デパートを出ると友人のH氏が所有する、レンブラント広場に近いアパルトマンに向かう
若い頃先物取引で財を成した彼は、余生を十分楽しめる物を全て用意して5年前にリタイアした男だった。
同じアパートに二つ部屋を所有しているかれは、自宅とパーティールームに改造しているのだったその名も“NOBY ams.”
茶目っ気のある彼はNY.Yankees のキャップを後ろに被り、タイダイのコックの制服で迎えてくれた。

「なんかHさん、デッドヘッドの成れの果てみたいですね」

「自分との対話が大事なんだ、今日はあき~むちゃんの為にベルーガのキャビアとサロン88’を用意してるよ」

と切り返された・・・

「ピースだねぇ~」

NOBY ams.に入るとそこは、昭和の日本があった・・・
驚く彼女のコートを預かり、自分のコートとそれぞれ木で出来たハンガーに掛けた。
彼女にふかふかの座布団を出してやる、ちゃぶ台の前に二人で腰を落ち着ける

「なんか不思議な空間ね」
「これが日本なの?テクノポリスだと思っていたわ」

彼女は一瞬だけ無防備な表情を見せてくれた。

俺は昔の中産階級の一般的なお茶の間を、なんとか伝えようと努力したのだが、無駄に終わった。
そうこうしていると、H氏がたっぷりエシレバターを塗ったライ麦パンとたっぷりのキャビア、サロン88’ を持ってきた。

器用な手つきでシャンパンを空けると、小ぶりで華奢なワイングラスへそっと注いだ。


$心貧しきくそったれの足跡


“GUREEN HOUSE”の店内に入りペルノを水割りで注文すると、彼女の上がりの時間をゴロワーズを吸いながら待った・・・

・・彼女は上がりの時間ピッタリに、ロッカールームからニコリともせずに出てきた。

年季の入った体に張り付くようなコートは、彼女の野性味をブーストさせていた。
コートの下から覘かせる、黒光りしたエナメルのブーツに罪深き肉体を隠して



店を出るとDe BijenkorfのGiorgio Armaniに入る、店員が綺麗な形のワンピースを5、6着持って来ると、彼女がモデルのショーが始まった。

彼女はどれも驚くくらいの抜群のセンスで着こなしていた。

「服で女が映えるんじゃない、女で服が映えるんだ」

名言どおりの課題を見事に克服した彼女は、3着のワンピースと2足のFerragamoのパンプスとゆったりめの黒いコートを手に入れた。
白いAラインのワンピースに着替えさせ、残りは彼女のアパートメントに送ってもらえないだろうか?と店員に頼むと快く引き受けてくれた。

小娘がレディに転生した・・・
$心貧しきくそったれの足跡


一旦店を出て我が宿屋“Turip Inn”に戻る
鼻歌交じりに鍵を開けて部屋に入ると、ベットに置手紙があった。

“I miss you”

短い一言だけの手紙に動揺して、緊張感から一気にしらふに覚める
あの黄金比は捨てがたかったが、アメコミブリーフはごめんだった。

バスタブにお湯を張ると、シャネルのアンテウスを少々混ぜる
戦士は戦いの前に鎧兜に香を炊くと言うが、アンテウスの香りは武士道の教えに導いた。

「武士は食わねど高楊枝」

どうやらまだ抜けてないらしい・・・

備え付けのドライアーで髪を乾かし髭をそる、JIL SANDERの白いシャツと黒のスーツにジョンロブのストレートチップを合わせると、俺のシフトはマキシマムだった。

・・・・英雄色好む・・・・

スケベ心を勝手に解釈して、Old Englandのシングルカラーのコートを羽織ると“GREEN HOUSE”へ急いだ。

“BURNEy'S”を出るとボルドーカラーのマフラーを鼻まで上げる
けつバットのような骨まで沁みる寒さに、ふと正気に戻った気がした。

・・・サンドラすまぬ・・今日はカフェ巡りじゃ・・

そんな感じで“GREEN HOUSE”に足を向ける
途中何度か思い出し笑いをしながら、冷たい視線をミクリのサングラス越しに感じ、ビームとなって攻撃してくる視線をPASSIONで跳ね除ける

