$心貧しきくそったれの足跡

入国審査を受けた後、タクシー乗り場に向かう
北欧の冬の寒さは半端ではない、用意しておいたカシミアのマフラーを取り出すと首に巻いた。

ロビーを出ると、タクシーが並んでいた。
先頭のベンツに声を掛ける

「ホテル チューリップ・インまで」

ジプシーの血が混ざった濃い顔の彼は、無言でカートをトランクに入れた。
タクシーに乗り込むと灰色の大きな空を眺めながらポケットに入っている煙草を探した。

“May I Smoke?”

運転手に聞くと、彼が意味ありげな表情でこっちをまじまじと見てきた。
煙草に火をつけると、突然彼が笑い出した。

「な~んだ、XXXXかと思ったよ、ほれ」

と言って新鮮なバッズを取り出した。

「クリスタル・ボムって言うんだ、これを一日3g」

おいおいこの車大丈夫かよ?

笑ってやり過ごした・・・・・

そうこうしているとダム広場に到着、彼にプラス€10のチップを払いホテルへ急ぐ。

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チューリップ・イン

この響き大好き、ロビーに入るとフロントには前回の旅で仲良くなった、サンドラがいた。

「待ってたのよ、予約が入った時びっくりしたわ」

「君に逢いたくて戻って来たんだ」

彼女の熱い接吻で俺のシフトはトップギアに入った。

「鍵を取ってくるわ」

彼女のアンダーバストからヒップにかけての黄金比に感激していると、頬をベリーニ色に染めながら帰ってきた。

彼女に案内され部屋に入り倒れるようにしてベットへなだれ込むと、お互いの体を狂ったように貪りあっていた。

ふと、我に返り彼女に聞く

「フロント誰もいないよ?」

「そんな昔のこと?忘れたわ・・・」

サンドラ・マジャーニ22歳、オランダ娘にしてはちょっと小柄のいい女なのでR


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ハルシオンのおかげで彼女とはあまり喋らずに済んだ。

飛行機がスキポール空港に着陸すると彼女が聞いてきた。

「貴方、どこに行くの?」

「アムスだよ」

「相変わらずね、私はバルセロナ、遊びに来てよ絶対!」

そう言うと彼女は携帯番号の入っている名刺を渡した。
どうやら、スペインの食材を貿易する会社の社長らしい・・・

「わかった、必ず行く、レストランの予約頼むよ」

「本当調子いいわね、ダーリン」

「ダーリンは止めてくれ、ジュリーじゃないんだから」

そんな訳で彼女と別れた。
俺のエルドラドは見つかるのだろうか?

南米ではなく北欧で・・・

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機内に入りブーツと靴下を脱ぎ、雪駄に履き替える
今日のビジネスクラスは空いてるようだ。
キャビンアテンダトに暖かいおしぼりを貰い顔を拭いていると

「ここのお席、空いてますか?」

声をかけられた。
振り返ると香港の女・・・
何故か、、、文香がニヤニヤしながら立っていた。

「空いてるけど、ここは君の席なの?」

半分気づかない振りをしながらからかってみる

「どうだっていいじゃない?じゃあ貴方、私が貸した30万返してよ」

・・忘れていた・・・

彼女の悪戯で愛嬌がある瞳は枯れていないようだった。
文香とは3回付き合って3回別れた、それも俺の方から・・・
森瑶子と村上春樹が好だった彼女は、細い腕に古いパシャを巻いていた。

「その時計、まだしてるんだ」

「そうよダーリン」

困った奴だ・・・、古いパシャは万馬券を取った記念にプレゼントした物だった。
森瑶子の小説に出てくる主人公がしている時計で、彼女は当時そういう女に憧れいて、寝ている彼女の腕にこっそり巻いてあげた物だった。

