有川浩 『シアター!』



シアター! (メディアワークス文庫)/有川 浩
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中規模アマチュア劇団が、存続の危機を賭けて奮闘する青春演劇小説。



いや面白かった。



重い話ではないのに、ここまで『人間』を描けるのはすごい。



心を揺さぶられる言葉がたくさんあった。



演劇業界や、その筋(芸能界)の内実も少し知ることができる。



表現者、創る側の人間、見知らぬ誰かに自分を知られている状態という、普通では味わえない経験をしている人達のドラマ。




印象に残った文を紹介。



『よくそんな歯の浮くようなことを真顔で。そんなふうに思ってしまうの作らない者の感覚だ。作る者たちにとってはそれが歯が浮くような絵空事ではなく、噛みしめる事実なのだろう』



劇団員ではない部外者の兄が、チケットが完売して大喜びする劇団員を見て思ったセリフ。



『ああ、圧倒的な歓喜の表情は最後は涙にたどり着くのか。たった一人でそれを傍観しながらそんなことを思った。テレビの中なら見たことがある、しかしそれは多くの人間にとってフィクションだ。テレビで見たことがあるから知っている、という程度の。

関わった全員で驚喜し、はしゃぎ、泣き出すようなことを、一体どれだけの人間が死ぬまでに経験するだろう。

そして彼らをいま傍観している自分は、外からどれだけ手を貸していようとやはり部外者なのだと改めて思った』



この文を読んだとき、なぜか少し切なくなった。



自分もこの兄と同じ、部外者でしかないと思い知らされたからかもしれない。



そっち側(作る側)に行きたい、と思ってしまったからかもしれない。




続編の『シアター!2』も読もうと思います。