると、そういった巡り合わせに出会うものなのだ。