食事の作法、カクテル、東京を教えてくれた文香は、いい女風に仕上がっていた。

「そうだ!俺、ハルシオン持って来たんだよね」

「貴方、もしかして寝る気なの?」

「ほら、家宝は寝て待てって言うじゃん、美容にも良くないよ」

「じゃあ、ここ上げて」

彼女は強引に肘掛を上げて、俺のブランケットに潜り込んで来た。
どうやら悪夢が始まりそうである・・・

バスを降り煙草に火をつけた。
くわえたまま北ウイングへ向かう、入り口近くの灰皿に煙草を捨てると、ニコレットを一つ口に入れた。

中に入りKLMのカウンターでチェックインを済ませ、€500だけ両替した。

成田にはたくさんの思い出が詰まっている・・・

初めての海外旅行も成田からだった。
18の時付き合っていた女に連れられて香港に行った。
そんなことを考えていると、The Cureが聴きたくなってラップトップの電源をいれた、Jast like hevenの不思議なメロディーとろば男のヴォーカル・・・中学生だった頃のヨーロッパが、約束の地であることを思い出させた・・・




純粋だった頃は毎日が感動の連続だった。
新しい知識を得ることに明け暮れ、驚きと情熱に満ちた世界は、とても不可解で美しく輝いて見えた。

時間というのは不変の存在である、人生は短く余生は長い

ふとラップトップに目をやると、ろば男が俺にキスを迫っていた
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午前4:32
ディケムの淫美な残り香を嗅ぎながら目を覚ます。
昨日の食器を洗い終え、TUMIのラージ・ラップトップ・スリーブにバイオを突っ込み、ガーメントにJIL SANDARのスーツを入れる

準備完了、n°44のミリタリーコートを纏いダナー・ライト・ブラックを履き玄関を開けた。

頬を突くような寒さと戦いながら箱崎へ
バスターミナルのエスカレーターを上りチケットを購入した。
誰もいない待合所でコンビニで買ったカフェラテ・ノンシュガーにストローを入れた。

どうやら俺は本気で日本を離れるらしい・・・
事実に押し潰されるのを避けて逃げているのか?

・・・・・・・・・・・・・

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午後7:26
パスタを茹でる鍋にお湯を沸かしていると、柴田がチケットを持ってきた。

「チーフお疲れ様でーすっ」

「お前そのチーフってのやめろよ」

「でも、チーフはチーフじゃないですか」

まぁ、いいか・・・

そんな感じで今日はカラスミのスパゲッティーニと安いシャサーニュ・モンラッシェで軽く

冷えた白ワインとカラスミのスパゲッティーニで胃袋を満たしながら、とっておきのメインに移る

ラギヨールのソムリエナイフで慎重にディケムを空ける
ロックフォールを適度な大きさに切って盛り付け・・・

it's show time!



ディケムをグラスに注ぐとそこは、秘密めいた神秘の食卓へと進化した。
限りなく美味い・・・、純粋でいくつもの詩を奏でるワインは、時間を追うごとによって裏切りのような甘さと禁断の香りに満ちていて、青かびとのマリアージュを完璧に告げていた。

彼と目を丸くしながら笑いあい、そして友情を誓い合った。

収穫の夜は突然終わる

「チーフ帰って来て下さいね」

どうやら小心者の俺は、破天荒に見えるらしい
午後4:36
2ℓの水と3杯の珈琲、生卵一つにキャンベルのクラムチャウダーと(有)ブルーマンのトマトジュース、ボンベイサファイヤが効いて酒が抜ける。

銀座にチーズを買いに行こうと決心しシャワーを浴びる、お気に入りのボディショップのシャワージェルで体を洗うとシャンパンの香りに包まれた。

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タオル地のバスローブを羽織りながら、今日はあいつの為にシャトー・ディケム89年ものを空けようと決心する
セラーから出して状態をみると、デブにはエロティック過ぎるかなと考えがぶれ始めた。
ロックフォールとこいつの相性は抜群にいい、改めて決心しなおすとセラーに静かに戻した。

最近買ったアルマーニの紺色のスーツに初めて袖を通し、白いシャツを合わせ淡い紫色のマフラーを首に巻いた、ジョンロブの靴さえ履けば問題ないだろう。
最後にBurbereey Brit For Menを一振り