「グリーンハウス」

愛してます

ケミカルな光に彩られた店内は、ソドムのような怪しい影を残していた・・・
抜群に可愛いウェイトレスに一番近いカウンターに座ると、ゴロワーズをマッチでつける

「Heinekenをラージで」

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%8F%E3%82%A4%E3%83%8D%E3%82%B1%E3%83%B3

ミーハーだが、アムスで飲むHeinekenは格別に美味い、その爽やかな喉越しは後頭部を滑り落ちる

「ねぇ、坂本龍一のUndercooledが聴きたいんだけど」

「スペルは?」

「RYUICHI SAKAMOTO」

「了解、あんたがボスだ」

とおどけて魅せた。

Undercooledが掛かると彼女は初めて坂本龍一を聞いたようだった。
胡弓のオリエンタルな調べと韓国語ラップ、坂本のシンセ、リズムマシーンがアジアの音色を紡ぎだす・・・

可愛いヒップの黒髪の彼女は、新世界の海を渡った。
深い翡翠色をした瞳で、

「上がりは5時よ」

と誘ってきた・・・・
$心貧しきくそったれの足跡


サンドラへの言い訳を考えながらブーツを履いた。
8時過ぎに仕度を済ませホテルを出ると“BARNEy'S”に向かう、ダナーのグリップ力を楽しみながら歩いていると浮浪者が大型犬を3匹連れて物乞いをしていた。
余っていた小銭を彼の前に置いてる缶の中に入れると

「神のご加護を・・・、あの~煙草持ってる?」

図々しい奴である・・・。彼に何本か入っているゴロワーズを渡すと礼も言わずに火はないか?と聞いてきたので持っていたライターを放りその場を離れた。




“BARNEy'S”の薄い扉と格闘していると中から店員が開けてくれた。
朝からほぼ満席、俺はカウンターの空いてる席に座り、イングリッシュ・ブレックファーストをオムレツで注文し、オレンジジュースも頼んだ。

コートを脱ぎくつろぎながら待っていると、絞りたてのオレンジジュースを慣れない手つきで持ってきた、まだ新人だろう・・・
栗色の綺麗な髪に赤いセルフレームの眼鏡がとても似合っていた。

新しいゴロワーズの封を開けながら店内を見回す、客もスタッフもいい感じでとてもリラックスしていた、煙草に火をつけオレンジジュースを飲んでいるとunderworldのborn slippy nuxxが流れてきた・・・



「アムステルダムへようこそ」

born slippy nuxxの心地いい電子音に浸っていると、空間のリズムと繋がる一体感に固まった・・・
$心貧しきくそったれの足跡


午前6:00ジャストまでサンドラからの電話を待った。
ナイス・エイジはまだ寝てるらしい・・・

・・・湯船に熱いお湯を貯めながら、サンドラを想う・・・



“今、何をしているのだろう?何故俺は感覚の違いを受け入れられないのか?”
自分が信じたいことで、人生を組み立てようとすると失敗する、相手を思いやり尊重する・・・、わかっちゃいるけどやめられねぇ~、踊る阿呆に見る阿呆・・・。彼女でいいじゃないか・・後押しする言葉はあるのだが、決心はつかない。

電話が鳴っていた・・・暗がりでひっそりと・・・
泣きつかれた俺は、ベットに新しいシルクのパジャマで寝かせられていた。
目を覚ますとサンドラは、女性物のアメコミブリーフを穿いて、バードで踊っていた。



ザズーとギャルの足し算は理解不能だった・○×※▲□・・・・

灰皿に貯まった、長めののローチに火をつける。

//・・・ん~、なんか違う・・○×※▲□・・・・

キッチンへ行き、さっきの冷めてしまった渋い飲み残しの紅茶を一息に飲み干す。

俺には少々刺激が強すぎるようだ・・・

フリーザーの扉を開け、キンキンに冷えたアブソルートーをボトルのまま一口

$心貧しきくそったれの足跡


「じゃあ俺帰るよ明日、朝飯一緒に食おうぜ」

俺なりの優しい断り方をして、その場を去った。

ここはどこなんだろう?

