久しぶりの、読んだ本紹介。



冲方丁の、『マルドゥック・スクランブル〔完全版〕』



マルドゥック・スクランブル The 1st Compression 〔完全版〕 (ハヤカワ文庫JA)/冲方 丁
¥735
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全3巻の本です。



2003年に出版された『マルドゥック・スクランブル』を全面改稿した2010バージョンの〔完全版〕。



旧版を読んだのがだいぶ前なので、細かな違いはわからないけども、凄まじい熱量の物語であることは間違いない。



企業の姦計により焼き殺されそうになった少女娼婦ルーン=バロット(主人公)は、禁じられた科学技術『スクランブルO9(オーナイン)』によって、人体改造を施された身体で蘇った。



言葉を話し、何にでも姿を変える金色のネズミ、ウフコック=ペンティーノと、技術屋ドクターイースターと共に、自らの事件を解決に乗り出す。



復讐譚、というよりも、バロットの成長がテーマ。



この本は、旧版が出たときに『日本SF大賞』という賞を受賞しているが、もうどんな賞でもあげたくなるくらいに素晴しい。


直木賞だろうが、山本周五郎賞だろうが、本屋大賞だろうが(2003年当時は本屋大賞はなかったけど)。

とにかくこの本がSF関係の賞しかとっていないことが信じられない。

(ちなみに著者は、時代小説『天地明察』で本屋大賞と吉川英治文学新人賞をとり、直木賞候補にもなった)



感動する。



それは、良くある『病気の恋人が云々』で感じるような表面的な感動ではなく、読み終えたあとに、『今この本に、一人の人間の悲しみや苦しみ、そして希望を確かに見た』と、心底感じるような深い感動だ。



SFだから、といって敬遠されるのはもったいなさすぎる傑作。



決して気軽に読める本ではないけれど、人生で一度は読むべき本だと思う。(褒めすぎか?w)




本筋とは関係ないけど(主人公が、ふと回想する描写)、なんとなく気に入ったフレーズを引用してみる。




以前観たテレビのトークショーで映画女優が語ったことを思い出した。



「多くの女優が行っているが、あなたは顔の皺を除去する整形手術をしないのか」という記者の質問に、その女優は、「この皺は、苦労して手に入れたのよ」と笑って答えていた。



ポルノ女優から映画女優へ、さらには大スターになった女性だった。彼女に自分を重ね、憧れる気持ちがないわけではなかった。だがそれ以上に、女が手にいれ、誇るべきものがあるとしたら、まさしく『それ』だと納得させられるような雰囲気が、その女優にはあった。



この女優の言葉。

こんな言葉を言えるような人間になりたいものだ。




そしてこの本が気に入ったのなら、『マルドゥック』シリーズ続編にして前日譚の、『マルドゥック・ヴェロシティ』も読んだほうがいい。



物語の凄惨さでは『スクランブル』を超えるかもしれない傑作。



『スクランブル』がどん底から希望へと這い上がる物語なら、『ヴェロシティ』は地獄から虚無へ堕ちていく物語。



そして完結編のシリーズ3作目、『マルドゥック・アノニマス』の予告篇が『SFマガジン12月号』に掲載されている。



『無名のネズミによる、ガス室からの最後のレポート』という衝撃の内容。



出版は来年らしいが、楽しみのような恐いようなw




『スクランブル』のアニメ映画ももうすぐ公開になる。



ぜひ観たい。