・・・・・寒い・・・

半蔵門線に乗ると、急にいろんな匂いが俺を襲ってきた。
ギャルの甘い香水の匂いとおやじの加齢臭
トビそうなくらい・・・ある意味・・凄かった。

乗換えを済ませ銀座で降り、プランタン地下のアロマッシモに向かう。
店内に入り、ロックフォールA・O・Cをセレクト
急いで支払いを済ませ駅に戻った。

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明日からアムスだ。

ヨーロッパは鉄道旅行に限る、地域によって変わる風景と日本とは違う植物の移り変わりの中で、傍観者として存在することが出来る。
パリからTGVでモンサンミッシェルに続く線路は、ストイックで美しい自然を感じることが出来た。

元部下“S”にEuril Passの購入を頼んだ。


彼は昔会社員だったころ、俺が入社させ一人前にして、そして彼に全てを任した。
アメコミ好きの眼鏡を掛けた可愛いデブだ。

俺が店を辞める時彼は、

「チーフ本当にやめるんですか?」

と言って汚い顔で涙をにじませていた。

先ほど電話で、優しくて張りのある彼の声を聞くと俺への忠誠心が伝わってきた。
こんな俺でもまだまだ彼には“王子”らしい・・・
午前6時

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ブルースを聴きながら酒を浴びるように飲む
傍らに寝そべる淫売
彼女の寝息とブルースがありえない角度でハーモニーしながら深川の朝を堕落させていた。

悲しみを快楽で乗り切るのはやめにしよう・・・

ラップトップを開きKLMのホームページに飛ぶ
鮮やかな水色に目を細めながら予約フォーマットに人差し指だけで入力
30日、東京成田発 アムステルダム スキポール行きのチケットを予約すると、彼女の尻を枕代わりに寝てしまった。

$心貧しきくそったれの足跡

俺は浅い眠りの中でゲンズブールの夢を見た。
彼はジタンに火をつけて、スウィートベルモットで喉を湿らせた後、俺に言った。

「人生で大切なこと、まずメイクラヴ、そして酒、煙草、またメイクラヴ、次にシャルロット。最後に死を待つこと」

彼は汚れていて、いやらしい目つきで泣いていた。

彼女の尻から滑り落ちながら目を覚ますと、やかんでお湯を沸かす。
ブラジル・サントスを荒く挽いたコーヒー豆を、ネルのフィルターに6杯
二人分のお湯を注ぎ女を起こす。

生まれたままの姿で彼女は目をこすりながら言った。

「どうしてこんなに早いの?私ってじゃまかしら?」

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かあちゃんがよく言ったもんさ
俺がまだ半ズボンはいて膝小僧出して遊んでいるころだったけど
かあちゃんがよく言ったもんさ「いいかい、おまえ
女は甘い言葉で誘ってね、おまえに色目を使うんだよ
でも猫撫で声もそのときだけさ
女は嘘つきで厄介なもの
おまえなんか置いてどっかいっちまって
おまえは独り夜にとり残されてブルースを歌うことになるんだよ

ほら、雨が降ってきたぜ、汽車がカッタンと呼んでらぁ
(かあちゃんがよく言ったもんさ)
あの汽車の寂しい音が線路の土堤をよぎって吹きぬけるのを聴きなって
カッタン(かあちゃんがよく言ったもんさ)
古ぼけた線路がカッタンコットンと鳴ってさ
夜の静まにブルースを響かせてるのがここまで聞こえてくらぁな

して月のひかりを隠し始めようもんなら
そんな夜は誰だってブルースに包まれちまう
俺の言うことを聞きなって
そんな夜はきまってものまね鳥が悲しい悲しい歌を囀り始める
奴はこんな夜はなにもかもうまくいきっこないって言うのさ
でも奴の言うとおりだよ

ナッチェズからモウビールまでメンフィスからセント・ジョウまで
四方八方の大きな町なら
俺がいってないとこなんてないくらいだ
そしてへらず口たたくやつの話を随分聞いてきたがね
でもね、一つだけ確かなことがあるよ
女は嘘つきで厄介なもの
おまえなんか置いてどっかいっちまって
おまえは独りブルースを歌うはめになるんだよ

かあちゃんは正しかったよ
だって夜はいつもブルースでいっぱいさ