北欧の風が骨まで沁みた・・・


$心貧しきくそったれの足跡
二人で河沿いを散歩していると、腹が減ってきた。
サンドラともその意識がリンクしたらしく

「パンケーキ作ってあげようか?」

パンケーキ、日本ではホットケーキ(死語?)

$心貧しきくそったれの足跡


国によって違うスタイルの食べ物、オランダ風パンケーキはバラエティーが豊富で現地語で“パネクックン”と呼ばれる。

ランチはベトナム料理でもと思ったのだが、サンドラの手料理も悪くない・・即答した。

でも俺は彼女の部屋に入ったことがない、どんなパンケーキが好きかも

比較的閑静な場所にあるアパートメントのようだ。

$心貧しきくそったれの足跡


・・・・・片付けられない女・・・

でもアロマキャンドルの香りで落ち着く、彼女は途中で買ったオレンジを3個を絞りジュースを作ってくれた。
林檎の砂糖漬けを瓶から摘み出し、それを丁寧に乗せてシナモンを振り掛け、最後にチョコレートチップを乗せた。

何故こうも海外のスパイスは香りが違うのだろう?
シナモンの香りが甘く砂糖漬けした林檎と焼きたてのパンケーキを、親しくプッシュアップしていく、更にチョコレートの官能的な香りで失神しそうになる

サンドラは後ろを向いて林檎をむき始めた。
螺旋状にできた林檎の皮は、ルクソールの鍋の中にvolvicと一緒に煮出された。
その煮出したお湯で彼女はアップルティーを入れてくれた。

アップルティーから立ち上る湯気に鼻を近づける
林檎の自然な香りと紅茶のマリアージュは奇跡をもたらしていた。
彼女はカルバドスを戸棚から出すと、シェリーグラスに注ぎ不適な笑みを浮かべた。


$心貧しきくそったれの足跡


カルバドス~パンケーキ~アップルティー=∞

完璧なタイミングでミリ単位で合わせる彼女は、写実的で神々しい光に包まれて見えた。

突然泣き出した俺を彼女は抱きしめてくれた。

「いいのよ、泣いて」

やわらかくてミルクの匂いを放つその体にしがみつきながら、

・・・・俺は泣き続けた・・・

君は俺の天使かと・・・

$心貧しきくそったれの足跡


彼女とほぼ同時に目覚めると、近くのカフェでホットチョコレートとブラウニーで朝食を取ることに決まった。

カフェの扉を開けるとそこは・・・

アムスだった。

ゆる~い音楽と暗い店内、リラックスしたウェイトレスが陽気に馴染みの悪ガキと笑っていた。


「あら?いらっしゃい、まだ旅行者なの?何にする?」

とメニューを持たずに近寄ってくる、褐色の素晴らしいその体は、生き物としての美しさを放っていた。

「ホットチョコレートとブラウニー二つ、旅行者だよ今回も」

ゴロワーズの香りに包まれながら待っていると、ホイップクリームたっぷりのホットチョコレートとブラウニーを持ってきてくれた。

「今日も綺麗だね、まだ永住権は貰えそうにないよ」

俺が甘えた目で見ながら言うと、彼女は意味ありげな笑みを残して去っていった。

まずホットチョコレートを一口、蒸気で温められた上質のミルクにちゃんと生クリームをホイップしたクリーム、暖かくて上質の甘さは俺の脳をノックした。

“Knock Knock ?”

彼女を見るとむくれてる

「冗談だよ、冷めないうちに飲もうよ」

素直な彼女は、聖母のような笑みで俺を許してくれた。

そんな朝のアムステルダム
世界中で一番好きな朝